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筋肉注射なぜ減った?
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昔はごく一般的に行われていた筋肉注射が、いつの間にかほとんど姿を消してしまったように見えます。代わりに主流になったのが皮下注射ですが、それはどんな場合にもベストな選択と言えるのでしょうか?
堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員(ミシガン大学環境学修士)
40代以上の方は、幼少あるいは若い頃、お医者さんにかかって、お尻や太ももにブスッと注射を打たれた記憶はありませんか? あれが「筋肉注射」です。でも最近あまり見ませんよね。「特殊な場合に打たれる痛い注射」というイメージを抱いている方も多いでしょうか。
注射は何種類もある
注射は、体内への針の入れ方で、表のように分類できます。このうち一般人がよく目にするものは4種類で、針の達する部位が体の表面に近い浅い方から順に、皮内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉注射となります。
皮内注射は皮膚の内部(表皮と真皮の間)に注射するもので、ツベルクリン反応など特殊なケースに限られます。
皮下注射は腕などの皮膚と筋肉の間の皮下組織(脂肪など)に注射するもので、現在の予防接種は、ほとんどがこれで行われています。
静脈注射は文字通り、静脈に注射します。注射器が太く、注射部位はひじの内側が多いです。
最後の筋肉注射は、皮下注射よりさらに深い、筋肉組織内に薬剤を注入する注射です。注射部位としては、肩、太もも前面、そしてお尻が選ばれます。いずれも、ある程度まとまった筋肉があり、太い血管や神経が通っていない所です。
方法による違いは次の三つです。
①薬剤の吸収速度・持続時間。注射された薬が血液に吸収され、血流に乗って全身に運ばれて効果を発揮するまでの時間は、速い順に静脈注射、筋肉注射、皮下注射です。一方、薬剤の効果の持続時間はちょうど正反対です。
②薬剤の量。注射できる薬剤の量が部位によって違います。通常、静脈注射なら1回50mlまで。筋肉注射は5mlくらいまで、皮下注射は0.2~2ml程度です。
③薬剤の性質。薬の溶け込むベース素材に蒸留水を使った水性剤は、どの方法でも入れられますが、油性の溶剤を使用した油性剤や、溶剤中に微細粒子を均一に混ぜた懸濁液などは、性質上、血液になじみにくく粒子も大きいため、静脈注射や皮下注射ではうまく入れられません。また、pHや浸透圧などによって痛みが強く感じられる薬剤は、皮下組織に比べ神経の分布の少ない筋肉に打った方が、軽い痛みで済みます。