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肥満の原因は「腸内細菌叢」?
体質ってなんでしょう?太りやすい体質、太りにくい体質、そのカギの一つとして「肥満遺伝子」の存在も知られていますが、それだけではないようです。
大西睦子の健康論文ピックアップ57
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
先日、米国セントルイスにあるワシントン大学のジェフリー•ゴードン博士らのチームが、「腸内細菌叢が肥満に影響する」という新たな研究成果を科学雑誌『Science』に報告しましたので、ご紹介させていただ頂きます。
そもそも「腸内細菌叢」(ちょうないさいきんそう)って、何でしょうか?
私たちの腸内には、重さにして約1~1.5kg、少なくとも1000種類、9000兆個以上の微生物が生息しています。数だけで言えば地球上の全人口の100万倍以上という凄まじい量です。これらの微生物群の生態系を、「腸内細菌叢」あるいは「腸内フローラ」と言います。
「腸内細菌叢」は、炎症性腸疾患※1、アレルギー、皮膚疾患や脳、神経系疾患など、様々な疾患に大きな影響があることが示唆されていますが、何と言っても、肥満との関係が注目されています。ゴードン博士らは、2006年に、腸内細菌叢が肥満のリスクに影響することを報告しています。その後、肥満や痩せの人では、腸内細菌叢が異なることも報告されました。
ちょうど先週、科学雑誌『Nature』の報告で、「特定の種類の腸内細菌叢(いわゆる""善玉菌""※2)をもつデンマークの人々は、肥満や糖尿病のような代謝疾患の発症率が低い」というものもありました。ただし、これまでの研究では、こうした腸内細菌叢の違いが肥満の原因となっているのか、単なる偶然なのか、因果関係が不明でした。
そこで博士らのチームは、腸内細菌叢と肥満に直接関係があるかどうかを評価するために、それぞれに1人が肥満で、もう1人は痩せている、一卵性双子※3および、卵性双子※4のペアを募集しました。なぜなら、 双子は食生活や遺伝子が似ていて、肥満の原因が腸内細菌叢である可能性を絞り込みやすいからです。最終的に、女性の双子の4組が選ばれました。
研究者らは、腸内細菌をそれぞれの双子から集めて、無菌マウス※5の腸に移植しました。その結果、肥満の人から腸内細菌を移植された無菌マウスは、痩せた人の腸から細菌を与えられた無菌マウスより、体重がより増加し、より多くの脂肪が蓄積したのです。両群のマウスは、標準的なエサ(同内容・同量)を摂取しているので、その相違は、体内に入ってきた栄養素の代謝※6を変化させる腸内細菌によって引き起こされているはずです。
それでは、何が作用しているのでしょうか?
研究者らはさらに、2つのグループのマウスを一緒のケージに収容させました。 マウスは糞を食べます。そのため、これらの2つのグループのマウスは、意図せずお互いの微生物によって、影響を受け合います。ゴードン博士は、これを"細菌叢の戦い"と呼んでいます。その戦いの結果、肥満の人から腸内細菌を移植された無菌マウスは、痩せた人の腸から細菌を与えられた無菌マウスの細菌叢の影響で、体重が減りました。ところが、痩せた人から腸内細菌を移植された無菌マウスは、肥満の人の腸から細菌の影響を受けませんでした。おそらく、肥満の人は細菌叢の多様性が少なく、多様性の多い痩せた人の細菌叢が一方的に侵略できるものと推測されます。
でも、どうして一般に、伝染病のようにマウスの痩せが広がらないのでしょうか?
重要なのは、食事に左右されるものだったことです。 2つのグループのマウスを一緒のケージに収容させた際も、与えた食べ物によって結果に違いが出ました。食物繊維が多く飽和脂肪酸※7の少ない、健康的な食事を与えたときは、痩せた人の腸から移した細菌の影響をうけた肥満マウスは、体重が減少しました。ところが、食物繊維が少なく飽和脂肪酸を多く含む、典型的な西洋食を与えたときには、 痩せマウスと肥満マウスは互いの腸内細菌の影響を受けないように見えたのです。要するに、腸内細菌を交換しても、食事を変えなければ減量に効果はないと考えられます。
ところで、腸内細菌叢を利用した「痩せ薬」って可能なのでしょうか?健康な人の便を肥満の人の腸に移植するのは、今の段階ではちょっと厳しそうですよね・・・。また、下痢になれば流れてしまいますし・・・のときは治療できませんし。やはり自分でまずは、健康的なバランスのいい食事をとって、腸内環境を整えましょう!