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消化されない食物繊維 わざわざ摂取する意味

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大人が受けたい今どきの保健理科12

吉田のりまき

薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰

 食べ物の中には、消化吸収される物と消化されない物があります。消化されない物は、消化管を通過した後は体の外に出ていってしまいます。しかし、ただ単に通過するだけでないことが最近の研究で分かってきました。

あまり教わらない

 消化については小学校や中学校の理科で学習します。消化されなかった物が小腸で吸収されず、そのまま大腸に移動して便になることも教わります。しかし、消化されない物として、食物繊維について十分に学習する機会はありません。

 最近力を入れられている食育でも、副菜に含まれている栄養素として紹介されている程度です。また、食物繊維は主食となる穀物にも含まれているのですが、そういう細かいことまで教科書で知ることはできないようです。

 とはいえ、日常の暮らしにおいて、私たちは食物繊維という言葉をよく使い、よく耳にします。それはきっと毎日のお通じと関係があるからだと思います。食物繊維が腸を掃除し、腸を動かし、たまっている便を外に出してくれるということで、便秘に悩む人たちが食物繊維を意識して摂っています。

実は2種類ある

 さて、よく知られ摂取されている食物繊維に、2タイプあるのをご存じですか?

 食物繊維は、布の繊維のような細い物で、水分を含んで膨れ上がり、腸を掃くようにきれいにしていくとイメージされがちです。このイメージは確かに合っているのですが、実は不溶性食物繊維と呼ばれるタイプにだけ当てはまるものです。不溶性食物繊維は、野菜などのセルロースが代表的です。

 それとは別のタイプに、水溶性食物繊維というものがあります。名前の通り水に溶ける食物繊維で、昆布がヌルヌルしていて糸を引くように粘っている状態を思い出していただければよいかと思います。昆布で粘っているのはアルギン酸です。その他、コンニャクのグルコマンナンや、ジャムを作る時に使われるペクチンなどが該当します。最近では、大麦や小麦に含まれるβグルカンも注目されています。

 2種類の食物繊維はどちらも便の量を増やし、腸を動かします。ただ、水溶性繊維の方には、さらに健康維持に関わる働きがあることが、最近の研究で分かってきました。

水溶性繊維の働き

 水溶性食物繊維が多い食事は、水溶性食物繊維による粘り気を持って腸の中を移動します。この粘り気の程度と糖の吸収についての研究が進み、水溶性食物繊維が多く含まれる食事では、食後に血糖値が急激に上昇しないと分かってきました。

 また、小腸で胆汁酸やコレステロールを吸着する働きがあることが知られるようになり、コレステロールを体外に排泄する作用を利用してメタボ対策にならないかと検討されています。

 大腸においては、不溶性食物繊維と同様、腸の中で暮らす腸内細菌のエサになります。ビフィズス菌などの善玉菌が増えると、整腸効果があります。ヨーグルトなどで善玉菌を摂取する際には、菌のエサとなる食物繊維を意識して一緒に食べるとよいでしょう。

腸内環境に影響

 腸の中にはたくさんの菌がいます。大体どれくらいの量の菌がいるかと言いますと、皆さんの体重の約1㎏は菌の体重だと思っておかれるとよいでしょう(3月号『乳酸菌って何がどういいの』参照)。その量や種類は一人ひとり違っているので、お腹の中の指紋と言ってもよいくらいです。

 そもそも生まれたての赤ちゃんの腸には菌はいません。ゼロです。成長する過程で一人ひとりの腸の中に異なった菌が生育し、菌のお花畑が広がっていくのです。この群落は、顕微鏡で実際にお花畑のように見えるらしく、腸内細菌フローラと呼ばれており、「くさむら」という漢字を使った腸内細菌叢と呼ばれることもあります。

 このお腹の中の指紋は、指紋と大きく違うところがあります。それは、日によって異なる点です。菌同士がお花畑の中で生育の縄張り争いをしているのです。その時の菌の力関係によって、善玉菌が減ってしまうと悪玉菌ははびこり、口から入ってきた病気の菌と闘うだけの力もなくなります。そうなると病気の菌がどんどん体の中で増えてしまい、発症してしまいます。腸内のお花畑の様子は、その人の病気に対する抵抗力と関係してくるのです。

 食物繊維が注目されているのは、便通改善だけでなく、病気を起こすような菌が急増しないように善玉菌を育て、腸内細菌叢を整える働きがあるからです。腸内細菌叢は、免疫システムと関係することも分かってきており、消化されない食物繊維をわざわざ食事として摂取する意義が再確認されています。

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