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オメガ3脂肪酸で、前立腺がんリスク?

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イワシなどの青魚に多く含まれるEPAやDHAは、「血液サラサラ」や「動脈硬化予防」などの健康効果で知られていますよね。サプリメントもいろいろ出回っています。あくまで「体にいいもの」というイメージが先行していますが、万能薬のように思い込んではまずいようです。

大西睦子の健康論文ピックアップ50

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


前立腺がんは、世界的にも罹患率※1が高く、男性のがんの約10%を占めると言われています。特に、欧米人に多く、アメリカがん協会(American Cancer Society)によると、アメリカ人男性の6人に1人は、一生の間に前立腺がんと診断される可能性があると言われています。年齢的には、前立腺がんと診断された男性の3分の2は65歳以上で、40歳以下では非常にまれです。平均は67歳とされています。


前立腺がんのかかりやすさは、人種的には黒人、白人に続き黄色人種は3番目とされていて、日本人には少ないと考えられていました。ところが、ライフスタイルの欧米化、高齢化社会、PSA (prostate specific antigen=前立腺特異抗原)と呼ばれる腫瘍マーカー※2検査の普及にともない、日本でも罹患数が著しく増加しています。厚生労働省の研究班の報告では,2020年には、男性において、肺がんに次いで2番目に罹患率の高いがんとなると予想されています。


前立腺がんは、最近のPSA検査の開発で、早期に発見することが可能になりました。さらに早期に発見すれば、根治が可能です。また、前立腺がんのリスクとして、動物性脂肪や乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸※3の摂り過ぎが懸念されていますので、食生活の改善が予防策として考えられています。


ところで、魚の油に多く含まれるオメガ3脂肪酸※4は、心臓病、糖尿病やアルツハイマー病などのリスクを下げる効果が期待されていますよね。ですから、アメリカにおいて、魚油のサプリメントの消費が急増しています。ところが気になるのは、オメガ3などの前立腺がんに対する影響です。


先日、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの研究者らが、オメガ3の血中濃度の高い男性は前立腺がんのリスクが高いという報告を『Journal of the National Cancer Institute』に示しました。

Theodore M. Brasky, et al.
Plasma Phospholipid Fatty Acids and Prostate Cancer Risk in the SELECT Trial.
JNCI. DOI:10.1093/jnci/djt174
Manuscript received December 10, 2012;
revised May 24, 2013; accepted May 31, 2013.


研究では、35,500人の「セレン、ビタミンEがん予防臨床研究」(SELECT)の参加者のうち、834人の前立腺がんと診断された男性と、1,393人の前立腺がんではない男性が調査の対象となりました。ちなみに、SELECTは、セレンとビタミンEの前立腺がんの予防効果を調査する大規模な臨床研究です。


その結果、オメガ3脂肪酸であるEPA※5、DHA※6、および DPA※7の濃度が高いと、悪性度の高い前立腺がんの発症リスクが71%増加しました。前立腺がん全体では、発症リスクが43%増加しました。オメガ3脂肪酸の血中濃度は、前立腺ガンの発症リスクが最も低いグループでは3.2%でしたが、最も高いグループでは5.7%でした。


魚油サプリメントを毎日取っている場合、過剰な魚油の摂取につながります。この報告の共著者のAlan Kristal博士は、「この研究は、栄養補助食品の使用は、有害なことがあることを示しました」と述べています。さらに、メモリアルスローンケタリングがんセンターの、前立腺癌専門の統計学者Andrew Vickers博士は、「魚油サプリメントは、食事中の魚より、相対的に高い前立腺がんリスクをもたらす可能性があります。問題は、食品の成分を取り出して錠剤にすることです」と述べています。


今回の論文は、オメガ3脂肪酸が、体にとって正と負の両方の効果があることを示唆する最初の報告ではありません。2012年9月の「Journal of the American Medical Association」においても、オメガ3サプリメントは、心血管疾患のリスクの低下に関連付けられなかったことが報告されています。

Rizos EC, Ntzani EE, Bika E, et al.
Association between omega-3 fatty acid supplementation and risk of major cardiovascular disease events: a systematic review and meta-analysis.
JAMA. 2012;308(10):1024-1033.


最近の『New England Journal of Medicine」でも、 心臓病のリスクが高い人々おいて、オメガ3を連日投与しても、心血管系の病気による死亡のリスクや心血管疾患の有病率※8が減少しなかったことが報告されています。

The Risk and Prevention Study Collaborative Group
n-3 Fatty Acids in Patients with Multiple Cardiovascular Risk Factors.
N Engl J Med 2013; 368:1800-1808 May 9, 2013
DOI: 10.1056/NEJMoa1205409


アメリカがん協会の栄養疫学のMarjorie McCullough博士は、「ほとんどの健康の専門家は、病気の予防としてバランスの取れた食事を勧めています。ですから、それが不可能な場合のみ、サプリメントの使用を考慮します。サプリメントは、健康にとって部分的な利益しかありませんから。アメリカがん協会は、男性に魚油サプリメントをお勧めしません」としています。


ただし、この報告に対して、多くの専門家の反論もあります。理由は、まず、参加した男性のオメガ3の血中濃度は測定しましたが、食生活に関する情報が含まれていません。そもそも、この研究は、セレンとビタミンEの前立腺がんの予防効果を調査する大規模な臨床研究です。ですから、サプリメントからのオメガ3の摂取と、魚からの脂肪酸の影響を区別できませんでした。さらに、対象者が、いつオメガ3を摂取し始めたかがわかりません。もしかすると、前立腺がんを診断されてから、オメガ3や魚を摂取したかもしれないのです。


ですから、この報告から「前立腺がんの予防のため、魚の摂取を控えるべき」とは言えません。魚には、私たちの健康を維持するために、優れた栄養が含まれていています。特定の栄養素だけをサプリメントから摂取するのではなく、バランスの良い食事から、いろいろな栄養素を一緒に摂る事が重要ですネ。

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