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自由の国だけれど予防接種は強制的

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

内側から見た米国医療23

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。12年7月からメイヨークリニック勤務。

"自由の国"アメリカでも、あまり自由にならないことの一つに、予防接種があります。実際、予防接種の"強制性"は日本よりも米国の方が強いです。

 米国では、保育園や学校に通うために、予防接種を受けることが義務づけられています。州ごとに受けなければならないワクチンや決まりは多少異なりますが、麻疹、風疹、百日咳、水ぼうそうなど感染性や病原性が強く、ワクチンの効果が著しく高い感染症に関しては、ほとんどの州がその予防接種を義務づけています。日本と異なり、予防接種はかかりつけ医のところで打ちますが、保育園や学校に入る際に、医師が発行した予防接種証明書の提出を求められます。必要とされるワクチンを打っていないと、入園・入学が認められません。

 もちろん特例事項や例外事項もあり、実際に全員がワクチンを打っているとは限りません。例えばワクチンの成分に強いアレルギーがある、免疫不全症があるなど、医学的理由でワクチンが打てない子がいます。また、州によっては、宗教的信条や個人的信条を理由に予防接種を拒否してもよいことになっています。

 自己責任のイメージが強いアメリカで、予防接種に"強制性"を持たせることができるのは何故でしょうか。一つには、"社会全体で子どもを守る"ために予防接種が必要である、という意識の広がりがあると思います。小児虐待が疑われた場合には(時にやり過ぎだと思うくらい)厳しく対処するなど、米国では"社会が子どもを守るべき"という意識が強いように思えます。前述のように、ある一定数の子どもは医学的理由でワクチンを打てず、免疫不全の子は特に、それら感染症にかかると命の危険にさらされます。彼らを守るためには、周りの子がワクチンを打ち、"集団として"感染しないようにするしかありません。

 もう一つは、ワクチンの副作用に対して、現実的な解を持ち合わせていることです。残念ながら、ワクチンには(稀ながらも)一定の割合で重篤な副作用が発生します。その際、米国では"過失の有無を問わず"健康被害に対して国が補償します。この仕組みができる前は、副作用に対する訴訟が相次ぎ、あるワクチンが製造されなくなる寸前まで行きました。接種を"強制"する州政府やワクチンを製造する会社、実際にワクチンを打った医療従事者が訴えられないようにすることで、"社会全体で子供を守る"ことが可能になっています。

 ただし、最近は個人的な信条により自分の子どもにワクチンを打たない人が多くなり、2014年は米国でも麻疹に感染する子どもが相次いでいます。1999年の沖縄で麻疹流行を経験した以前の上司が、次々と亡くなる子どもたちを前に「毎日泣きながら診療した」と言っていたのを思い出します。子どもの予防接種は"親の責任"で片づけられる問題ではありません。子どもたちを感染症から守るために、社会全体で取り組むべき重要な課題だと、私は考えます。

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