全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。
病気とは何か
※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。
生命とは?
まず、当たり前すぎて忘れている人が多いかもしれませんが、無生物に病気は存在しません。生きているからこそ病気にもなります。病気とは、生命の状態の一つです。
では、生命とは、生物とは何なのでしょうか。
生物学の世界では、生命を、①自らの外部と内部の境界が明確で、②外部から物質を取り込んで代謝する系を有し、③自己を複製する能力を有するもの、であると定義しています。この定義が何を意味するかは、次の物理学の法則を知ることで、より一層明確になります。
物理学の世界には、この世の中のありとあらゆるものは、時間の経過と共に秩序を失っていくという法則があります(熱力学第二法則やエントロピー増大の法則と言います。興味のある方はネットなどでお調べください)。
生命は、外部から物質を内部に取り込み代謝、再び外部へと排泄する過程を介して、秩序を乱す「乱雑さ」を外部に捨てています(生命の定義の①と②です)。この結果、あたかもエントロピー増大の法則に逆らって、秩序(恒常性)を保っているかのように見えます。
つまり生命の特徴とは、絶えず物質を出し入れしながら(静的でなく動的)、一定の範囲内に状態が維持される恒常性なのです。たとえば、鉄は体内に4000mgほど存在し、毎日1mgを食事から吸収する一方で、汗や髪、アカなどから1mgを排出しています。女性は加えて1回の月経で15~50mgの鉄を排泄しますから、早い人では1年半ほどで体内の鉄がすべて入れ替わることになります。
生きた生物の中では、恒常性を維持するための様々なシステムが働いています。恒常性を不可逆的に保てなくなったら、それはもう生命ではありません。
この観点から見ると、現代医療が病気として扱っているものを、いくつかに分類することができます(外傷は除きます)。
まず素人の目からも明らかなのは、恒常性を維持するシステムが危機に瀕した状態です。直ちに対処しないと命が失われるような脳卒中や心臓発作、重篤な肺炎、腎不全、劇症感染症などを思い浮かべていただくとイメージしやすいかもしれません。
放置すれば確実に恒常性を維持するシステムが危機に瀕するであろうというもの、これも病気です。終末期に至らない段階のがんが典型的です。
現代医療では、さらに上流に遡って、恒常性を維持するシステムが危機に瀕する確率の上がった状態も病気として取り扱います。脳や腹部胸部の動脈瘤や冠動脈の狭窄などは目に見えて確率が上がっていますし、いわゆる生活習慣病も統計的に確率の上がった状態です。
ここから少し系統が変わります。恒常性維持システムに危機を与えるわけではないのだけれど、何らかの肉体的・精神的苦痛を感じる状態、これは古来から病気として扱われてきました。
さらに、人間は社会的な動物であるため、たとえ恒常性は維持していても、社会に適応して社会生活を営めないような時も病気として扱います。
これは、何を病気とするか、個人の側の事情だけでなく、社会の側の事情によっても変化しうるということを示しています。精神疾患は典型的な例ですが、社会の側が余裕をなくし"弱者"を支えられなくなってくると、病気も増えることになります。