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本当の魅力って何?
年齢に伴う衰えを感じると、若い頃の自分と比べて、できることなら"若さ"を取り戻したい、とつい思ってしまうものではないでしょうか。ただ、その手段として美容整形術がいいのかどうか。美容整形術に否定的な人から肯定的な人、あるいはメスを使わないならやってみたいという人など、意見はいろいろだと思いますが、実際の効果のほどが気になりますね。
大西睦子の健康論文ピックアップ53
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
現在、世界ではどれくらいの数の美容整形術が行われているでしょうか。国際美容外科学会 (International Society of Aesthetic Plastic Surgery: ISAPS)が、2011年に行われた世界の美容整形術の状況を報告したところによると、
美容整形手術の最も多い国は、アメリカで約311万件でした。日本は第4位で95万件です。2位はブラジルの145万件、3位は中国105万件、5位メキシコ79万件、6位はイタリア70万件、7位韓国65万件です。
さらに、イギリスの『The Economist』誌は、この結果を人口当りの手術件数にして報告しました。それによると、1位は韓国、引き続き2位はギリシャ、3位イタリア、4位アメリカ、5位コロンビア、6位台湾で、日本は7位でした。2011年の世界保険機構(WHO)の報告による人口統計を用いて計算をすると、韓国は人口1,000人当たり13.4件、日本は7.5件の整形手術が行われています。
ところで、美容整形手術には、外科的手法と非外科的手法があります。日本では、外科的手法は、1位が脂肪吸引、2位が豊胸術、3位が鼻形成術です。一方、非外科的手法は、1位ボトックス注射※1、2位ヒアルロン酸※2注入、3位レーザー脱毛※3です。アメリカでは、外科的手法は、1位が豊胸術、2位が脂肪吸引、3位が腹部形成術です。非外科的手法は、1位から3位まで日本と同様です。
さて、顔の美容整形手術をする大きな理由が、若々しく魅力的になるため、というものです。でも、実際どのくらい"若く"なれると思いますか?何より、どのくらい魅力的になれるのでしょうか?
これまでに、美容手術後に実際どのくらい効果があったのか、客観的、定量的に評価した文献は限られています。そこでニューヨーク、レノックス・ヒル病院のJoshua Zimm医師らは、小規模な研究によってそうした評価を行いました。その結果が先日、『JAMA Facial Plastic Surgery』誌に報告されました。
結論から言えば、この研究によると、顔の美容整形手術を受けた後の"若返り"の年齢は、多くの人が期待しているほどではないようです。
2006年7月から2010年7月に、顔の様々な整形手術を行った平均年齢57歳(42〜73歳)の49人の患者について、50人の全く見知らぬ人が、手術前後の2つの写真のいずれか一方を見て、写真人物の推定年齢と魅力度(1~10のスコア)を評価しました。各評価者が 術前後の両方ではなくどちらかの写真を評価し、同じ患者の前後の写真は見ていないのがポイントです。なお、術前後の写真は平均13ヶ月程度の間隔をおいて撮影され、撮影時にメイクアップやジュエリー着用は禁止されました。撮影の背景は術前後で同じように標準化され、同じ種類のカメラと写真撮影のテクニックが使用されました。
その結果、術前の写真は、実年齢より平均2.1歳若く評価され、術後の写真は、実年齢より平均5.2歳若く評価されました。ですから、平均して手術後の写真は平均3.1歳(--4.0歳〜9.4歳)若返って見えることになります。しかもほとんどの患者は、手術前の魅力度スコアを10点中4〜6点と評価されましたが、手術後もスコアに有意な変化は認められませんでした。
ところで、この研究結果は、どのくらい信頼性があると思いますか?
実際、年齢や魅力の変化を研究することは難しいと思います。なぜなら、これらの評価は、見る人の目に依存し、信頼性の高い方法で定量化するのが難しいからです。今回のように1〜10の段階評価で手術前後の魅力度を比較するのは、最良の方法ではなかったかもしれません。実際 ほとんどの人が、10点中、中間の4〜6点の範囲でした。さらに、この研究は小規模な研究であり、大規模な研究では、異なる結果になる可能性もあります。
さらに、2012年に報告された別の研究では、平均7歳も若返りしたのに、なぜ本研究ではわずかマイナス3歳だったのかも議論されています。 2つの研究で、手術のタイプが違うのかもしれません。今回の研究では、18人の患者が、眉や目のリフト※4だけで、顔全体のリフト(フェイスリフト)をしませんでした。
この結果は何を意味するのでしょうか?
今回の報告から考えると、美容整形術は実際のところ、人を、より若く、より魅力的に変化させることはないのかもしれませんね。ただし、美容整形手術で、自分自身フレッシュな気持ちになったり、疲れをとることができ、自信を取り戻すことで、幸福感や快適さを感じさせてくれるのかもしれません。すると、お洒落に気を使うようになったり、より活動的になったりして、ますます活き活き若々しくなると思います。
ですから本当に重要なのは、「私たちが自分自身についてどのように感じているか」、ということなんだと思います。魅力というのは、体のどこか一部の問題ではないというわけですね。体の動きや顔の表情、声、さらに心の動き、感情や考え方、行動など、様々な要素があるはずです。みんなと違うことが、魅力や個性となるか、もしくは欠点と映るか。皆さんはどう思いますか?