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フィトケミカル、食べ方で損してる?

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「フィトケミカル」って、最近ちょっと話題ですよね。ファイトケミカルと呼ばれたりもしています。"植物の力"、つまり野菜や果物の持つ化学成分が、生活習慣病予防やアンチエイジングといった様々な健康効果をもたらすと期待されています。しかし調理法によっては、その大事な成分を知らないうちに捨ててしまっているというのです...。

大西睦子の健康論文ピックアップ79

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

5大栄養素、つまり炭水化物、たんぱく質、脂質、そしてビタミン、ミネラルに加え、近年注目されているのが、野菜や果物、豆類、芋類などに含まれている「フィトケミカル」です。

フィトケミカルは、植物性食品の色素や香り、苦味、辛味などの成分で、ギリシャ語で「植物」を表す「フィト」と英語の「化学」を表す「ケミカル」を組み合わせた言葉です。現在までに1000以上のフィトケミカルが知られており、まだまだ未知のフィトケミカルが数多くあると考えられています。フィトケミカルが足りなくても5大栄養素のように欠乏症にはならないものの、その抗酸化作用、抗がん作用、抗炎症作用や免疫増強作用など多くの機能が注目され研究が進んでいます。

ところで、野菜にはいろいろな調理法がありますよね。煮たり、揚げたり、蒸したり、直火で焼いたり、オーブンで加熱したり、はたまた電子レンジなど、様々な加熱方法があります。食品を加熱処理すると、生物学的変化、物理的変化、化学修飾※1等が起こり、その結果、栄養と食感も変化します。つまり、野菜などに含まれるフィトケミカルの含有量も変化するのです。

今まで多くの研究者が、調理後の野菜の栄養素の変化を研究してきましたが、結果にばらつきがありました。今回、イタリアとオランダの科学者が、100以上の科学雑誌に掲載されたこれまでの報告を調査し、各種のフィトケミカルに関する様々な調理法の効果を評価しましたので、ご紹介させて頂きます。

Mariantonella Palermo, Nicoletta Pellegrini, Vincenzo Fogliano The effect of cooking on the phytochemical content of vegetablesJournal of the Science of Food and Agriculture (Impact Factor: 1.76).
DOI:10.1002/jsfa.6478
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24227349


そもそも、なぜ私たちは加熱調理をするのでしょうか?

第1の効果として、微生物を死滅させて食品の安全性を高めます。また、栄養素の吸収を妨げる天然・合成化合物※2である抗栄養因子※3を不活性化させます。

第2の効果は、食品の栄養素の生物学的利用能※4や消化の向上です。例えば、変性※5したタンパク質は一般に天然のタンパク質よりもより消化されやすく、デンプンの糊化※6はアミラーゼ※7による加水分解※8を向上させます。

さらに、調理によって、香味化合物※9、抗酸化剤※10や着色剤※11などが形成されます。

一方、調理によるデメリットもあります。化学反応によって特定の栄養素が失われます。また、アクリルアミド※12などのような望ましくない化合物が形成されたり、食感が失われたり変色したりします。

フィトケミカルに話を戻しますと、調理によるフィトケミカルの変化は、2つの相反する現象から生じる可能性があります。つまり、熱分解でフィトケミカルの濃度が低下する一方、食品の基質※13が軟化し抽出性が高まることで濃度が上昇ます。ですから、調理によるフィトケミカル濃度への最終効果は、調理手順、野菜の軟化効果、分子の化学的性質に依存するのです。

研究者らは、各種フィトケミカルの名称や具体的な調理法(揚げる、茹でるなど)をキーワードとして使用し、これまでに科学雑誌に掲載された論文の大規模調査しました。その結果、各々のフィトケミカルの調理法による変化が示されました。

1つ1つご紹介していくと長くなりますので、今回は1つだけ、カロテノイドについてご紹介します(残りは次回に続きます)。


●カロテノイド

カロテノイドは、癌細胞の増殖を阻害、抗酸化剤として機能し、免疫応答を向上させると考えられています、カロテノイドは、ブロッコリーやニンジン、加熱したトマト、葉物野菜、サツマイモ、カボチャ、アンズ、メロン、オレンジ、スイカなど、赤、オレンジ、緑の果物や野菜に含まれています。

※以前の記事「ドレッシング 味付け以外にも役割」も是非ご参照ください。

カロテノイド※14の変化を評価するために、25の研究で調理実験が行われました。野菜を「煮る」のが最も多く研究された調理方法でした。煮た後、カロテノイドは軽微な損失(50%未満)がありました。

具体的には、2つの論文で、7品種のキャッサバと8品種のトマトを煮る実験が行われ、カロテノイドの減少は、品種間で同じ傾向を示しました。van Jaarsveldらは、サツマイモを煮る時間の違いを評価し、調理時間の増加につれてカロテノイドが減少することを報告しました。カロテノイド中に存在する色素や抗酸化剤としての機能は、炭素−炭素の結合が光や酸素、熱および酸でほどける際に生じます。言い換えればカロテノイドは光や酸素、熱および酸により分解されやすく、煮ることはまさにカロテノイドの濃度の減少させる行為なのです。

ただしルテイン※15は、一般的なカロテノイドの中で最も安定しており、 一部の製品では、β-カロチン※14よりも優れた性能を持っていました。また、植物細胞の細胞壁※16の破壊や、カロテノイド-タンパク質複合体の変性は、より効果的にカロテノイドの抽出を可能にします。特に、長い茹で時間(沸騰下)で、カロテンの可溶性ミセル※17の形成を促進することにより、カロテノイド抽出にプラスの効果を示しました。

最も興味深い報告は、カボチャを6分間沸騰状態で茹でたら、カロテノイド抽出性が顕著に増加したことです。報告を要約すると、沸騰後のカロテノイド増減は、サンプルによって異なります。アブラナ科の中では、沸騰した湯で茹でた後、カロテノイドが大幅な増加が観察されたのは、赤キャベツとカリフラワーでした。穀物や穀物ベースの食品では、調理後、カロテノイド濃度が減少しました。

また、揚げた場合、カロテノイドは軽微な損失(50%未満)でした。「揚げる」調理について調べた論文の中で非常に興味深かったのが、トマトとピーマン、サツマイモを様々なサイズに切断し、様々な時間でフライパン調理した時、細かく切り刻んで長く揚げた後にカロテノイドの分解の増加(カロテノイド損失)が観察されました。油の温度が高いと、カロテノイドの分解をが促進させる可能性があるだけでなく、さらには油がヒドロペルオキシド※18やフリーラジカル※19を生成してしまいます。

蒸した場合は、報告によって結果が一致していませんでした。電子レンジで処理した場合は、最も正確な論文では、調理後に軽微なカロテノイドの損失を認め、特に電子レンジにかけた時間が長いものが、最も損失しました。同じ傾向は、揚げや焼きカボチャにおいて観察されました。

ほとんどの冷凍野菜は、急速凍結する前に、90〜100℃位の熱湯に漬けたり蒸気にあてたりして調理加熱の70〜80%程度加熱します。これを「ブランチング」といいます。ブランチングは、細胞膜の破壊をおこしたり、野菜の基質を軟化しますので、生鮮食品の方がカロテノイドの濃度はより高くなります。


さて今回は、フィトケミカルを上手に取る調理法として、カロテノイドをご紹介させていただきました。確かに、安全性などのために野菜を調理をするメリットはありますし、カボチャ、赤キャベツとカリフラワーを煮た場合は例外ですが、一般には調理によってカロテノイドが減る傾向があります。カロテノイドを逃さず摂取するためには、野菜を大きめにザックリ切って、さくっと短時間で調理するのがコツのようです。

まだまだ、たくさんのフィトケミカルがありますが、残りは次回をお楽しみに!

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