全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

カロリーって何?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

※情報は基本的に「ロハス・メディカル」本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

 食品のカロリーを気にしている人も多いと思います。二つの商品の食品表示を見比べて、ちょっとでもカロリーの少ない方を選ぶ、なんてこと日常茶飯事かもしれませんね。でも、なぜそんなことをするのでしょう? カロリーの数字を通して何が分かって、何が分からないのか、この機会に再確認してみませんか。

ロハス・メディカル専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)

 まず基本のき、理科の復習からです。カロリーとは、エネルギー(熱量)の単位でしたね。何かを燃やし、水1gを14・5℃から15・5℃まで1℃上昇させることのできる熱量が1calです(一般的には、1kcalを1カロリーと言うことが多いですね)。

 東京大学で「食と生命」の講座を主宰する加藤久典特任教授によれば、食品の場合も、燃やして得られる熱量を、ボンブカロリーメーターという専用の機械を使って計測することができます。ただ、この潜在的なエネルギーすべてを体が利用できるわけではありません。栄養学の教科書にも「摂取した栄養素は全部吸収されるものではないので、消化吸収率を考慮に入れなければならない」とあります(三田村敏男、吉田勉『基礎栄養学』医歯薬出版、2005)。

 例えば、炭水化物と言っても、糖質以外に消化吸収されづらい食物繊維もあります。食物繊維が多い食品では、ボンブカロリーメーターでの熱量値より、実際に体が使えるエネルギーはずっと少ないことになります。タンパク質も同様で、尿素など未分解のまま排出されてしまう成分が少なくありません。

 そこで、現在の食品成分表に掲載されている数値は、食品ごとにタンパク質、脂質、炭水化物それぞれの含有量を抽出して測定し、各成分の消化吸収率を考慮してエネルギー量に換算する係数を掛け、それを合算したものです。

 文部科学省が出している『五訂増補日本食品標準成分表』では、大まかに以下の係数を用いています(表参照)。

●主要な食品については、「日本人における利用エネルギー測定調査」の結果に基づく係数。
●それ以外の食品については、原則としてFAO/WHO合同特別専門委員会報告のエネルギー換算係数。
●複数の原材料からなる加工食品や、適用すべきエネルギー換算係数が明らかでない食品についてはアトウォーターの係数。

87r1.jpg
 このうち「アトウォーター係数」の歴史が最も古く、なおかつ国内で最も使われている有名なものでもあります。これは、20世紀初頭に米国のアトウォーター氏が、食品の燃焼熱から、それを人間が摂取して生じた排泄物の燃焼熱を差し引きして求めたものです。

 その後、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同特別専門委員会によって係数の見直しが行われ、さらにその後、米(ご飯)をはじめとする我が国でなじみの深い食材について、独自に「日本人における利用エネルギー測定調査」が実施されたのです。

 表をご覧いただくと、例えば小麦で、FAO/WHO数値と日本の数値とが随分と違うことに驚かないでしょうか。アトウォーター係数とも異なります。この違いは一体何でしょうか。

 『五訂増補日本食品標準成分表』を所管している文部科学省の科学技術・学術政策局政策課資源室に「日本人における利用エネルギー測定調査」の測定方法を問い合わせ、当時の調査報告書の一部を閲覧することができました。

 報告書によると、細かい測定方法は食品群ごとに異なるものの、例えば穀物では、「我々の食生活の中で主食とし重要な位置を占めている」精白米、胚芽精米、小麦粉、そば粉について、「18~25才の健康な日本人学生男女23名」が専用の施設に3週間泊り込んで消化吸収実験を行ったそうです。具体的には、決まった食事を食べて、その後で便や尿を採取され、入ったエネルギーと出てきたエネルギーの差の平均値を求めました。

 その結果、テスト食品中のタンパク質の消化吸収率は「従来の報告より若干高い」一方、「吸収たんぱく質1g当たりの尿中損失エネルギー」は、アトウォーターの係数で考えられているよりも「やや高」いことなどが分かりました。ただし特に後者は「食事条件によって大きく支配されることが知られており、これらの差異が人種による差異かどうかについては、今後更に研究する必要がある」とも書かれています。

 実は、この調査の内容、文科省に問い合わせる前に複数の専門家にも尋ねたのですが、どなたも把握していませんでしたし、文献も見つかりませんでした。文科省でも、科学技術庁時代の古い記録で、即答というわけにはいきませんでした。報告書で言及されていた食事条件や人種の違いの影響は、その後、きちんと研究されないまま今日に至ってしまっているようです。また、同じ日本人でも、この数十年の間に、食生活やライフスタイル、体格などが相当変わっており、同じ係数を使えるものなのか疑問も感じます。

 いずれにせよ、食品栄養表示されているカロリー値の根拠はその程度に過ぎず、相当の誤差を含んでいることになります。あまり細かいところで一喜一憂しない方がよさそうです。

健康との関係

 そもそも皆さんがカロリーを気にするのは、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る(差し引きエネルギーが黒字になる)と太り、それが健康や美容に影響するからだと思います。消費エネルギーを増やすことはシンドくて簡単でないから、摂取する方を絞ろうということでしょう。

 しかし、そうは問屋が卸しません。内分泌代謝を専門とする医師の矢作直也・筑波大学大学院准教授によれば、栄養素それぞれの体内動態は全く異なり、体が使用可能な形に変換する(代謝)ために消費するエネルギーとの差し引きエネルギー量は異なるので、摂取したタンパク質の1kcalと脂質の1kcalと炭水化物の1kcalを等価に扱うことはできないのです。

 また、エネルギー源として以外の栄養の役割についても考慮する必要があります。

 タンパク質や脂質は体の材料としても使われます。ビタミンやミネラルは体の調子を整えるのに使われます。こうした働きを無視し、同じカロリーだからと言って、例えばタンパク質を炭水化物に置き換えたりすれば体を壊しかねません。

 さらに、同じ脂質でも色々な種類があり、肉に多く含まれエネルギー源と考えてよい飽和脂肪酸と魚などに多く含まれ細胞膜など体の材料でもある不飽和脂肪酸は、分けて考える必要があります。

 もっと言えば、例えば同じ炭水化物であっても、単糖が鎖のように連なった多糖類のでん粉と、二糖類のショ糖、単糖のブドウ糖・果糖と、代謝に必要なプロセスは様々で、体に与える負担が異なります。

 矢作准教授によれば、戦後50年で日本人の2型糖尿病患者数は40倍になっており、その説明として「食べ過ぎ」(=カロリーの摂り過ぎ)説が言われてきましたが、きちんと調査したところ日本人の平均的な総エネルギー摂取量(カロリー)は、ずっと横ばいで増えていませんでした。ただ、脂質、特に動物性脂肪の摂取量が5倍近くに増えていました。
87r3.jpg

*矢作准教授提供

 カロリーだけ気にしていても健康になれるとは限らないことになります。

 カロリーは、食事の全体量の目安として用いる程度にしておいて、中身の栄養素についても気を配った方が良さそうです。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。

 直感的に理解したい方は、こちらもどうぞ

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索