全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。
低脂肪食ダイエット vs. 低炭水化物ダイエット
ダイエットの手法として「油脂の摂取を減らす」、「炭水化物の摂取を減らす」のは、根拠があると言われています。ただ、それぞれどう違って、どう効果的なのか、よく知られていません。どうやら、問題はカロリーだけではないようです・・・。
大西睦子の健康論文ピックアップ2
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
今回は、恐らく多くの方にとって非常に興味がある話題、ダイエット成功の秘訣に関する論文のご紹介です。
Effects of dietary composition on energy expenditure during weight-loss maintenance.
Ebbeling CB, Swain JF, Feldman HA, Wong WW, Hachey DL, Garcia-Lago E, Ludwig DS.
JAMA. 2012 Jun 27;307(24):2627-34.
せっかく、ダイエットで数カ月間の減量に成功しても、その体重を長期間維持することって、とても難しいですよね。その理由としては大きく二つ考えられます。一つは、はじめは頑張っても時間が経つと、ダイエットに対するモチベーションが下ってくるという行動上の問題、もう一つは、体が減量した状態に生物学的に適応するようになってしまう問題、すなわち、減量後、エネルギー消費量が減ったり、空腹を感じるようになって、結局リバウンドしてしまう=体重が増えてしまう、という問題です。
肥満の治療は、食事管理を徹底的に行って、行動上の問題を改善することが重視されています。でも、食事の内容は、もしかしたらそれと同じくらい大切かもしれません。主要栄養素が異なると代謝経路※1を調節しているホルモンに対する働きも異なります。その結果、エネルギー効率が違ってきます。同じ1kcalを摂取しても、使われるエネルギーの量は炭水化物と脂肪とタンパク質で、それぞれ異なるということです。
そこで皆さん、ダイエットを成功させるために、脂肪、糖分、炭水化物のうち、どれを減らすと一番効率がいいと思いますか?
これまで、食後の血糖値※2上昇を小さくする食事療法、特に「低GIダイエット」(同じ炭水化物でも、GI値※3の低い食品を選ぶもの)と「超低炭水化物ダイエット」(炭水化物の摂取量を少なく抑えるもの)が、"代謝に優利"と言われてきました。食事の血糖負荷※4の差は、代謝に影響するでしょうか、あるいは食欲に影響するでしょうか、基礎代謝量※5(安静時のエネルギー消費量)に影響するでしょうか。
今回ご紹介するボストンからの論文は、低脂肪ダイエット、低GIダイエット、そして超低炭水化物ダイエットの3種類の食事制限のうち、長期にわたって体重減少を維持するのにどれが有効かを比較検討したものです。期間は、2006年6月16日から2010年6月21日で、BMI値※6が27以上の体重過多あるいは肥満の成人(18歳から40歳)を対象となりました。参加者は、まず最初に"ならし期間"の食事で10~15%体重減少が見られた後、同じカロリーに揃えた次の3種類のダイエット食を各4週間ずつ摂り続けました。摂る順序は6通りになりますが、総合的に分析してそれぞれのダイエットの効果を調べました。
A: 低脂肪ダイエット食
エネルギー源として60%が炭水化物、20%が脂質、20%がタンパク質。血糖負荷は高い。
B: 低GIダイエット食
エネルギー源の40%が炭水化物、40%が脂質、20%がタンパク質。血糖負荷は中程度。
C: 超低炭水化物ダイエット食
アトキンスダイエット※7をモデルにして、エネルギー源の10%が炭水化物、60%が脂質、30%がタンパク質。血糖負荷は低い。
これら三つのダイエットの評価項目は次のとおりです。
1) 基礎代謝、総エネルギー消費量、
2) ホルモン値(レプチン、尿中コルチゾール排泄量、など)
3) メタボリックシンドロームの要素(コレステロール、中性脂肪、インスリン感受性、CRP、血圧など)
結果は以下のようになりました。
1)
ダイエット食を摂取している期間中のエネルギー消費量は、3種類でそれぞれ異なりました。
●基礎代謝量は、減量前と比べて、低脂肪ダイエットで1日平均-205kcalと最も大きく低下。低GIダイエットは1日平均-166kcalと中程度の低下、超低炭水化物ダイエットは1日平均-138kcalと低下の度合いは緩やかでした。
●総エネルギー消費量も、同様のパターンで低下しました(低脂肪ダイエット:1日平均-423kcal、低GIダイエット:1日平均-297kcal、超低炭水化物ダイエット:1日平均-97kcal)。
⇒つまり、低脂肪食は減量維持期間のエネルギー消費量が最も低下し、リバウンドを起こしやすいことになります。
2)
●肥満者で低くなるレプチン感受性は、低脂肪ダイエット<低GIダイエット<超低炭水化物ダイエットの順となりました。
●インスリン感受性※8は低脂肪食が一番低く、血圧の変化は3つのダイエットで違いはありませんでした。
3)
●俗に善玉コレステロールと呼ばれる血清HDLコレステロールの値は、低脂肪ダイエットで平均40mg/dL、低GIダイエットで45mg/dL、超低炭水化物ダイエットで48mg/dLでした。
●中性脂肪は低脂肪ダイエットで107mg/dL、低GIダイエットで87mg/dL、超低炭水化物ダイエットで66mg/dLでした。
⇒超低炭水化物ダイエットが、中性脂肪を最も低く抑えられる上にHDLコレステロール値が高くなるため、メタボリックシンドロームの予防になると思われました。
今回の研究は、「代謝」という概念から食事のカロリーを捉えなおすことを唱えています。減量後にその体重維持しようとした時、同カロリーの食事でも、超低炭水化物ダイエット食は低脂肪ダイエット食と比べて基礎代謝が1日平均67kcalも高く維持でき、総エネルギー消費量は1日約300kcalも違いました。この違いは、減量後に長期間、体重を維持するにあたって大きく影響すると思います。
ただし、注意すべき点もあります。超低炭水化物ダイエットではメタボリックシンドロームのほとんどの要素が改善されたものの、著者らは体への悪影響も2つ報告しているのです。
●ストレス評価ホルモンである「尿中コルチゾール」の24時間排泄量が、超低炭水化物ダイエットで最も高くなりました。コルチゾールのレベルが上がると、肥満、インスリン抵抗性※8や心血管系疾患を引き起こすことが、過去の調査で知られています。スウェーデンで行われた女性対象の調査でも、「低炭水化物ダイエットを長期間続けると、心血管疾患のリスクが増加する」という結果が出ています。
●体に炎症や傷がある場合に血清中に増えるタンパク質「CRP」(C-反応性タンパク質)の値が、超低炭水化物ダイエットで高い傾向にありました。
以上より、超低炭水化物ダイエットは、エネルギー消費やメタボリック症候群に対しては最も良い影響を与えましたが、心血管疾患の合併や慢性の炎症を増加するリスクがあります。一方、低脂肪ダイエットは、エネルギー消費と血清レプチンを変化させるのでリバウンドしやすいと考えられ、メタボリック症候群への悪い影響もありました。低GIダイエットは比較的マイルドではあるものの、超低炭水化物ダイエットと似ています。
というわけで結論としては、ダイエットの成功のカギは、食事の"バランス"が重要と言えるでしょう。のみならず、活動を増やしてカロリーを消費することも大事ですよね。みんながみんな同じダイエットをすればいい、というのではなく、今後は一人ひとりの体質や状況に合った「パーソナルダイエット」が必要になってくるのではないでしょうか。