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何を食べればいいの? ~その6~
ビタミンは、ごく微量でも私たち体の調子を整えるのに大きな役割を担っている物質です。さまざまな種類がありますが、それらを適量ずつ配合した便利なサプリメントが総合ビタミン剤、いわゆる「マルチビタミン」です。今やかなり耳慣れたものになっていますが、効果の程はどうなんでしょうか?
大西睦子の健康論文ピックアッ47
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
これまで5回にわたってお話をしてきた「何を食べればいいの?」、今回が最終回です。
What Should I Eat?
The Nutrition Source /Harvard School of Public Health
まずはいつもの「ダイエット10か条」のおさらいから。
1) 質のいい炭水化物を選ぶ
2) いろいろな種類のタンパク質を食べる
3) ヘルシーなオイルを選ぶ
4) 食物繊維をたくさん食べる
5) さまざまな色(緑、黄、赤、橙)の野菜や果物を食べる
6) 減塩〜加工食品ではなく、フレッシュな素材がコツ!
7) カルシウムを摂取する
8) 何を飲むべきか考える
9) 適度な飲酒は健康的、でもあなたは違うかも
10) 総合ビタミン剤の活用
それでは 10)の「総合ビタミン剤の活用」を、以下の論文をもとにご解説しますね。
総合ビタミン剤、いわゆる「マルチビタミン」は、数多くの栄養素が1粒にぎゅっと詰まったすごく便利なサプリメント※1です。でも、実のところどのサプリメントが安全で、どれだけ自分に必要なのか、たくさんの情報があり過ぎて混乱しませんか? ここでシンプルに整理してみましょう!
そもそも、今回のシリーズ「何を食べればいいの?」でご紹介したように、果物、野菜、全粒穀物※2、良いタンパク質およびヘルシーな脂肪を含む健康的な食事から、必要なほぼすべての栄養素を摂取することは可能ですし、それが一番です。 ところが現実には、多くの人が健康的な食事をしていません。中でも微量栄養素、特にいわゆるビタミン類※3に関しては、多くの日本人は設定された基準に対して十分な量を摂取していません。
1910年、世界で初めて、鈴木梅太郎博士がビタミンを物質として抽出、発見(ビタミンB1)しました。その後、ビタミンの正確な必要条件はずっと議論されていますが、現在進行中の研究は、ビタミンのより広範な役割を示唆しています。カリフォルニア大学バークレー校のBruce Ames博士は、 多くの微量栄養素の欠乏が、DNAのダメージにつながることを報告しています。このようなダメージは、老化を促進し、がん、心臓病、視力低下などの慢性疾患の原因になると考えられています。マルチビタミンは、必要な微量栄養素の足りない部分を補うのに役立つのです。
例えば、高齢の方はビタミンB12※4の吸収が悪いため、ビタミンB12の強化食品やサプリメントを摂ることをお勧めします。また、ほとんどのマルチビタミンに含まれている葉酸※5は、女性が妊娠前から摂取すると新生児の神経管欠損を防ぎ、また、心臓病、結腸がん、および乳がんのリスクを下げることが報告されています。ビタミンD※6を摂取すると、大腸がん他多くのがんや慢性疾患のリスクを下げることも報告されています。
こうして健康に必要なすべての栄養素を得るために、米国ハーバード大学公衆衛生大学院栄養学科では、毎日、マルチビタミンを補充することを推奨しています。実際、米国の成人の約40%が健康のために、マルチビタミンを摂取しています。
さて一方、栄養関係の情報では、すべての科学者がマルチビタミンの使用に賛成しているわけではありません。「マルチビタミンは健康を高めるのに、十分な証拠がない」というのがその理由です。マルチビタミンの使用と死亡リスク増加の関係も報告されています。平均62歳の女性38,772人を19年間追跡調査した「The Iowa Women's Health Study」は、マルチビタミンが健康に害を起こすと報告しています。しかしながら、詳しく見ると、この報告には次に検証するような欠陥があります。
【マルチビタミンと死亡の関係を詳しく見る】
「The Iowa Women's Health Study」の結果では、マルチビタミンを摂取した55歳以上の女性は、摂取しなかった女性より死亡リスクが高いことが示されました。同様のリスクは葉酸、ビタミンB6※7、鉄※8、マグネシウム※9、亜鉛※10などの他のビタミンやミネラルでも見つかりました。
ところが、この研究は、いくつかの問題があります。
ほとんどの人の死因は長期間の病気が関与し、時には健康状態が悪化した後にビタミンの摂取を開始しています。この研究は、すでに病気だった女性を除外しておらず、サプリメントの服用期間も考慮していません。彼らが病気になったときに既にビタミンを取っていたか、それとも病気になった後でビタミン剤の服用を開始したのか、見当がつかないのです。この研究では、ビタミンDサプリメントのメリットが何も見つかりませんでしたが、これまでに高い評価を受けている研究、すくなくとも2つの結果と矛盾しています。
ビタミンサプリメントの害を示す他の研究はどうでしょうか?それらの研究も、多くの場合、「The Iowa Women's Health Study」の調査と同様の問題点があります。たいていは、統計解析されたデータにすでに深刻な病気のあった人が含まれています。サプリメントの種類、投与量、そして投与期間も様々です。
マルチビタミンを毎日摂取することに反対する一部の科学者は、ランダム化比較試験※11による十分な証拠がないと主張します。ランダム化比較試験は短期間のマルチビタミンの効果を検討するには合理的ですが、がんやアルツハイマー病、その他の慢性疾患の効果をテストするのに十分な期間の無作為化試験を実施することは難しいのです。
なお、ある種のサプリメントを"高用量に"摂取すると、健康に害を引き起こす可能性はあります。例えば、過剰な鉄の摂取は特に、一般的に鉄のサプリメントを必要としない男性と閉経後の女性では、臓器の損傷につながります。高用量亜鉛(100mg/日以上)、あるいはサプリメントを長時間摂取した人が、しなかった男性に比べて前立腺がんのリスクが高くなったという報告もあります。極端にビタミンを摂りすぎると、かえって健康に害を及ぼすことがあると心得て、マルチビタミンの標準推奨用量は守るべきです。
ビタミンとミネラルの最適な摂取量についての知識はまだ固まっていません。 ですから、今後も何十年にわたって、ビタミン、ミネラル、そして慢性疾患との関係の研究を続けることが重要なのです。科学が発展するにつれて多くの混乱がおこるかもしれませんよね。 でも、これまでのダイエットと健康に関する疫学的研究、メカニズムに関する生化学的研究などの、すべての科学的根拠を考慮して、毎日マルチビタミンの摂取は、ほとんどの人に利益があると結論づけることができるでしょう。
以下に、マルチビタミンの使い方の5つのヒントを述べます。
1. 健康的な食事を食べることが一番大切。マルチビタミンは、足りない栄養素の補充をするものです。
2. 毎日マルチビタミンを一種類、用量を守って摂取してください。毎日マルチビタミンを摂ることは、安価な"栄養保険"です。
3. ビタミンD.の摂取を考えて下さい。骨の健康上の利点に加えて、ビタミンDは、下部結腸と乳癌のリスクを下げる証拠があります。詳細については、特集を予定しています。
4. "メガ"="高用量"はダメです。一般的には、高用量ビタミン剤や高用量ビタミン強化食品は避けて下さい。
5. "スーパー""超"サプリメントは避けてください。 テレビやインターネットで宣伝されている数多の健康補助食品の健康強調表示に振り回されてはいけません。それより、健康的な食事や休暇にお金をかけて下さいね。
6. 何らかの病気のため、医師に処方された薬を内服されている方は、サプリメントの使用の有無に関して、担当医にご相談してください。