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フィトケミカル、食べ方で損してる? その2

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前回の話では、カロテノイドが調理法によっては大きく失われることがあり、緑黄色野菜を摂るように心がけている人でも思ったほど摂取できていない可能性がある、ということでした。同じことが、フィトケミカル全般について言えそうです・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ80

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

前回に引き続き、フィトケミカルをできるだけ無駄なく、上手に体に取り入れる調理法の話です。


具体例に入る前に、まずは基本的な調理法の違いを簡単に分類してみましょう。ポイントは、それぞれ「熱の伝え方」がかなり違う点です。野菜に含まれる成分との化学反応に影響し、結果として栄養価に大きく差が出る可能性があります。

①湿式加熱(水を加えて加熱):水が食材に熱を伝える
→煮る、蒸す、茹でる
=約100℃(水の沸点)での調理

②乾式加熱(水を奪って加熱):油が食材に熱を伝える
→焼く、揚げる、炒める
=約150−300℃での調理

③電子レンジ(誘電加熱):マイクロ波(電磁波の一種)が食材に熱を伝える
→煮る、蒸す、焼く
=100℃以上での調理


では、前回と同じ論文をもとに、フィトケミカルの例を1つ1つ見ていきます。前回はカロテノイドに関しての話題でしたが、今回は、グルコシノレートから始めます。表に簡潔にまとめてありますので、そちらも参考にして下さいね(表ではこちらの記事でご紹介するのと分類の仕方が少し異なります。表ではフラボノイドやイソフラボンがポリフェノールと別になっていますが、どちらもポリフェノールの一種です)。

Mariantonella Palermo, Nicoletta Pellegrini, Vincenzo Fogliano The effect of cooking on the phytochemical content of vegetablesJournal of the Science of Food and Agriculture (Impact Factor: 1.76).
DOI:10.1002/jsfa.6478

フィトケミカル表.JPG

【グルコシノレート】

グルコシノレートは、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツなどアブラナ科の食物に含まれ、それらの野菜に特徴的な風味や苦味の元でもあります。硫黄分を含んでいることでも知られます。含有する野菜の栽培、保管、加工や調理など、多くの段階がグルコシノレートのレベルに影響を与えます。

著者らは、グルコシノレートの調理後の変化を評価するために、これまでに行われた16の研究を調査しました。グルコシノレートの濃度は、熱処理していく過程で酵素※作用や熱破壊によって低減します。またそれ以上に、野菜の組織から煮たり茹でたりする水の中に浸み出ることで失われるため、大量のお湯で茹でれば、それだけグルコシノレートはたくさん浸出してしまうことになります。

野菜を茹でた場合のグルコシノレート含有量への影響を分析した9つ論文のうち、3つは軽微な損失(50%未満)、5つは大きな損失(白菜で最大87%)が報告されています。具体的には、下記の論文で著者らがブロッコリー2品種について茹で時間を変えて比較したところ、調理時間が長いほどグルコシノレートの分解が進んでしまうことが判明しています。

Jones RB, Faragher JD and Winkler S
A review of the influence of postharvest treatments on quality and glucosinolate content in broccoli (Brassica oleracea var. italica) heads.
Postharvest Biol Technol 41:1-8 (2006).


また電子レンジは、野菜の細胞構造を急激に崩してしまうため、グルコシノレートが失われることが判明しました。特に、強いマイクロ波で長く調理をするほど、グルコシノレートの分解程度が大きくなります。アブラナ科野菜のグルコシノレートをより多く保つためには、蒸し調理しが他の調理法よりも優れています。なぜなら蒸す場合、水の中にグルコシノレートが浸み出ることを大幅に抑えられるからです。


【イソチオシアネート】

イソチオシアネートは、グルコシノレートと並んでアブラナ属の野菜に特徴的なフィトケミカルですが、調査結果もグルコシノレートと同じでした。

例えば、ブロッコリー2品種を時間や調理法を変えて加熱し、イソチオシアネート濃度の変化を評価しました。イソチオシアネートは、煮たり、蒸したり、電子レンジで加熱したりすると大幅に減少(50%以上)しました。調理時間が長くなるほどイソチオシアネートが多く失われましたが、その中では蒸し調理が一番損失が少ないという結果でした。他方、高圧調理や揚げた場合、グルコシノレートは多く失われました。


【ポリフェノール 】

ポリフェノールは、私たちの食生活で最も豊富なフィトケミカルと言われ、すでに同定されているだけでも約8,000もの物質の総称です。化学構造に応じて、フェノール酸やフラボノイド植物エストロゲンとも言われるイソフラボンやスチルベン(特に話題のレスベラトロール)、リグナンなど、様々なグループに分類されています(それぞれについては次回ご説明します)。

食品中のポリフェノールの内容は、質的にも量的にも食材によって非常に異なります。いくつかのポリフェノールは多くの野菜・果物に幅広く存在し、その他のポリフェノールは特定の野菜・果物やその品種に限定されています。ポリフェノールは食品加工の過程で多くの物理的・化学的影響を受けます。

研究者らは、これまでに行われた33の論文を基に、ポリフェノールの調理効果を評価しました。煮込み野菜は最も多く研究された調理法で、26の論文で扱っていました。そのうち9つの論文で大きな損失(50%以上)、15で論文は軽微な損失(50%未満)を報告しています。

特に、以下の論文によると、煮込んだ際の水の量と時間に比例してフェノール類が大きく失われることが判明しました。煮込みに際する損失は、煮汁へのポリフェノールの浸出や、加熱によるポリフェノールの分解に起因します。

Podsedek A, Sosnowska D, Redzynia M and Koziolkiewicz M
Effect of domestic cooking on the red cabbage hydrophilic antioxidants.
Int J Food Sci Technol 43:1770-1777 (2008).


また、高圧調理や電子レンジ調理、フライパン調理の後、ポリフェノールは大きく損失しました。水を使わない調理(揚げる、160℃以上でのオーブン調理等)でもポリフェノールの損失が報告されているものの、その程度にはばらつきがあります。時にはポリフェノールが増える現象も見られます(特に茹でる場合)が、これは調理によってポリフェノールが酸化等でダメージを受ける前に利用しやすい状態になった場合であって、例外的です。

結論として、分析した調理方法の中では蒸し調理がフェノール類の保持に最も優れていました。


ところで、野菜の種類によっても、調理後のフェノール類の合計含有量は大きく違ってきます。例えば、穀物およびマメ科植物のフェノール類は加熱処理に非常に敏感なので、穀物や豆類を中心に調査したほぼすべての論文で、調理後に大きな損失(最大で米80%、豆90%)を報告しています。また、葉物野菜も熱に敏感で、例えば、ほうれん草で最大44%のフェノール類損失が報告されています。一方、根菜では多くの場合に調理後にフェノール類の増加が観察され、ニンジンは含有量が最大200%となりました。

さらに生野菜に比べて、冷凍野菜で、ポリフェノール類の高い熱感受性(=熱に弱い)が観察されました。ちなみに、有機栽培野菜のほうが、通常栽培の野菜よりも、ポリフェノールが熱により破壊されやすいという報告もあります。


さて、フェノール類の総量について考えるのみでなく、ポリフェノール化合物それぞれの種類ごとに、調理の影響を考慮することも大切です。今回は長くなりましたので、ポリフェノールの具体例はまた次回。女性には特に気になる植物エストロゲンにも、実はいろいろあるんですよ!そのあたりも含めてご紹介します。


※酵素とは...
生物の細胞内で合成され、生命活動に関するほぼすべての化学反応の触媒となる高分子化合物(タンパク質、またはタンパク質+低分子化合物)の総称。触媒とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないか、反応によって消費されても反応完了と同時に再生して変化していないように見えるもの。酵素の種類は多種多様で,化学反応に応じて作用する酵素の種類が異なる。

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