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脳脊髄液のベータアミロイド42およびリン酸化タウとアルツハイマー病との関係

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 スウェーデンでの研究調査で、脳脊髄液(cerebrospinal fluid=CSF)のベータアミロイド1-42(Aβ42)・総タウ蛋白(T-tau)・リン酸化タウ(P-tau181p)と、脳のデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)内の異常との関係を調べたところ、軽度認知障害状態での両者に有意な相関関係のあることが分かりました。

Ratio of Aβ42/P-tau181p in CSF is associated with aberrant default mode network in AD
Xiaozhen Li, Tie-Qiang Li, Niels Andreasen, Maria Kristoffersen Wiberg, Eric Westman & Lars-Olof Wahlund
Scientific Reports 3,
Article number:1339 / doi:10.1038/srep01339

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)は、その構造がアミロイドの沈着に弱いことから、アルツハイマー病に特に関連がある。脳脊髄液(CSF)内のベータアミロイド1-42(Aβ42)の値が減少し、総タウ蛋白(T-tau)とトレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウ(P-tau181p)が増加することは、アルツハイマー病の診断と予後に対する有効なバイオマーカーとして、確立されてきている。しかしながら、CSFバイオマーカーとDMNにおける変化との関係は、いまだに不明である。本研究では、DMN内の機能的接続性とCSF内のAβ42のリン酸化タウに対する比率(Aβ42/P-tau181p)との相関関係を調べた。Aβ42/P-tau181pの比率は、左楔前部/楔状部において、DMN内の機能的接続性と適度に正方向に相関関係のあることが分かった。この結果は、DMN内での脳の機能的接続性が、アルツハイマー病における初期段階での病的変化によって影響を受けることを意味している。このことは、アルツハイマー病の病的進行をより理解させ、アルツハイマー病診断を向上させるかもしれない。

●はじめに

 アルツハイマー病は、老齢者における最も多い認知症である。アルツハイマー病の病的に顕著な特徴は、アミロイド班と神経原線維濃縮体である。これらの蛋白質は、それぞれ、Aβ42とトレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウによって構成されている。そのような脳の変化は、認知症発症の数十年前から起こっており、脳における機能の進行的損失、代謝性変化、構造的変化へとつながる。アルツハイマー病の生体組織検査や検死解剖における免疫細胞化学的および生化学的分析は、海馬と新皮質におけるシナプス損失が、アルツハイマー病におけるもう一つの初期事象であり、現在のところ認知障害と最も適合する神経生物学的相関であることを示した。アルツハイマー病においては、まだ生きている神経細胞がシナプスを失い、Aβペプチドの可溶性会合状態が、重大な神経変性が存在しない中でのシナプス機能破壊により、認知問題をひき起こす可能性のあるというエビデンスが増えてきている。

 脳は、脳脊髄液(CSF)と直接に接触している。脳における病態生理学的経過を反映する生化学的変化は、CSFに現れる。CSFのAβ42とタウ蛋白の両方が、信頼度高く測定され得る。アルツハイマー病患者におけるこれらのCSFバイオマーカーの臨床的および診断的有用性と妥当性は、数多くの研究によって支持されてきている。健康な老齢者および他の認知症との比較において、アルツハイマー病患者は、CSF内のAβ42値が低く総タウ蛋白(T-tau)およびP-tau181p値が高いことが発見されてきている。軽度認知障害は、アルツハイマー病の前駆段階として認識されており、正常な加齢とアルツハイマー病の間の移行期を象徴するものである。軽度認知障害患者の半数より多くが、3~5年以内に認知症へと進行する。主観的認知障害は、主観的記憶愁訴とも言われるが、アルツハイマー型認知症の最終的発現において、軽度認知障害に先立つ段階である。CSFのアルツハイマー病プロファイルは、軽度認知障害や主観的認知障害の患者にもよく見られる。CSFのAβ42、T-tau、P-tau181p値は、アルツハイマー病の将来的発現と強く関連があり、そのことは多くの研究において証明されてきている。

 過去数年間において、静止時機能的MRIが、アルツハイマー病および軽度認知障害の病理生理学研究のために使われてきている。シナプス機能障害のバイオマーカーとして、静止時機能的MRIが、アルツハイマー病における極めて初期に異常を証明するかもしれない。アルツハイマー病に対する静止時機能的MRI研究は、内側前頭前皮質・前帯状皮質・後帯状皮質/楔前部・頭頂皮質を含め、主として脳領域の特徴傾向に焦点を合わせてきている。いくつかの研究では、海馬・海馬傍回・中側頭回を含む内側側頭葉の小領域も調べてきている。幅広い認知課題の最中は非活性化され、ヒトの脳のデフォルト・モード活性を支えると信じられているこの脳領域の集まりが、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)として定義されてきている。自由思想・過去の想起・将来の出来事の想像・他人の考えや展望の検討すべてが、DMN内の多くの領域を活性化させる。内側前頭前皮質と内側側頭葉、特に海馬のDMN要素がエピソード記憶処理に責任を有するため、DMNは、とりわけアルツハイマー病および軽度認知障害に関連している。エピソード記憶喪失は、アルツハイマー病の最も初期の症状である。海馬も、DMNにおける顕著な役割を果たしているようである。アルツハイマー病や軽度認知障害におけるDMN内の異常接続性も、多くの研究で報告されてきている。さらに、Bucknerらは、アルツハイマー病における、DMNと解剖によるアミロイド沈着・萎縮・糖代謝変化・血流異常の分布との相関関係を証明した。健康な老齢者では、Aβ42蓄積は、DMN領域での神経接続性を低下させることにより有害作用を有する。

 アルツハイマー病におけるCSFバイオマーカーとDMN内異常接続性との関連を指摘するエビデンスが増えてきているが、CSFバイオマーカーとDMN内の機能的接続性変化との量的相関関係を調べた研究は、まだ存在しない。DMN異常の型がどのようにCSFバイオマーカーと関係するのかは、未決問題となっている。それ故に、本研究では、アルツハイマー病病態を反映するCSFのAβ42のP-tau181p(Aβ42/P-tau181p)に対する比率が、DMNの機能的接続性変化と関連するはずであるという作業仮説を前提とした。仮説検証のため、ある記憶障害専門クリニックからの任意抽出コホートにおいてCSFバイオマーカーを測定し、どちらか片方の尺度よりも診断上の有用性に優れている、Aβ42/P-tau181p比率を測定した。さらに、対象者の脳全体の静止時機能的MRIを実施し、Aβ42/P-tau181p比率とDMNにおける機能的接続性との関係を特徴づけるため、ヴォクセル分析を適用した。

●方法

(1)対象者
 2010年11月から2012年2月までに、スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ大学病院の記憶障害専門クリニックから、110人が募集され、うち13人は画質の問題から除外され、本研究には97人が含まれた。すべての対象者は、神経心理学的・言語的・作業療法的検査と同時に、身体的評価・精神医学的評価・MRI走査・腰椎穿刺・血液分析を含む包括的臨床診察を受けた。

 臨床的診断は、確立されている国際的基準によりなされた。アルツハイマー病と他の認知症診断は、「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」および「国際疾病分類第10版」に基づいて行い、軽度認知障害は、International Working Group on Mild Cognitive Impairmentの基準を用いて定義した。主観的認知障害と分類された患者は、客観的認知課題における障害はないが、認知愁訴を有していた。21人がアルツハイマー病の可能性大、36人が軽度認知障害、23人が主観的認知障害の基準を満たした。17人は他の認知症と診断され、パーキンソン病が1人、アルコール性が1人、器質性人格障害1人、認知機能や意識問題を含む他の症状や兆候が2人、他の記憶喪失症が3人、ピック病が3人、特定できない認知症が6人となった。

 すべての対象者が、第3/4または第4/5腰椎棘突起間での腰椎穿刺を受けた。CSFのAβ42は、ベータアミロイド1-42を明確に測定するために作られたサンドイッチELISA法により分析された。CSFのT-tauは、正常タウと過剰リン酸化タウの両方を測定するために作られたサンドイッチELISA法により測定された。CSFのP-tau181pは、トレオニン(スレオニン)181リン酸化部位でのリン酸化タウを明確に測定するために作られたサンドイッチELISA法により測定された。すべてのCSF標本は、カロリンスカ大学病院で分析された。

(2)MRI画像
 静止時機能的MRI測定は、10分30秒継続した。静止状態の間、対象者は、眼を閉じ、特に何も考えず、眠らないようにとの指示を受けた。

●結果

 97人が最終データ分析に含まれ、アルツハイマー病21人、軽度認知障害36人、主観的認知障害23人、その他の認知症17人となった。すべての対象者に対する従来型MRIは、脳萎縮と加齢性白質変化の他には異常を示さなかった。予想通り、アルツハイマー病患者は、ミニメンタルステート検査の平均点、CSFのAβ42濃度、Aβ42/P-tau181p比率が4群の中で最も低く、一方でT-tauとP-tau181pは最も高かった。

 ヴォクセル・ワイズ相関分析結果は、年齢・性別・灰白質強調像で補正を加えて実施し、Aβ42/P-tau181p比率とDMN内の機能的接続性との間に正の相関関係を有する、統計的に有意な一群を示した。その群は、17ヴォクセルで構成され、最高Tスコア3.44、左楔前部に位置している。しかしながら、群の大部分は、左楔状部にある。

 全体のヴォクセル・ワイズ結果を得たので、非画像偏相関解析を用いて、個々の診断群を分析した。統計的有意性との楔前部/楔状部の平均Zスコアを算出した。強くはないが、適度な相関関係が、Aβ42/P-tau181pとアルツハイマー病、軽度認知障害、主観的認知障害全体での楔前部/楔状部の平均Zスコアとの間にあり、P=0.003となった。アルツハイマー病、軽度認知障害、主観的認知障群で別々に偏相関を算出すると、軽度認知障害群での相関係数のみがr=0.499、P=0.003と適度に統計的有意となった。偏相関の散布図を見ると、アルツハイマー病群および主観的認知障害群では、統計的有意性は存在しなかった。

●考察

 知る限りにおいて、本研究は、アルツハイマー病におけるCSFバイオマーカーとDMN内の機能的接続性変化との関連を調べた最初の研究である。本研究の主要結果は、CSFのAβ42/P-tau181p比率が適度に正方向に、左楔前部/楔状部におけるDMN内の機能的接続性と相関関係にあるということである。

 CSFのAβ42・T-tau・P-tau181p濃度は、アルツハイマー病における神経原線維濃縮体およびアミロイド斑形成に感度の高いバイオマーカーかもしれない。Seppäläらは、皮質脳生検におけるアミロイド斑と過剰リン酸化タウが、それぞれCSFの低Aβ42と高T-tau/P-tau181p値を反映することを証明した。アルツハイマー病患者において、軽度認知障害患者や主観的認知障害患者においてさえ、CSFのAβ42濃度が減る一方で、T-tauとP-tau181p濃度は高まることが報告されてきている。これに即して、本研究でも、13人の軽度認知障害患者と3人の主観的認知障害患者が、CSFのAβ42低下、および/または、T-tauとP-tau181p増加を示した。Herukkaらは、Aβ42とP-tau181pの組み合わせが、軽度認知障害患者の中でのアルツハイマー病に対する最も予測的分析評価であると報告しており、アルツハイマー病病態の高感度マーカーかもしれないのである。これを基とするために、本研究では、CSFのAβ42/P-tau181p比率を、アルツハイマー病病態と機能的接続性変化との関係調査のための病態マーカーとして用いた。

 興味深いことに、PETで評価されたアルツハイマー病患者におけるアミロイド沈着のある領域の大部分は、DMNと一致している。アルツハイマー病および軽度認知障害患者においては、DMN内の機能的接続性低下が報告されてきており、重症度に伴って進んでいる。さらに、DMNの脳領域間の機能的接続性は、アミロイド沈着のある正常な老齢者において破壊されている。マウスモデルと生体外の両方において、Aβの可溶性オリゴマー(低重合体)が、選択的にシナプス可塑性を損ないシナプス機能を破壊する可能性がある、というエビデンスが存在する。本研究においては、CSFのAβ42/P-tau181p比率と機能的接続性との間に、楔前部/楔状部における正方向の相関関係が観察された。このことは、DMNでの機能的接続性破壊が、病期進行とともに増加することを示唆している。これは、認知的正常との比較において、アルツハイマー病および軽度認知障害でのDMN内異常変化を示した先行報告に即している。静止時機能的MRIから描かれる機能的接続性は、解剖学的には分けられる自発的神経細胞活性と脳領域との関係を反映すると考えられ、シナプス破壊のバイオマーカーなのである。本研究で観察されたCSFバイオマーカーとDMNとの相関関係は、Aβ42とP-tau181pの異常性が、アルツハイマー病患者におけるシナプス破壊と関連あることを支持している。最高Tスコアの群座標は左楔前部に位置しているが、群の大部分は左楔状部に延びている。楔前部は、Aβ42沈着と極めて初期の関わりがあることが知られている。Petrieらは、健康な人の楔前部においては、CSFのP-tau181p/Aβ42比率と脳と糖代謝との間に負の相関関係があることも報告しており、このことは本研究結果と一致している。楔状部の関わりも、いくつかのDMN研究で示されてきており、アルツハイマー病患者、およびアルツハイマー病様病状変化を有する認知障害患者では、楔状部での脳血流は低下することが報告されてきている。さらに、楔前部/楔状部でのアミロイド負荷増大は、軽度認知障害患者における脳萎縮割合の増大と関連があった。楔状部は、先行報告においては大きな注目を集めてきていないが、楔状部がDMNに対する重要な構造的維持を提供しているのかもしれない。

 独立成分解析は、DMN同時活性化の大きさの測定を提供した。本研究においては、左楔前部/楔状部のZスコア変化は、アルツハイマー病の進行に伴うCSFのAβ42/P-tau181p比率の傾向と類似している。Zスコアは、アルツハイマー病・軽度認知障害・主観的認知障害すべての対象者に対しては、CSFのAβ42/P-tau181p比率と相関関係にある。それぞれの診断群に対する相関関係を算出した際には、軽度認知障害群においてのみ、適度に有意な相関関係が存在した。これらの結果は、アルツハイマー病におけるCSFのAβ42/P-tau181pとDMN活性化の変化両方が、ある段階においてのみお互いに対応していることを示している。Sperlingの動的バイオマーカー仮説モデルでは、それぞれのバイオマーカーにおける変化割合は経時的に変化し、シグモイド型経時変化を示す。複数のバイオマーカーが病気の進行経過上では同じ形を示しても、特定の点においては、変化割合を表すバイオマーカーの傾斜は異なるかもしれない。このことは、本研究結果が示していること、すなわちCSFとシナプス破壊バイオマーカーとの関係に即している。軽度認知障害段階においては、Aβ42/P-tau181pでの変化割合がDMN活性化変化と類似しているが、アルツハイマー病および主観的認知障害段階では割合が異なっている。この時間的遅滞は、脳予備能、認知予備能、共存病態に対する付加貢献のような要素によって変えられるのかもしれない。

 本研究には、いくつかの限界がある。第一に、標本規模が限られていることである。第二に、いくつかの選択された変数で調整を加えられたが、APOE遺伝子のように、関連に対する交絡因子がまだ存在するかもしれない。第三に、CSFのAβ42/P-tau181p比率とDMNでの機能的接続性との相関関係は、ある1時点においてのみ評価されており、さらなる縦断的研究が妥当である。第四に、神経原線維濃縮体およびアミロイド斑の検死解剖確認なしでの、CSFのAβ42およびP-tau181p濃度変化の存在に基づく潜在的なアルツハイマー病関連神経変性過程の存在は、推論されたものとなる。

 まとめると、本研究結果は、生化学的なアルツハイマー病病態とDMN内の機能的接続性との関連を意味するものとなる。機能的接続性とCSFのAβ42/P-tau181p比率との相関関係は弱いが、異常なDMNは、アルツハイマー病における病状変化を反映するかもしれない。本研究調査は、アルツハイマー病の異なる段階における、CSFのAβ42およびP-tau181pとシナプス破壊との関係をさらに理解するうえで有益である。さらに、本研究が、アルツハイマー病の病状進行と早期でのアルツハイマー病診断への理解を深めさせるかもしれない。

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