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乳酸菌って 何がどういいの?

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※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

 乳酸菌食品を摂っている方も多いと思います。体に良いことを期待できますよね。ただし、それらの食品が主に働きかけるのは、私たちに直接ではなく、体の表面の「生態系」に対してだということ、ご存じでしたか?

ロハス・メディカル専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)

 初めて聞く人は驚くかもしれませんが、私たちの体の表面には非常に多くの微生物が棲み着いていて、私たちと共存関係にあります。常にいるので「常在菌」と呼ばれます。

 例えば、皮膚1㎠あたり通常1000~1万個、多ければ100万個の微生物がいます(蓮沼智子氏ら、2012年)。前号で紹介したむし歯のミュータンス菌も口の中の常在菌(唾液1mlあたり10万~1000万個、ベロ氏ら、2006年)です。

 そして何と言っても、最も多く常在菌がいるのは腸の中です(下コラム参照)。1人の人間の腸内に棲む微生物は、重さにして約1~1.5kg、少なくとも1000種類、9000兆個以上と分かってきました(マルコ氏ら、2010年)。数だけで言えば地球上の全人口の100万倍以上という凄まじい量です。これら私たちの消化管内に棲む微生物群の生態系を「腸内フローラ」と言います。

 この腸内フローラに科学者たちが注目するようになったのは、その構成や振る舞いが私たちの健康状態に影響を与えると分かってきたからです。

腸内も体の表面

 本誌2010年10月号の免疫特集でもお示ししましたが、私たちの体は竹輪のように穴の開いた筒として考えることができます。真ん中の穴が消化管内や気管内に当たり、そこは外界の延長、つまり「内なる外」というわけで、その表面の粘膜に常在菌が棲んでいるのです。
 ちなみに母親のお腹にいる時は赤ちゃんの腸内は無菌です。産道を通って生まれる時に母親の常在菌に感染し、瞬く間に埋め尽くされるのです(グレルント氏ら、1999年)。

免疫と相互に影響

90-h.jpg 「内なる外」(上コラム参照)である腸は、私たちが食べ物から栄養素や水分を吸収する場です。皮膚のように丈夫なバリアでなく、物質の出入りしやすい粘膜で覆われているのも、そのためです。

 反面、そのままでは無防備ですから、腸管には多くの免疫細胞が集まっています。『臨床粘膜免疫学』(清野宏編集、シナジー、2011年)という医学教科書にも「腸管は多数のリンパ球を保持する体内最大級のリンパ組織」という記述があります。

 この免疫系そのものが、特に大腸では常在菌との共生で成り立っており、腸内フローラのバランスによってアレルギー反応が左右されることも示唆されています(ビョークステン氏ら、2001年)。

 また健全な腸内フローラは、多くの種類の常在菌が絶妙なバランスの恒常性を保ちながら、粘膜表面にひしめき合っていて、侵入してきた病原微生物に増える隙を与えません。

 つまり、適切なバランスの腸内フローラは、免疫系の制御に役立ち、感染防御に役立ちます。逆に腸内フローラのバランスが崩れると、色々と困ったことが起こります。

 ウェルシュ菌など、物を腐敗させて有害なガスを作り出すものが増えると、それら有害物質が腸管から吸収され、肝臓、心臓、腎臓などに負担を与えるのです。世界で最も権威ある科学雑誌の一つ『ネイチャー』でも、腸内フローラの構成次第では心血管疾患が促進されると報告されています(ワン氏ら、2011年)。

 このようにあまり増えてほしくない菌を「悪玉菌」と称することがあります。悪玉菌が増える原因は、食生活や体調など様々なものが考えられます。

 これに対して、乳酸菌に代表される「善玉菌」は、発酵(下コラム参照)で乳酸など体に有用な物質を作り出し、免疫系へ良い影響を与えます。乳酸には、腸の動きを活発にしたり、腸内を酸性に保って悪玉菌には棲みにくい環境にしたりする働きがあります。

発酵と腐敗の違い

 腐敗も発酵も微生物の仕業で起こります。化学的には、発酵が「糖類が分解されて乳酸、アルコールなどが生成されること」、腐敗が「タンパク質、アミノ酸などが分解されて硫化水素やアンモニアが生成されること」と定義されています。
 しかし納豆やチーズなどのように、後者でありながら発酵として扱われているものもありますよね。要は、人間に有用な働きを発酵、ありがたくない働きを腐敗と使い分けているだけなのです。

 善玉菌も悪玉菌も、それぞれ腸内フローラのごく一部で、そのどちらにも属さない「日和見菌」が大半を占めています。ただし、その名の通り日和見菌は、善玉菌が優勢の間はおとなしいのに、悪玉菌が優勢になると自分たちも有害物質を作り出す危険性があります。

 というわけで、元々一握りしかいない善玉菌の働きを高め、悪玉菌より優位な状態を続けさせることが、健康への近道と考えることができます。

プロバイオティクス

 では、どうやったら善玉菌優位の状態に持っていけるのでしょう。

 1907年、ロシア人メチニコフが、ヨーグルトなどの発酵乳製品を日常的に食べているブルガリア人が長生きであることに目を付け、それらの食品に含まれる乳酸菌が腸内腐敗を緩和しているとの説を唱えました。

 研究が進むにつれ、メチニコフ説の正しさと、腸内フローラの存在、そして食品中の微生物が腸内フローラに影響を与えること、などが分かってきました。

 こうして「微生物を食べて微生物を制御する」というプロバイオティクスの概念が生まれました(下コラム参照)。イギリスの微生物学者、フラー博士は1989年に「腸内フローラのバランスを改善することで宿主の健康に好影響を与える、生きた微生物菌体」とプロバイオティクスを定義しています。

抗生物質への反省から

 微生物の健康への良い影響が世界的に注目され出したのは、1950年代以降、抗生物質(アンチバイオティクス)の弊害が明らかになってきてからです。抗生物質は細菌等の繁殖を阻害する化学物質で、20世紀に入って人々の衛生・健康状態の改善に大きく貢献した一方、腸内フローラの乱れによる副作用や、耐性菌による新たな問題を生みました。その反省から、微生物同士の共生を利用する「プロバイオティクス」(「生命のための」「生物の共生」といった意味の造語、ラテン語とギリシャ語に由来)の概念が確立されてきたのです。

 現在、国内でプロバイオティクスとして認められているもののほとんどが乳酸菌です。乳酸菌は乳酸を作り出す細菌の総称(1857年にパスツールが提唱)で、今日までに数千種類以上が確認されています。そのうちのごく一部が人での健康効果を実証され(表)、さらに安全性などの条件をクリアしてトクホ製品として製品化されているわけです。
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 ただし、トクホで表示できる健康効果は、薬事法に抵触しないよう限られています。そのため、期待される効果が例えば「アレルギー症状を軽減する」等であっても、トクホ製品のラベルには「お腹の調子を整える」とだけ表示されていたりします。

 なお、そもそも誤解されやすいのですが、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌は通常、お腹の中を通過するだけで、生きて届いたとしても定着するわけではありません(タノック氏ら、1995年)。たとえ人の便から採取して培養した〝ヒト由来〟の乳酸菌であっても、菌株は個人ごと異なるので、他人の菌株の定着は難しいのです。ましてや、ぬか漬けなど植物素材を発酵させる乳酸菌(いわゆる「植物性乳酸菌」)は、人に定着しそうにないですよね。それでも多くの健康効果が報告され、トクホ製品も数多く出ています。

 また微生物でなくとも、善玉菌の餌となって腸内フローラのバランスを改善するものはあり、それらオリゴ糖や食物繊維などは「プレバイオティクス」と呼ばれます。

「生きて届く」は必須?

 ところで、プロバイオティクスを謳う食品には、たいてい「生きて腸に届く」との記載があります。一体どういう意味があるのでしょうか。

 国内の乳酸菌研究の第一人者である理化学研究所の辨野義己特別招聘研究員は、「プロバイオティクスとされる乳酸菌等は、胃酸などに耐えて『腸に生きて届く』ことが実証されていて、それがトクホ認定条件の一つにもなっています。ですが、プロバイオティクスと認められていない乳酸菌がすべて、腸に届くまでに死んでしまうとは限りませんし、健康効果をもたらさないとも限りません。単に、実証されていない、というだけです。実証にはお金をかけて実験を繰り返さねばなりませんから、今までにその対象となった乳酸菌は、むしろ氷山の一角なのです」と説明します。

 要するに「生きて腸に届く」のは、トクホ認定に必須ということなんですね。

死菌や発酵生産物でも

 さて、ほとんどの乳酸菌は胃酸などによって大腸に届くまでに死滅してしまうわけですが、健康効果を得られないわけではありません。

 死んだ乳酸菌を使って免疫効果や抗炎症作用等が得られたという報告が次々に出されていますし、生きた乳酸菌より免疫活性効果が高かった例もあるようです(平松靖浩氏ら、2007年)。

 死んでしまっても、乳酸菌の細胞膜や糖タンパク質、中を満たす細胞質、DNAが入った核酸などの要素それぞれは残ります(総称して「菌体成分」)。それが腸内フローラに刺激を与えたり、特定の菌体成分の構造が腸内表面の受容体に取り付き、免疫が活性化されると考えられています。しかし、どの成分がどう関わっているかは今後の研究課題です。

 また、微生物が分解・発酵で作り出す物質を飲食することによっても、健康効果を得られることが分かってきました。例えば、ある乳酸発酵産生物は血圧を下げる効果が認められ、トクホ製品も既に販売されています(中村哲平氏、2009年)。

 以上をまとめると、次のように理解できます。
●消化管内には微生物群の生態系(腸内フローラ)が形成されており、私たちの健康状態に影響を与えている。
●乳酸菌を摂ることで、生きて腸に届く届かないに関係なく、腸内フローラのバランス改善や免疫活性化が期待される。
●トクホでプロバイオティクス機能が認められている乳酸菌は生きて腸に届き、健康効果が実証されている(薬事法上、表示には制約あり)。
●オリゴ糖などのプレバイオティクス製品や、体の外で作られた乳酸発酵産生物でも腸内環境の向上を図れる。

 日本人は、昔から発酵食品を毎日の食生活に取り入れてきました。プロバイオティクスであるとのお墨付きがあってもなくても、一定の効果を信じて、摂り続けてみる価値はありそうですね。

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