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献血の先にある大きな国際貢献
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血友病患者の全国組織「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」が3月、日本赤十字社に対して、血液製剤を海外の血友病患者へ寄付するよう要望したそうです。こう言われても、一体何のことかサッパリ分からないと思いますが、歴史的な出来事になるかもしれません。
何がどう歴史的なのか理解していただくため、基本的な所から説明していきます。
血友病
血友病とは、男子5000人から1万人に1人の割合で発生すると言われている先天性の血液凝固障害です。原因遺伝子が性染色体X上にあって劣性遺伝(女性の場合はX染色体が2本あるので、遺伝子変異が2本とも入っている時だけ発症する)しますが、1~3割の患者は親から遺伝子を受け継いだのではない突然変異です。
血液が凝固しにくいのは、フィブリン糊という接着剤を作る凝固因子が先天的に不足していることによります。凝固第8因子が不足している病態を血友病A、凝固第9因子が不足している病態を血友病Bと呼びます。Aの患者数はBの約5倍です。
症状はAもBも基本的に同じで、関節内や筋肉内での内出血が起こりやすく、激しい痛みに襲われるとともに、その内出血を何度も繰り返します。進行すると関節が変形したり拘縮したりします。出血の場所によっては命に関わります。
このため、有効な治療法のなかった1960年代まで、患者の多くが成人まで生きられませんでした。日本でも1966~76年の血友病A患者の平均死亡年齢は18.3歳だったとの報告があります。
1960年代にクリオ(血漿)製剤、70年代に第8因子だけを抽出した濃縮血液製剤が登場し、血友病そのものの生命予後やQOLは大幅に改善しました。しかし、製剤の原料となった血液に由来するHIVやB型肝炎、C型肝炎の感染者が続出し、いわゆる「薬害エイズ」「薬害肝炎」として事件になったことをご記憶の方も多いことでしょう。
その後これらの製剤は加熱処理したものに切り替えられ、感染のリスクはほぼなくなりました。また、90年代に入ると第8因子と第9因子で、それぞれ原料に血液を用いない遺伝子組み換え製剤が登場しました。こちらの感染リスクは理論上ゼロです。
薬害のトラウマ、そして遺伝子組み換え製剤の方が簡便に持ち運べるというメリットもあって、我が国では遺伝子組み換え製剤の方が主流になりました(グラフ1)。いずれにせよ製剤を適切に使っている限り、病気のない人と同じくらいまで生きられるようになっています。