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アルツハイマー病の研究におけるイースト菌の活躍
パンを焼く時にも活躍するイースト菌が、何とアルツハイマー病の研究においても大活躍しているようです。アルツハイマー病とアミロイドベータやタウとの関連を探るため、新しい化学予防開発のために、単純な構造のイースト菌を使って様々な取り組みがされているようです。
Application of Yeast to Study the Tau and Amyloid-β Abnormalities of Alzheimer's Disease
Afsaneh Porzoor and Ian G. Macreadie
Journal of Alzheimer's Disease xx (20xx) x-xx
DOI 10.3233/JAD-122035
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
リン酸化タンパク質タウと42アミノ酸ペプチドであるアミロイドベータ(Aβ)という、アルツハイマー病に関連する主要な分子が、最近イースト菌において分析されてきている。これらのイースト菌研究は、タウとAβの影響に対する大きな新しい識見を提供すると同時に、アルツハイマー病の予防に関係するかもしれない化学物質を迅速に探索する新たな取り組み方を提供してきている。以下のレビューは、アルツハイマー病研究におけるイースト菌の役割とその貢献をまとめ、このモデル生物において実施されてきている重要な研究を強調するものである。
●アルツハイマー病
アルツハイマー病は、記憶力・知力・理解力・学習能力の低下に特徴づけられる、今のところ不可逆的な進行性の神経変性疾患である。アルツハイマー病は、加齢性疾患として最も頻繁に発生する流行病である。80歳の人においては、アルツハイマー病が25%に影響を与えている。現在、世界中で3560万人がこの病気を抱えており、寿命が延びていることにより、2050年までには、1億600万人がアルツハイマー病を患うであろう。これらの特性が、アルツハイマー病を世界における最も大きな社会的負担の一つにしている。
アルツハイマー病は、神経細胞死とシナプス損失の結果であり、細胞外のAβ斑とタウタンパク質の細胞内神経原線維濃縮体に象徴される。Aβとタウ値との強い関連は、それらの毒性と組み合わされ、それらをアルツハイマー病発現における原因物質として結び付けている。
アルツハイマー病を治す、あるいは予防する試みに対する多くの取り組みが存在してきている。受動免疫と能動免疫の両方を用いての免疫療法のように高い方向性を有するものもあるし、植物抽出物に見られるポリフェノールやフラボノイドを利用するような食事調節に関係するものもある。治療に対する多くの先行的取り組みは、副作用や有効性不足により取り下げられてきた。アルツハイマー病に関する研究は、主に細胞培養と遺伝子導入マウスモデルに関係してきたが、アルツハイマー病の理解において、そして化学予防設計において、イースト菌研究の果たす役割が増している。本レビューは、タウとAβに焦点を合わせてアルツハイマー病を研究するため、イースト菌において実施されている最近の研究のいつくかをまとめるものである。可能性のある薬剤やスクリーニング法もリスト化されてきている。本研究グループでも、このモデル体系の利益・不利益・起こり得る限界を要約しようとしてきている。ほとんどの研究がその種類を利用していることから、本レビューの主たる焦点は、出芽酵母に合わせている。代わりとなる種が用いられている場合は、名前を挙げている。
●モデル生物としてのイースト菌
イースト菌は、バイオテクノロジーにおける長い歴史を有し、最近では、インスリンやワクチンを含め、貴重な新たな生物製剤を提供している。イースト菌は、化学物質の影響に対する最初のスクリーニングや遺伝子組み換えタンパク質の発現を含め、生物化学の幅広い分野に基本的識見を提供してきてもいる。イースト菌において実施されるどのような薬剤試験の結果も、より生理学的に適切なモデルにおいて確認されるべきだが、イースト菌は、多くの疾病研究のための第一線体系として、いまだに役割を果たしている。
イースト菌は、最も単純な真核生物の仲間で、ヒトを含め、すべての真核細胞と多くの細胞機序を共有している。これは、特に出芽酵母にあてはまる。出芽酵母は、最も操作され開発されてきた種で、神経変性研究のためのモデル生物として長く利用されてきている。さらに、アポトーシスや壊死のような、細胞死の経路分析のための、確立されたモデル生物でもある。ミトコンドリア損傷・酸化ストレス・タンパク質凝集や分解のような神経変性障害に関係するほとんどの過程は、イースト菌内で分析可能で、しばしば高処理スクリーニングに結び付けられる。
イースト菌は、細胞周期や細胞分裂の仕組み理解を提供する最も初期の研究とともに、1950年代初めからモデル生物として使われてきている。イースト菌は、1996年に完全なゲノム配列が解析された最初の真核生物だった。多くの遺伝子機能の知識と組み合わされ、イースト菌の配列に関する知識は、ヒトのゲノムを含めて、他のゲノムの配列との比較を可能にした。ヒトの疾病に関係する現在知られている遺伝子の30%あまりが、イースト菌と相同分子種を有することが認められている。
●アルツハイマー病に対するイースト菌:Aβとタウ理解
イースト菌は、ヒトの疾病に関連するタンパク質の異種発現に、そしてヒトの疾病に関わるタンパク質の相同分子種の発現に広く使われている。アルツハイマー病に関連づけられる二つの主要タンパク質/ペプチドであるタウとAβをコード化している遺伝子は、イースト菌では相同分子種を有していないが、イースト菌において発現させることができ、研究されることが可能である。Aβをアルツハイマー病発現に関連づけるデータが豊富なため、Aβはかなりの注目を受けてきている。特に、早期発症または家族性アルツハイマー病は、Aβにおける様々なアミノ酸の変化の結果として起こり得るのである。
Aβは、βセクレターゼおよびγセクレターゼによる、アミロイドβ前駆体タンパク質(AβPP)の切断を通して生成される。切断産物は、Aβ40・Aβ42・Aβ43を含む、極めて疎水性のペプチドで、後者二つはより凝集しやすくより神経毒性が強く、前者は後者と比較して、家族性アルツハイマー病においてより大きな濃度で見出されている。本レビューでは、Aβと省略形を用いるが、Aβ42に焦点を合わせる。
Aβを研究するためには、化学的に合成されたAβ、細胞内融合Aβ、細胞内遺伝子組み換え型を含め、いくつかの分子形態が用いられる。カンジダ・グラブラタ上での化学的合成Aβを用いた研究は、オリゴマー化依存細胞毒性を示している。この現象は、今や、その過程の抑制を通じて、Aβ毒性を妨げるための新たな取り組みへと駆り立てている。生体内でのオリゴマー化は、Aβが、MRFと呼ばれるイースト菌の翻訳終結因子と融合された場合に観察された。Aβに起因するMRFのオリゴマー化は、MRFの機能と成長を損なうことにつながるのに対して、ペプチド凝集を妨げる化合物は成長へとつながった。Caineらは、融合タンパク質の脈絡におけるオリゴマー化を調べるため、Aβへの緑色蛍光タンパク質(GFP)融合を作り出した。この目的は、一方で融合タンパク質の凝集・オリゴマー化・分解は蛍光の減損へとつながるだろうが、緑色蛍光を通じて生体内で正しく折りたたまれた融合タンパク質の量を測定することであった。比較的少しの細胞が蛍光を示したが、蛍光細胞の割合は、アルツハイマー病の化学予防に関連するビタミン、葉酸塩によって処理されたことで増加されることが分かった。GFPに融合されたAβの細胞内発現が、イースト菌細胞の成長低下および熱ショック反応(HSR)の増大と関連あることも示された。増大したHSRは、イースト菌細胞に酸化ストレスからの防御を提供することが可能である。MRFやGFPと融合されたAβを用いてのイースト菌分析は、Aβのオリゴマー化や半減期に影響を及ぼす化合物の効果観測に対して、極めて有用であるようだ。
イースト菌は、Aβオリゴマー化阻害剤を調べるために、特有の利点を提供する。AβPPのようなヒトのセクレターゼ複合体のサブユニットは、このモデル体系の中で個々に発現され観測され得る。イースト菌研究は、使用直前に変性を要する化学的合成Aβの極めて高価で貴重な複数回分を用いるオリゴマー化の生体外研究と比較して、費用がかからず便利である。しばしばAβは捨てられ、代用ペプチドがAβの代わりに用いられる。Aβオリゴマー化阻害剤の生体内研究の二つ目の利点は、化合物が細胞内へ移らなければならないことである。血液脳関門を越え脳内での毒性オリゴマー形成を抑制することが求められるため、細胞膜を通過する能力は、アルツハイマー病のどんな化学予防においても明確に必要なことになる。第3に、細胞毒性化合物は、イースト菌の成長と新たなAβ産生を抑制するので、初期の遮蔽を怠る。このため、有毒な分子は直ちに除去され得る。第4に、間接的に作用する分子が識別されるかもしれない。そのような分子には、シャペロン、あるいはAβに結合するタンパク質を刺激するものが含まれる。
細胞内Aβは安定化され、別のタンパク質に融合された場合に毒性がよりなくなることが知られているのに対して、細胞外Aβは、イースト菌細胞に対して非常に有毒である。前述のように、Aβの融合は利点を有する一方で、融合はAβの特性を変えることが予想されており、大変に有用な体系は、イースト菌が自然のAβ産生をすることである。D'Angeloらの最近の研究において、細胞内通行経路が必須であり、Aβが単独で用いられようとGFPと融合されようと、出芽酵母におけるAβの有害種生成にとっての大きな決定要素であることが発見された。アルツハイマー病に対する遺伝子導入マウスモデルにおいて、Aβは、ヒトのAβPPとセクレターゼの過剰産生によって作られている。しかしながら、出芽酵母において、Aβ産生はAβPPと二つのセクレターゼ、βセクレターゼとγセクレターゼの不足のため起こらないという複雑さであるのに反して、α・β・γセクレターゼの三つすべてのエンドプロテアーゼが、ピキア・パストリスにおいては検出されてきている。
イースト菌は、単純な構成的発現体系を用いて、自然のAβ産生のために作られ得る。Aβを産生するイースト菌は、重大な成長応力を発揮し、影響を抑圧するために強い圧力が存在する。これは、どのように細胞がAβ毒性に打ち勝つことができるかについての知識を提供するために利用され得る有用な特性である。さらに、Aβ毒性による成長応力は、その応力を抑制する化合物のふるい分けに使用され得る。作業は、これらの特徴を新しい化学予防の識別する目的や、どのように既知の化学予防が毒性に影響を与えるかを明瞭にする目的に使うため、現在本研究グループの実験室において進行中である。
化学的に合成されたAβは、カンジダ・グラブラタに対して有害であることが示されてきている。これは、イースト菌や神経細胞における同等の結果をさらに支持する、刺激的な発展となってきている。
神経細胞は、同様に影響を受ける。神経細胞は、高分化型の細胞で、Aβは細胞分裂を刺激し、神経細胞にとって致死的事象となる。Aβがどのようにカンジダ・グラブラタを殺すのかは、まだ正確に分かっていない。イースト菌では、毒性分析は水中で実施される。Aβは、水中で細胞に加えられ、16時間培養後、細胞が培養皿に蒔かれ、生存できるコロニー数を測定する。Aβが存在しないと、水中の細胞は、生存能力の損失なしに何日も静止状態にとどまる。しかしながら、新たに用意されたAβ溶液が加えられると、Aβは細胞の表面に結合し、数時間のうちに細胞を殺してしまう。Aβが原線維形成を妨げられない場合は、もはや有毒ではない。最近のシミュレーション研究は、疎水性配列同様に、水がAβペプチドにおいて原線維形成を実際に促進するのに対し、この過程は親水性配列においては、よりゆっくりと起きることを示してきている。同様に、オリゴマー化を防ぐAβそれ自体内での変化は、有毒な影響も阻止する。Aβは一般的に有毒な分子とみなされているが、イースト菌およびヒトの細胞両方において、相反効果も時として示してきている。カンジダ・グラブラタにおいては、Aβは、水酸化ナトリウム毒性によって致死となるのを防ぎ、成長した神経幹細胞があると、Aβは分裂を刺激する。
1975年に、Weingartenらは、微小管会合に必須となるタウというタンパク質因子を識別した。しかしながら、タウが過剰リン酸化されると、細胞内領域において形成されるタウの凝集である神経原線維濃縮体形成の原因となる。いまだに議論や疑問がタウ種の毒性を取り巻いてはいるが、タウの存在は、Aβ誘発神経毒性に必須であると示されてきている。Aβのように、濃縮体も、その存在が神経細胞における栄養輸送を、そしておそらくは細胞内信号伝達を損なうことで、アルツハイマー病発現に関連している。実際に、Aβ蓄積が、タウ濃縮体形成と神経変性疾患発現につながる炎症や酸化ストレスのような上流での事象をひき起こすことによって、Aβとタウの相互関係は報告されてきている。
タウ除去とプロセシングは、通常カスパーゼとプロテアソームの両方によって仲介されるが、過剰リン酸化形態においては、タウがプロテアソーム仲介除去に対して耐性を持つようになる。しかしながら、先行研究は、ラットの脳の初代乏突起膠細胞培養において、過酸化水素のミリモル濃度での付加が、タンパク質脱リン酸化酵素2Aの活性化およびタンパク質脱リン酸化酵素1の活性増大を通じて、タウの脱リン酸化に至ることを示してきている。
アルツハイマー病研究に対するタウ発現イースト菌モデルは、徹底的に調べられてきている。出芽酵母は、ヒトのタウに対する既知の相同分子種は有していないが、ヒトのタウは、出芽酵母において発現可能である。イースト菌における様々なアイソフォームや変異型の発現は、アルツハイマー病での神経細胞のそれと同様の特徴や相関に至っている。De Vosらは、ヒトのタウを発現するイースト菌でのタウ凝集は、主たるタウ関連成長表現型を見せないと報告している。しかしながら、先行研究のほとんどは指数関数的に増殖する細胞上で実施されているので、定常期イースト菌細胞においてタウ関連成長表現型は報告されていない。また、タウ-GFP融合分析において、Timmersらは、動物や植物に対する共通結合箇所が示されているのに、イースト菌はタウに対する微小管結合箇所を欠いていることを発見した。
タウのフォスファターゼやキナーゼの多くの重要なイースト菌の相同分子種が識別されてきており、現在調査中である。さらに、イースト菌におけるヒトのタウ発現は、多くのリン酸化および凝集されたタウ残留物を産生するに至るキナーゼの存在を示してきている。イースト菌によるタウのリン酸化は、哺乳類のキナーゼであるGsk‐3βとCdk5のそれぞれ相同分子種である、Mds1とPho85キナーゼの存在による。さらに、Pho85/Cdk5は、哺乳類およびイースト菌の両モデルにおいて、Mds1/Gsk‐3β活性化に抑制効果を有しているようである。Vanhelmontらは、イースト菌における活性酸素種の導入が、鉄イオンFe2+の付加を通じ、リン酸化のない状態でタウのオリゴマーと凝集形成を増大させる原因となることも示した。
●アルツハイマー病化学予防に対する高処理スクリーンニング
アルツハイマー病の治療研究に対する障害は、多くの原因によってきている。大きな妨げは、化学予防に対して、疫学的研究よりも少ない手がかりを提供してきた動物モデルに大きく依存していることにおそらくある。別の困難は、疾病経路における早期マーカーの認識である。
今日までに開発されてきている治療的戦略や取り組みは、抗炎症・抗アミロイド形成または安定化・抗酸化特性を有するものを含んでいる。多くの化合物や化学物質が細胞培養やアルツハイマー病の動物モデルにおいて、将来有望な結果を提供してきている。
微生物モデルは、短期間に多数の化合物をふるい分ける能力を提供することから、アルツハイマー病薬剤ふるい分けに有用である。微生物モデルは、殺作用や毒性同様に、Aβのオリゴマー形成に影響を及ぼす化合物を調べることができる。Wurthらは、GFPに融合されたAβを産生する大腸菌を開発し、アルツハイマー病の化学予防に対する候補識別に使用してきている。維持や費用の面から、イースト菌モデルと同様の有用特性をいくらか有してはいるが、大腸菌は、イースト菌ふるい分けにおいては識別されるかもしれない、ヒトの相同分子種タンパク質の多くを欠いている。イースト菌はヒトよりもはるかに単純であるが、この単純さが、徹底的に研究されるために細胞機序や経路をより理解することを可能にしている。例えば、Treuschらは、この単純さを利用して、イースト菌モデルにおける毒性調節物質ふるい分けのためにゲノム全体での過剰発現を実施し、結果として、ホスファチジルイノシトール結合クラスリン集合タンパク質(PICALM)のイースト菌相同分子種やアルツハイマー病における役割を担うエンドサイトーシス因子を含め、いくつかの毒性抑制因子を識別した。また、彼らは、Aβ毒性変更因子を見つける目的で5,000の遺伝子をふるい分け、ヒトの相同分子種12を識別し、さらにゲノム全体関連の研究におけるイースト菌モデルの有効性を意味するに至ったのである。同様に、Lópezらは、化合物ライブラリーを二つふるい分けた後に、出芽酵母とポドスポラ・アンセリナにおけるAβ凝集を抑制する能力のある四つの化合物を識別した。
数千のヒトの遺伝子やたんぱく質が、イースト菌においてよく似たものを有しており、防御機構を含む恒常的機能は非常に類似している。それ故に、イースト菌の細胞過程と相互に作用する化合物は、ヒトの細胞過程上でも同様に作用しそうなのである。これらの細胞過程のいくつかは、活性酸素種に対する反応、タンパク質の誤った折りたたみ、アポトーシスを含んでいる。2者間に実質的差異がある場合には、AβPPとγセクレターゼ両方を産生することができるように再設計されたイースト菌が用いられ得る。実際に、イースト菌は、βセクレターゼ阻害剤のふるい分けにも使用され得るのである。
加齢は、アルツハイマー病発現に対する、そしてAβが高分化型の有糸分裂後神経細胞における細胞周期事象を誘発する、最も重要な因子の一つとして知られてきている。先行研究によると、年齢依存疾病は、出芽酵母と分裂酵母の両方において、成長状況を変化させ、経時寿命ないし最後の分裂段階を分析することにより、研究され得る。これは、細胞を定常期または対数期へと成長させることによって、定常期を有糸分裂後神経細胞に類似の加齢細胞をより象徴するものとしたことで成し遂げられた。そのような研究が、経時的加齢や調節経路に対する非常に貴重なデータを生み出してきているが、老化と静止の差異を区別することが重要である。老化は、高分化型の神経細胞や加齢性疾病で起きており、恒久的な増殖性細胞周期停止を指しているのに対して、静止は、環境によって誘発された外傷やストレスによって、周期において一時的に停止された細胞に起こる可逆的事象である。イースト菌モデルの別の限界は、取り巻く環境の単純さと、神経細胞内でAβによって引き起こされる炎症・分化・遊走が存在しないことである。
出芽酵母にとって、遺伝子欠失体種の収集物はすぐに利用でき、他の種における欠失も、遺伝子特定神経毒性影響の研究のために作られ得る。さらに、タウないしはAβを産生する出芽酵母種は、発現に対する影響を決定するための遺伝子配列によって分析され得る。プロテオーム解析は、毒性影響と細胞死を調節する宿主タンパク質識別にも役立つかもしれない。
神経細胞は、取り巻く環境の影響を通じてと同様に、アルツハイマー病の進行とともに変化する樹状突起・軸索・シナプスの独特な形態を伴う、非常に特殊で複雑な分化型細胞でもある。一方でイースト菌細胞は、同じ方法では分化されず、極めて適応性があり変化状態を生き残ることができる。しかしながら、分子分析をより平易にすることができるイースト菌遺伝子の相補的DNA(cDNA)ライブラリーをすぐに利用できることから、より複雑ではないことが、一つの利点としてみなされることができることは特筆すべきである。さらに、出芽酵母は一つの相同分子種神経毒性タンパク質も有さないにもかかわらず、分子相互作用が、機能や輸送の経路によく似ているのである。
●結論
アルツハイマー病の研究に対して、イースト菌技術での力強い取り組みが現在適用されてきている。タウとAβに焦点を合わせ、結果は数時間で得ることができ、脳内において、これらの分子がどのように病気進行の原因となっているのかについて、新たな識見を提供している。さらに、ゲノムの、プロテオミクス、メタボロミクスのツールの計り知れない力は、タウやAβがどのようにその影響を及ぼしているのかを完璧に理解するため、イースト菌研究においてたやすく利用され得るのである。このことと結び付けられるのが、これらの化合物のオリゴマー化や有毒影響を抑制する分子をたやすく識別できる、イースト菌における高処理スクリーニング法の能力である。