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エナジードリンクを飲む前に知っておくべきこと

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疲れている時やここ一番という時、つい気軽に手を伸ばしてしまうのが栄養ドリンクですよね。しかし私たちはそこに含まれる「カフェイン」の、特に未成年に与える影響について、もっと認識を深め、摂取には慎重になるべきかもしれません。今回はちょっと長くなりますが、身近でとても興味深いテーマなので是非最後までご一読ください。

大西睦子の健康論文ピックアップ28

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

 米国の10代の若者にとって、今やエナジードリンクは特別な飲み物ではありません。エナジードリンクにはカフェインがたくさん含まれていて、「パフォーマンスの向上」「免疫力を高める効果がある」と宣伝されています。

 エナジードリンクは1980年代後半に米国市場に導入されました。2006年には200の新しいブランドが導入され、年間50億ドルの収益をもたらし、現在、エナジードリンクのトップブランドの売り上げが、大手エナジードリンク市場の49%を占めています。

 市場調査では、米国の10代の若者において、2003~2008年にエナジードリンク消費量が16%増加しています。10代の若者のうち35%は定期的にエナジードリンクを飲んでいます(エナジードリンクのメーカーは様々なスポーツチームのスポンサーにもなっており、消費者は男子学生が多いようです。最近はさらに、女性などをダーゲットに新しい戦略が考えられています)。エナジードリンクを飲む理由としては、「睡眠が不十分」「エネルギーが必要」そして「アルコールと混合したいため」という答えでした。

 これまで10代の若者のアルコールの危険性はよく医学文献に報告されていますが、かたやエナジードリンクに関しては議論中です。このほど、エナジードリンクの若者に及ぼす利点とリスクが、レビューとして雑誌『Pediatrics』に報告されましたのでご紹介させていただきます。
Kwabena L. Blankson, Amy M. Thompson, Dale M. Ahrendt and Vijayalakshmy Patrick
Energy Drinks : What Teenagers (and Their Doctors) Should Know
2013;34;55 Pediatrics in Review
DOI: 10.1542/pir.34-2-55

 調査によると、ほとんどのエナジードリンクには、カフェイン※1、ガラナ※2、タウリン※3、朝鮮人参※4、糖類※5、ビタミンB群※6など基本的な、同じような成分が含まれています。米国では、人気の栄養ドリンクの多くには、カフェインやその他の成分の量が記載されていません。(日本では、薬事法上の「指定医薬部外品」※7や「第二類医薬品」※8等に属するエナジードリンクではカフェイン含有量等がラベルに記載されていますが、単なる「清涼飲料水」である場合には量までは分かりません)

●カフェイン
 カフェイン含有量が明記されていても、多くの場合が正確ではありません。FDAは、コーラなどの飲料に含まれるカフェインの量を規制していますが、カフェインそのものは一般的に安全と認める物質となっています。最もよく売れている栄養ドリンクには、1缶当たり154 ~280 mgのカフェインが含まれています。これは、コーヒー1杯(80~120 mg)や紅茶1杯(50 mg)、または360mlのコーラ(米国では法律の定めるところにより65 mgまで)よりもはるかに多い量です。

 毎日のカフェイン摂取推量は特に示されていませんが、米国栄養士協会(American Dietetic Association)は、子供や出産可能年齢の女性は、一日あたりカフェイン摂取量は300 mgを超えるべきではないとしています。

 カフェインの使用や離脱※9により、神経過敏、不安、精神錯乱、手足の震え、骨粗しょう症※10、消化器系の問題、吐き気、不眠、眠気、頻尿、頭痛、動悸、不整脈、および高血圧など、さまざまな健康への影響が懸念されています。禁断症状※9は、一日あたりわずか145 mgから120mgを2週間飲んだ学齢期の子供たちに報告されています。

 カフェインの過剰使用によって生じる心血管系への影響は、アスリートの死亡原因にもなっています。カフェインの値が高い場合、十分な水分補給がないと、カフェインの利尿効果により脱水症状を誘発します。カフェインは2004年、世界アンチ•ドーピング機構(World Anti-Doping Agency:WADA)によって使用禁止物質のリストから削除されましたが、現在、その禁止が再考されています。

 ある研究では、米国における高校生の95%が、カフェインを摂取していることが明らかになりました。そのほとんどは炭酸飲料から摂取されています。カフェインを使用している若者は、使用していない若者よりも、日々の不安が悪化していることが報告されています。

 また、アルコールを繰り返し飲んでいると効果が減少して酔いにくくなり、やがて耐性※11につながるのと同様に、カフェインにも耐性があります。アルコールとカフェインを一緒に使用すると、カフェイン単独あるいはアルコール単独より、さらに耐性を強めます。アルコール入りの栄養ドリンクや、エナジードリンクとアルコールを混ぜたカクテルは、思春期の健康に害を及ぼし、乱用の危険にもなります。

●ガラナ
 南米の植物で「ブラジルのココア」としても知られるガラナには、カフェインの一種であるguaranineと呼ばれる物質が含まれています。ですからガラナ1gはカフェイン40mgに相当するのですが、栄養ドリンクのカフェイン含有量の表示には通常ガラナが考慮されていませんから、ガラナ入りの栄養ドリンクにはより多いカフェインが含まれていると認識しなければなりません。

●糖
 ほとんどのエナジードリンクには、100ml当たり8.8~14.2gの、ショ糖、ブドウ糖、または異性化糖※5などの糖が含まれています。成人を対照とした複数の研究で、カフェインとブドウ糖を組み合わせると、相乗的に運動と認知能力を高めることができることが示されています。ただ、栄養ドリンクを飲み過ぎると糖分の摂取が増え、虫歯や肥満の原因となります。

●タウリン
 タウリンは、栄養ドリンクの中で最も一般的な成分の一つです。私たちの体は、他のアミノ酸から独自にタウリンを合成することができます。また、タウリンは肉、魚介類、牛乳中に存在し、私たちの健康に有益な効果がされています。

 ただし、タウリンの効果のほとんどは、タウリン単独ではなく、カフェインや他の物質と混合されて発揮します。栄養ドリンクの定期的な摂取によって消費されるタウリンの量は、普通の食事から摂取するタウリンの量(1日あたり40~400 mg )を超えますが、タウリンの過剰な摂取による害は限られています。タウリンはアルコールの悪い影響を抑えることが示唆されていますが、それよって、アルコールの消費を助長しかねません。

●朝鮮人参
 朝鮮人参は、運動パフォーマンスの向上、免疫系の刺激や気分の向上に効果があると言われていますが、不眠症、動悸、頻脈、高血圧、むくみ、頭痛、めまい、躁病あるいはエストロゲン※12様作用などの有害性も報告されています。ただ、多くの栄養ドリンクには、治療用量(100〜200 mg /日)ほどには朝鮮人参は含まれておらず、最低治療用量を得るためには、栄養ドリンクを2から4本摂取しなければなりません。

●その他の添加剤
 他の添加剤(例えば、ビタミンB群やカルニチン※13等)にも様々な効果が噂されていますが、 今の段階で十分な科学的証拠を欠いています。それらを少量あるいは大量、さらに長期に摂取することが人体にどのような影響があるかは分かりません。

●アルコールとの混合
 ノースカロライナ州にある10大学の最近の調査では、大学生の4分の1は、過去1カ月間に、アルコールとエナジードリンクを自分たちで混ぜて作ったカクテルを消費していました。アルコールをエナジードリンクに混ぜたカクテルは、実際よりも少なく酔って感じるのですが、多くの若者はこれを意識していません。研究者は、とある人気の市販アルコール入りエナジードリンクを1缶飲むことは、ワインのボトル1本あるいはビール6缶と、5杯ものコーヒーを一緒に飲むのと同じ影響があると説明しています。

 実際、2010年にはワシントン州の9人の大学生が、フルーツ味のアルコール入りエナジードリンクが原因で入院、一人は命に関わる危険な状態でした。その1ヶ月前にも、ニュージャージー州の大学構内で23人の学生が同じもの飲んだ後、酔って入院しました。それ以来、両大学はこのアルコール入りエナジードリンクを禁止しています。その後まもなく、ワシントン州司法長官のRob McKenna氏は、「アルコール入りエナジードリンクの販売に終止符を打つ時です。フルーツ味にして、アルコールの影響をわかりにくくして、子供たちに販売しています。それによってどのくらい酔うかわからない子供たちにとっては、とても強い刺激物質を含んでいます」と指摘しました。米国食品医薬品局(FDA)は、少なくともメーカー1社に対し、アルコールとカフェインが混成しているときの安全上の懸念について、強い警告を行いました。

 こうしてアルコール入りエナジードリンクの市販を禁止することは重要な一歩と考えられます。が、しかし米国の大学生(と、おそらくは高校生)のパーティーでよく見られる、アルコールとエナジードリンクを混ぜて作るカクテルの消費を抑えることはできません。過去2年間、メディアや医師、政治家、親たちの意識は高まっています。

 以上から、著者らは、私たちがエナジードリンクについて知るべきことを、次のようにまとめています。

1)エナジードリンク市場の大きさや視野を理解し、人気のエナジードリンクのブランドを認識する
2)10代の若者が、パフォーマンスの向上のために、エナジードリンクを多く消費していることを認識する
3)エナジードリンクの成分を知って、それらの健康に対する懸念を理解する
4)エナジードリンクは、若者の肥満や高血圧、頻脈を引き起こす可能性があることを理解する
5)アルコールとエナジードリンクを混ぜたカクテルの危険性を知る
6)アルコール耐性/依存とカフェイン耐性/依存の関係を理解する
7)若者のエナジードリンク消費の調査や、適切なカウンセリングの実施が重要であることを理解する

 実は世界を見渡すと、同じブランド・商品銘柄のエナジードリンクでも、各国間で成分に違いがあります。各国民の好みの問題もありますが、国ごとに異なる法規制を考慮したものでもあります。例えば、世界的に人気のエナジードリンクの販売が、フランスでは9年前に一度禁止されました。あまりにも多くのカフェインと、タウリンが含まれていたためです。その後、タウリンを抜いて販売が再開され、数年前にタウリン入りのものが復活した、という経緯があります。ちなみに同商品は日本でも売られていますが、清涼飲料水扱いであって、タウリンは含まれていません。

 このような事情から、今回のレビュー論文に示されている事柄が必ずしも日本の状況と一致するわけではありません。しかしながら、10代の若者のカフェイン過剰摂取とアルコールの摂取に関しては、普遍的な問題だと思います。眠気を覚まし、ビタミンやミネラル他の成分が強化されたエナジードリンクは、パフォーマンスを向上させたい時には確かに一見魅力的です。が、それと同時にカフェインや人体への影響のはっきりしない添加物を摂り過ぎることもよく念頭に置き、飲みすぎないよう慎重になるべきですよね。それよりもまず基本に立ち返って、健康に良い食べ物を食べ、適度な睡眠をとった方が、エネルギーを獲得するのにいい方法だと思いませんか?

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