全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

食物繊維で上手なエイジングを実現しよう!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「successful aging(上手なエイジング、加齢)」ってお聞きになったこと、ありますか? 老年医学の分野では、炭水化物と健康や病気との関係が、最近の研究の焦点となっています。今回は、食物繊維の豊富な食品でsuccessful agingが実現できそうだ、という研究結果が報告されましたので、ご紹介します。

大西睦子の健康論文ピックアップ118

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

食物繊維が健康と長生きをもたらす

1987年、科学誌「サイエンス」に、初めてsuccessful aging(上手なエイジング、加齢)の考え方が提唱されました。ニューヨークのマウントサイナイ医科大学のロウ博士とカーン博士の発案です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3299702

これまでの研究では、一部の炭水化物とsuccessful agingについて調べたものにとどまり、炭水化物に関する様々な観点(炭水化物の総摂取量、グリセミック指数[glycemic-index:GI値]、グリセミック負荷[glycemic-load:GL値]、食物繊維、糖類)とsuccessful agingの関係については、疫学調査は行われていませんでした。(なお、「炭水化物」と聞くと、ご飯などいかにもデンプン質の食べ物をイメージされる人が多いかもしれません。ですが、炭水化物は大きく、砂糖などの糖類やその他のデンプンなどが含まれる「糖質」と、「食物繊維」に分けられます)

そこで、オーストラリアのシドニー大学の研究者たちは、GL値やGI値、全炭水化物の総摂取量、糖類、食物繊維(果物、野菜、パン・シリアル含有分)の摂取量とsuccessful agingの関係について、10年間の疫学調査を実施し、米国老年学会雑誌(Journals of Gerontology: Medical Sciences)2016年6月号に発表しました。

Bamini Gopinath, Victoria M. Flood, Annette Kifley, Jimmy C. Y. Louie and Paul Mitchel
Association Between Carbohydrate Nutrition and Successful Aging Over 10 Years
J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2016, Vol. 00, No. 00, 1-6
doi:10.1093/gerona/glw091

研究者たちは、視覚障害や目の疾患を評価するためのオーストラリア人対象の大規模疫学調査(ブルーマウンテンアイ研究)のデータを使用し、調査開始時にがんや冠動脈疾患、脳卒中に罹患していない49歳以上の 1609人について、10年間追跡調査しました。対象者の栄養摂取状況のデータは、145項目からなる食物摂取頻度調査票を用いて収集されました。対象者は5年目と10年目に、病歴に関するアンケートに回答しました。なお、この研究ではsuccessful agingの定義を、「障害や抑うつ症状、認知機能障害、呼吸器症状を持たず、慢性疾患(がん、冠動脈疾患、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、糖尿病)に罹患せず、機能的自立や精神的な健康が保たれていること」としています。

10年後、対象者1609人のうち249人(15.5%)は、successful agingを実現していました。一方、750人(46.6%)は、successful agingが実現できず、610人(37.9%)は死亡していました。successful agingを実現できている人々は、そうでない人々(非実現もしくは死亡)に比べ、研究開始時点で、食物繊維の総摂取量とパン・シリアルからの食物繊維摂取量が多いという傾向がありました。対象者を食物繊維の総摂取量ごとに4つのグループに分けると、摂取が多い最上位グループの人々は、最下位グループに比べ、successful agingを実現できる傾向が高くなっていました。統計学的には、調査開始時の食物繊維の総摂取量が1単位上がるごとに、successful agingの実現性は2%高まりました。

以上から、論文では、10年間の追跡調査によって、食物繊維摂取(総摂取量、パン・シリアル由来摂取量、果物由来摂取量)とsuccessful agingには関連があるという新しい疫学的エビデンスが示せたとしています。

なお、食物繊維摂取が加齢の状況に関与することについては、以下のような説明が考えられます。
●加齢は、低度の慢性炎症と代謝機能の衰えの進行に伴うもの。食後血糖値の上昇がフリーラジカルを再活性化させ、炎症物質(サイトカイン)の大放出を招くが、食物繊維の保護的な効果が、食後血糖値の急上昇の抑制につながりうる。
●食物繊維に付随する、粘性や発酵性などの特性が、生理学上、より重要な性質でありうる。特に、食物繊維が腸内細菌によって発酵されて生じる短鎖脂肪酸が抗炎症反応にプラスの影響を与えると言われている。
●食物繊維の多い食品や全粒小麦、野菜、果物、豆類は、単に食物繊維だけでなく、一緒に口に入る様々な成分を含んでいる。むしろそれらが、食物繊維そのもの以上に、食物繊維の保護的効果の実体である可能性がある。


果物や全粒パン・シリアルに注目

食物繊維の摂取源として注目すべき食品が、果物と、全粒小麦粉など繊維を多く含む原料を使用したパンやシリアルです。

果物からの食物繊維摂取量が多い上位4分の1は、少ない4分の1の人々に比べ、81%もsuccessful agingの実現性が高くなっていました。また、パン・シリアルからの食物繊維摂取量が多い上位3分の1の人々は、最も少ない下位3分の1の人々に比べて、10年後にsuccessful agingを実現する割合が78%も高まっており、逆に、死亡リスクは低くなっていました。統計学的解析でも、調査開始時の摂取量が1単位上がると、successful agingの実現性が高まりました。逆に、果物やパン・シリアルからの食物繊維摂取量が少ない、下位半分の人々は、上位半分の人々に比べて、successful agingの実現性が低くなりました。

論文では、高齢者の間では、野菜だけではなく、果物やパン・シリアル由来の食物繊維が、successful agingの予見因子となったとしています。このことは、食物繊維が健康や加齢に与える影響は、元になる食べ物ごとに実に様々であることを推察させます。心血管疾患や腎臓病への食物繊維摂取の効果が、元になる食べ物ごとに様々であるという先行研究とも整合します。

特に果物は、食物繊維に加えて抗酸化効果の両方の関与が示唆されます。これまでに、果物と野菜を毎日摂取する成人の英国人は、16.3年後にsuccessful agingを達成する率が35%上昇すると報告されています。さらに近年では、オーストリアの疫学研究で、果物を基本に取り入れた食事パターンは、12年後、successful agingにプラスに関与する結果(慢性疾患の回避、身体機能の制限の発生抑制、精神面の健康)が出ています。オーストラリアのビクトリア州がん協議会の報告でも、肉や揚げ物を控えて、果実をたっぷり含む食事パターンは、successful agingの可能性を向上させることが示されています。

また食物繊維や全粒小麦を摂取に関する観察研究では、高摂取ほど低度の炎症に対する効果が得られると、ほぼ一貫して示されています。


GI値・GL値は関与しない!?

一方、驚くべきことに、食事のGI値、GL値、および炭水化物の摂取量については、successful agingの予見因子として不十分という結果になったのです。

炭水化物と一口に言っても、その種類によって血糖への影響が異なり、他の食品よりも血糖値への影響が少ないものもあります。その違いを示すのが、GI値やGL値で、GI値は炭水化物の質、GL値は炭水化物の質と量の両方を示しています(定義に関しては、こちらの過去記事を参照ください。)。GI値とGL値ともに、肥満や糖尿病、心血管疾患の進展・発症に関与すると考えられています。

今回の研究では、successful agingを実現できている人々は、そうでない人々(非実現もしくは死亡)に比べて研究開始時点で低GIの食生活であり、一方、10年後に既に亡くなっていた人は、高GLの食生活の傾向が見られました。高GI食の人々は、低GI食の人々と比べ、10年後の死亡リスクが65%も上昇していました。統計学的解析では、調査開始時の食生活のGI値が1単位上がるごとに10年後の死亡リスクが4%上がっていました。

GI値とGL値の高い食生活が寿命の短縮に関与するのは、GI値やGL値の高い食品は酸化ストレスの増加や急性・慢性の低度炎症を助長することと矛盾しません。ところが、今回のデータでは、GI値とGL値の高い食生活はsuccessful aging の予見因子とはなりませんでした。原因は明らかではありませんが、データと統計処理の限界かもしれません。

改めて、successful agingの鍵って何でしょう? 2012年のユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、16.3年間におよぶ調査の結果、1)日々の果物や野菜の摂取、2)非喫煙、3)適度なアルコール摂取、4)運動、という4つを満たす健康的なライフスタイルを送っている人は、そうでない人に比べてsuccessful agingの実現性が3.3倍も高まることを示しました。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23091184

禁煙や適度な飲酒、運動については、習慣を変える必要があり、取り入れるにもハードルがなかなか高いですよね。見直しやすいのが、やはり食生活です。特に、果物や野菜はまさに食物繊維の供給源。パンやシリアルも、選び方次第です。みなさんも、是非、successful agingの実現に向けて、日々の食生活に、果物や野菜、食物繊維の豊富なパンやシリアルなどを取入れて下さいね!

  • 「認知症 それがどうした!」電子書籍で一部無料公開中
  • Google+
  • 首都圏・関西でおなじみ医療と健康のフリーマガジン ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索