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カラメル色素に発がん性?

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先週は合成着色料について見てみました。今回は、合成着色料なのか天然着色料なのか、知っているようで意外と知らない「カラメル」色素について、です。

大西睦子の健康論文ピックアップ85

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


コーラなどに使われている「カラメル色素」が、がんの原因になるという噂を聞いたことはありませんか?

この噂がウソか本当か、と問われれば、結論としては「ウソではない」ようです。ただし、日本で「カラメル色素」と呼ばれているものには実はもともと4種類あって(そのこと自体、初耳の方も多いのでは?)、発がん性が問題になっているのはそのうち2種類。もっと言えば、両者に共通している色素成分「4-メチルイミダゾ-ル(4-methylimidazole:4-MEI)」が"発がん性"の噂の張本人です。4-MEIは主に、コーラなどをカラメル色(要はこげ茶色)にするために使用されています。

今回は、世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(INTERNATIONAL AGENCY FOR RESEARCH ON CANCER:IARC)の資料を参考に、4-MEIの発がん性について考えたいと思います。

International Agency for Research on Cancer (IARC)
IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans,Volume101.


【カラメル色素】

まず、「4種類ある」と書いたカラメル色素について簡単にまとめておきますね。カラメル色素は食品や飲料に含まれていますが、IARC資料によればその使用量は、食品への使用が許可されている色素添加物の95%を占めています(重量換算)。

FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)と、食品のための欧州連合科学委員会は、カラメル色素をクラス1~4の4つに分類しています。

カラメル1は、昔ながらの方法で糖類を加熱して作られます。これに対してカラメル2~4は工場で、砂糖だけでなくアンモニアや亜硫酸塩等を加えて、高圧・高温下で化学反応を起こさせて製造します。カラメル2は、糖類と亜硫酸化合物を加熱して作られますが、アンモニウム化合物は使用していません。カラメル3は、糖類とアンモニウム化合物を加熱して作られ、亜硫酸化合物は使われていません。カラメル4は、糖類に亜硫酸とアンモニウム化合物の両方を加え、加熱して作られます。

一口に「カラメル色素」と言ってもこのような違いがあるのです。しかしながら冒頭でも触れた通り、日本ではカラメル1のような自然色であっても、カラメル2~4のような合成着色料であっても、「着色料(カラメル)」または「カラメル色素」と記載されます。表示上の区別はありません。

アメリカでも、安全な自然色から、発がん性が懸念されている人工着色料まで、カラメル色の飲食物に対してすべて同じカラメル色と記載しています。実際はクラス1〜4の段階があるので、今後クラスの記載を求める声があります。


区別しなくても問題がないならいいのですが、そうもいきません。砂糖とアンモニアの化学反応によって、4-MEIが生成されることが報告されているのです。砂糖とアンモニアを高濃度、高温、かつ水分が多い状態で長時間反応させると、4-MEIの量が増加します。

先の通り、カラメル3とカラメル4は製造過程でアンモニアを加えています。カラメル3は一般に、パンなどのベーカリー製品、様々なソース類、スープ類、酢やビールなどに使われ、米国のカラメル色素総使用量の20〜25%を、欧州では約60%を占めています。カラメル4は清涼飲料やペットフード、スープ等に使用されていて、世界中で生産されるカラメル色素の約70%を占めています。


【4-メチルイミダゾ-ル(4-MEI)】

4-MEIは天然には生成されません。食品添加物を始め、医薬品の原料や成分、写真および写真用の化学薬品、染料や顔料、農薬、ゴムなどに使用されています。

ある調査では、商業用カラメル3色素40製品の4-MEI濃度は5〜184mg/kgで、JECFAのガイドラインを満たしていました。ところが他の研究ではより高い濃度も報告され、最高値は463mg/kgでした。

カラメル4では、概してより高い濃度の4-MEIが報告されています。商業用カラメル4色素90製品では、4-MEI濃度は112から1276mg/kgの範囲でした。

また、食事から摂取したカラメル色素が体外に排泄されるまでの期間、その人の体はカラメル色素にさらされている状態となります(「暴露」と言います)。ヨーロッパ11カ国での分析データによると、1~10歳の子供が食事からカラメル色素を摂取した場合に推定される暴露の中央値は、カラメル4が一日あたり4.3~41 mg/kg、カラメル3は32〜105 mg/kgでした。

また、様々な加工食品や飲料の4-MEI濃度を測定したところ、黒ビール1.58〜28.03 mg/kg、コーヒー0.3〜1.45 mg/kg、炭酸飲料0.30〜0.36mg/Lでした。別の調査結果では、最大レベルがウスターソース(最大3.4 mg/kg)および醤油で調理した食品(最大3.2mg/kg)で報告されました。なお、欧州委員会とJECFAによる基準では、カラメル3とカラメル4に含まれる4-MEI濃度の最大レベルは250mg/kg以下に制限されるべきとしています。

米国では、コーラなど、カラメル色素を使用した清涼飲料水が多く売られています。カリフォルニア州では清涼飲料水の4-MEIのレベルを1缶もしくは1ボトル当たり29μg(=0.029㎎)までとし、それ以上の場合は、がん警告の表示を法律で義務付けました。なぜなら、それ以上の4-MEIを消費すると、10万人に1人がんを発症する可能性があるからです。

米国の消費者団体である公益科学センターが、売れ筋の清涼飲料水の4-MEIレベルを調査したところ、カリフォルニア州とニューヨークで購入したPepsi OneとMalta Goyaという商品の4-MEIのレベルが29μgを超えていました。

この結果に対してアメリカの飲料協会は、飲料は安全で消費者は安心してよいこと、またFDA(アメリカ食品医薬品局)は健康上の懸念はないと指摘している旨、声明を出しました。ただ一方、今年1月の時点で公益科学センターがとある飲料メーカーに問い合わせたところ、「わが社では、カリフォルニアで4-MEIの上限が定められてすぐ対応に乗り出しました。今、4-MEI含有量の少ない清涼飲料水を生産しており、2月までには全米で商品が切り替わるでしょう」との回答を得ました。ちなみに、カリフォルニア州が飲料1本当たりの4-MEI量に上限を設けたのは、もう2年も前のことです。

ConsumerReports.org
Caramel color: The health risk that may be in your soda


【カラメル色素以外からの4-MEI暴露】

さて、4-MEIはカラメル色素3・4以外を通じて私たちの体内に入って来ることもあります。

干し草や藁等の飼料は、品質向上などを目的にアンモニア処理されます。これまでの報告によると、4-MEIは未処理の粗飼料にはほぼ存在しませんでしたが、熱やアンモニアで処理された飼料中には8〜43 mg/kgの濃度で存在しました。

例えば牛や羊のミルクです。これまでに4-MEIは、アンモニア処理した飼料を与えられた牛や羊の血漿や尿、乳汁から検出されています。アンモニア処理した飼料(90μg/g乾物)を与えられたメス羊の血漿中濃度は、0.07μg/ mL、ミルク0.23-0.31μg/mL、および尿中21μg/mLでした。

タバコの煙から4-MEIにさらされることもあります。4-MEIが、複数のブランドタバコの煙から検出されたのです。低タールタバコで1本あたり2.3μg、非フィルターでは1本から15μg。4-MEIは、タバコの煙に比較的豊富に含まれる化学物質のひとつなのです。


【4-MEIの発がん性】

ヒトにおける発がん性のデータはありません。

実験動物における発がん性に関してはまず、マウス(いわゆるハツカネズミ)を使った2年間の発がん性試験があります。オス50匹とメス50匹のグループに、0、312、625または1250 ppmの4-MEI(> 99%純度)を含む餌を106週間与えました。その間、雄雌マウスの餌の摂餌量は、比較対照群のマウスとほぼ同じでした。結果、メスの全ての4-MEI投与群と、オスの4-MEI1250ppm投与群で、著しく肺胞および細気管支腺腫の発生率が増加しました。オスの1250ppm投与群と、メスの625~1250ppm投与群では、肺胞や細気管支腺への腫瘍あるいはがんの発生も増加しました。ただしメスの肺胞/細気管支がんの発生率は、統計学的には意味のあるものとは言えませんでした。

雌雄各50匹のラット(マウスより一回り大きいネズミ)を使った2年間の発がん性試験も行われました。マウス同様、4-MEI(>99%純度)を含む餌を106週間与えたのですが、マウスとの体格差を加味してオスの餌は4-MEI含有量を0、625、1250、または2500ppmとし、メスの餌は0、1250、2500または5000ppmとしました。メス5000ppm投与群の餌の摂餌量は、比較対照群に比べて少な目でしたが、特定の白血病の発生率が比較対照群に比べて高くなりました。その白血病はこの試験で使用された種のラットでは一般的な疾患ですが、4-MEIへの暴露によって悪化された可能性があります。メスの5000ppm投与群では発症までの平均が256日と、比較対照群のメスの平均624日に比べて368日早くなりました。


以上より、4-MEIは私たち人間に対する発がん性の報告はないものの、動物実験では十分な証拠があります。IARCも、4-MEIを「人間にとって発がんの恐れがある物質」に分類しています。

4-MEIをどれだけの量を摂取すればがんのリスクがあるのかなど、まだまだ不明な点はありますが、消費者が選びやすいように、カラメル色素の種類(4種類のうちどれなのか)の記載は必要だと思います。また、清涼飲料水は、4-MEIだけでなく糖分の取り過ぎにもなりますので、やはり飲み過ぎには注意して下さい。


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