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アルツハイマー病、治療対象はどんどん早期に

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(すずかんの医療改革の今を知る 特別編  難病に挑む医師たちに聴く①)

アルツハイマー病
岩坪威・東京大学大学院医学系研究科教授  その1

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 ロハス・メディカル誌創刊以来続いている連載『すずかんの医療改革の今を知る』特別編として、難病に挑む医師たちを鈴木寛・元文部科学副大臣が訪れ、対談していきます。初回の岩坪教授分は5回に分けて隔日でお届けします。

(鈴)難病に挑んでいらっしゃる方々のお一人目として、アルツハイマー病の世界的権威で国際的な賞も数多く受賞されている岩坪威教授にお話をうかがいたいと思います。よろしくお願いします。

 まずは医学的な面から、アルツハイマー病研究の現状を教えていただけるでしょうか。毎年どんどん変わっていきますので、医師免許を持っている人でも今現在どうなっているのか追いつけません。アップデートしていただけたらと思いますので。

(岩)アルツハイマー病は、人間の脳の老化に伴って、大脳の記憶に関わる海馬とかを含めた神経細胞が、いわゆる変性という現象を起こして段々抜け落ちていく、そして脳が認知機能を営めなくなるという病気です。

 皆様ご存じのように一番早く強くやられるのは記憶でして、段々進んでその他の様々な認知機能が冒され、生活機能が障害されて1人ではインディペンデントに生きられなくなる、そこから先を医学的に認知症と言っているわけですけれども、そういう段階に向かってゆく病気です。

 神経細胞が失われて脳が萎縮して、これが認知症につながっていくわけですけれども、神経細胞が失われるのと裏腹の関係で脳に2種類の異常な物質、タンパク質の線維状の塊が溜まってきます。

 一つがβアミロイドというタンパク質です。これは実はアルツハイマー病の原因にも深い関わりがあるということが分かってきていて、今ちょうどアルツハイマー病の根本的な治療薬の標的になっています。それから神経細胞の中に別のタンパク質、タウというものが溜まり、これは神経細胞が死ぬ原因と考えられています。この二つの異常なタンパク質の本体は、25年くらい前から分かってきたもので、私ども研究者の研究対象として、また治療薬、診断薬のターゲットとして非常に重視されています。

 90年代くらいからゲノムの時代となり、遺伝性のある珍しいアルツハイマー病、家族性アルツハイマーと申しますけれども、その原因になる遺伝子が分かってきました。APPとかプレセニリンとかいう遺伝子で、いわゆる若年性のアルツハイマー病を家族性に起こす、非常に稀なものです。日本でも患者さんの数を全部ピックアップできても恐らく1000人か2000人程度のものだと思います。その原因遺伝子が見つかって、その変異がすべてβアミロイドの溜まりを増やす方向へ動かすことが分かってきました。そこから敷衍して、遺伝性のないアルツハイマー病でもアミロイドはすべてのアルツハイマー病患者さんの脳に溜まっているので、それが原因でないかと考えられるようになりました。そこを標的に狙う治療ができないかと考えられたわけです。

 21世紀になりましてアミロイドを溜まりにくくする薬、アミロイドを作る酵素の阻害剤ですとか、あるいはいったんできてしまったアミロイドを抗体を使って取り除く抗体療法など色々な治療法が開発されました。過去5年くらいの間に、製薬企業が大規模な治験を、数千人のアルツハイマー病の患者さんを対象に行うようになりました。

(鈴)そんなに進んでいるんですね。結果はもう出ているんでしょうか。

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