全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

定期的な高レベルの身体活動が認知低下を予防する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 カナダでの研究で、高齢者における身体活動と認知機能との関連を調査したところ、定期的に高レベルの身体活動を行うことが、認知機能低下リスクを下げる可能性のあることが分かり、この効果は特に女性において顕著に見られました。

Physical Activity and Risk of Cognitive Impairment and Dementia in Elderly Persons FREE
Danielle Laurin, MSc; René Verreault, MD, PhD; Joan Lindsay, PhD; Kathleen MacPherson, MD; Kenneth Rockwood, MD
Arch Neurol. 2001;58(3):498-504. doi:10.1001/archneur.58.3.498
.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 認知症は、一般的で、損失が大きく、非常に加齢性である。その予防に対する変更可能な生活習慣の識別には、ほとんど注意が払われてきていない。そこで、身体活動と認知機能障害および認知症リスクとの関連を調査する。

 65歳以上の男女を無作為抽出した9,008人の地域標本からのデータを用い、認知症の前向きコホート研究であり1991~1992年に実施されたCanadian Study of Health and Agingで、対象者が評価を受けた。ベースライン時に認知機能が正常だった6,434人の適格者のうち、4,615人が5年間の追跡調査を完了した。認知症のふるい分けと臨床評価は、ベースライン時と追跡調査終了時の両方で実施された。1996~1997年に実施された追跡調査終了時調査において、3,894人が認知機能障害なしのまま残り、436人が認知機能障害はあるが認知症ではないと診断され、285人が認知症と診断された。ベースライン時の身体活動レベルによる、認知機能障害および認知症との関連を調べた。

 運動をしていないことと比較すると、身体活動は、認知機能障害・アルツハイマー病・いずれかの型の認知症のリスク低下と関連があった。より多い身体活動に伴う保護増大の有意な傾向が観察された。高レベルの身体活動がリスクを低下させるオッズ比を、年齢・性別・教育水準で補正を加えて調べると、認知機能障害に対しては0.58(信頼区間 95% 0.41~0.83)、アルツハイマー病に対しては0.50(信頼区間 95% 0.28~0.90)、いずれかの型の認知症に対しては0.63(信頼区間 95% 0.40~0.98)となった。

 高齢者において、定期的な身体活動が、認知機能障害や認知症に対する、重要で有力な保護因子になり得る。

●背景

 高齢化社会において、認知症は大きな健康問題となっている。ホルモン補充療法・抗高血圧薬治療・非ステロイド系抗炎症薬治療を除いて、認知症、そしてその主因であるアルツハイマー病に対する予防戦略は、ほとんど調査されてきていない。体力を含めて、食事や生活習慣などの変更可能な環境因子には、ほとんど注意が向けられてきていない。

 身体活動の、冠動脈疾患・脳卒中・糖尿病・骨粗しょう症を含む慢性疾患のいくつかに対する有益性はよく知られている。高齢者人口の若い方の区分および年配の方の区分両方における若年死亡率に対する身体活動の影響もよく確立されている一方で、身体活動が認知損失や認知障害を遅らせるかもしれないというエビデンスは、より曖昧になっている。臨床的設定において、体力介入の記憶や他の認知面に対する有益効果が、一貫性はないが、高齢者において記録されてきている。

 疫学研究で、高齢者における身体活動の認知機能障害や認知症リスクに対する役割を調べたものはほとんどない。有病患者を使っての症例対照研究のいくつかにおいて、運動が、認知症、とりわけアルツハイマー病に予防的であるという提案がされてきているが、またもや、これらの研究成果は首尾一貫して繰り返されてきてはいない。これらの研究においては、身体活動の後向き評価が、結果の妥当性に限界を与えている。いくつかの前向き研究においては、一致しない結果も報告されてきている。

 本研究では、定期的な身体活動と引き続く認知機能障害や認知症の発生との関連を、大規模前向きコホート研究でカナダの高齢者人口の代表的標本に基づく、Canadian Study of Health and Aging(CSHA)において評価した。

●方法

(1)CSHA-1
 カナダ全土10州の36の都市部および郊外から抽出された65歳以上の男女による代表標本により、1991~1992年に実施された。対象となった9,008人は面談を受け、認められる健康状況・慢性病・基本的日常生活動作および日常生活関連動作の確認がされた。修正版ミニメンタルステート検査により認知症のふるい分けが実施された。得点が77点以下で陽性判定を受けた対象者、および78点以上の陰性判定対象者からは無作為抽出標本が、3段階の臨床評価を受けるよう求められた。
1 看護師による聴覚・視覚に関する問題のふるい分け、および薬物治療・病歴・家族健康歴のデータ収集が行われた。
2 医師による、標準的健康診断と神経学的検査が実施された。
3 精神測定学者による神経心理学的組み合わせ検査が、修正版ミニメンタルステート検査得点50点以上の対象者に実施され、結果は神経心理学者により解釈された。
予備診断は、「精神障害の診断と統計の手引き-改訂第3版」基準に基づき、医師と神経心理学者によって個別に実施され、その後コンセンサス会議に持ち込まれた。意見の一致した診断は以下の分類をした。
1 認知障害はあるが認知症ではない(cognitive impairment - no dementia:CIND)
2 国立神経疾患・伝達障害研究所、および脳卒中/アルツハイマー疾患・関連疾病協会の
基準によるアルツハイマー病(可能性大または可能性あり)
3 世界保健機関の国際疾病分類第10版基準による血管性認知症
4 その他の特定認知症
5 分類不能な認知症

 認知症のないすべての対象者は、自己申告危険因子調査票に記入してEメールで返信することを求められた。この質問票には、人口統計学的特徴・職業的及び環境的(危険因子への)曝露・生活様式・病歴・家族健康歴が含まれていた。

(2)CSHA-2
 追跡調査は1996~1997年に実施された。連絡を取ることが可能で、参加に同意した対象者は、平均5年経過に伴う健康状態および機能の変化測定のため、再度面談を受けた。ふるい分けおよび臨床評価を含め、CSHA-1と同じ過程による診断を受けた。CSHA-2のコンセンサス会議での診断は、CSHA-1の診断結果知識なしで実施した。認知症と血管性認知症については、CSHA-1と同じ基準による診断と、さらに新しい基準である、「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」基準、およびNational Institute of Neurological Disorders and Stroke-Association Internationale pour la Recherche et l'Enseignement en Neurosciences (NINDS-AIREN)基準を用いての診断とを行った。

(3)運動データ
 運動データは、対象者に認知障害がない場合にCSHA-1の一部として収集され、ベースライン時までのそれ以前の活動を示すものとした。身体活動レベルは、危険因子調査票の二つの質問から、定期的な身体活動報告をした対象者の運動頻度と強度を合わせて評価した。総合評価は、頻度に関する回答(週に3回以上・毎週・毎週より少ない)と強度に関する回答(ウォーキングより激しい・ウォーキングと同じ・ウォーキングより緩い)との組み合わせにより、低度・中度・高度の3段階とし、以下のように定義した。
1 高度身体活動は、週に3回以上でウォーキングより激しい運動
2 中度身体活動は、週に3回以上でウォーキングと同じ激しさの運動
3 低度身体活動は、1および2以外のすべての組み合わせ
4 定期的運動なしと報告した対象者を比較基準とした

(4)設定
 身体活動の認知機能障害や認知症に対する効果を、CSHA-2終了点での症例と対照により、CSHA-1内の症例対照法を用いて評価した。分析に含まれるためには、最初に臨床評価によって、陰性または認知症やCINDなしの群にふるい分けられなければならなかった。CSHA-2の最終診断によって、次の四つの結果が調査された。
1 CIND
2 アルツハイマー病
3 血管性認知症
4 いずれかの型の認知症
認知症の診断は、「精神障害の診断と統計の手引き-第4版」基準に基づいた。

 CSHA-2において、ふるい分け検査および/または臨床評価によって、認知機能障害や認知障害がないまま残った対象者は、対照群となった。

 5番目のエンドポイントは対照群でのみ、CSHA-1からCSHA-2の修正版ミニメンタルステート検査で5点以上の得点低下があったかどうかを調査した。

(5)対象者
 CSHA-1の元標本9,008人のうち、ニューファンドランド島からの442人とCSHA-1においてCINDまたは認知症と診断された826人が除外された。残った7,740人の適格者中、6,434人が利用可能な危険因子調査票を有した。追跡調査期間に死亡した1,172人、CSHA-2への参加を拒否した374人、追跡調査からいなくなった273人が除外され、4,615人が残った。このうち、3,894人がCSHA-2においても依然認知機能障害がなく、対照群となった。436人がCIND、194人がアルツハイマー病、61人が血管性認知症、30人が他の特定認知症または分類不能な認知症と診断された。

(6)統計分析
 運動と認知損失・CIND・アルツハイマー病・血管性認知症・いずれかの型の認知症との関連評価のため、五つの分析を実施した。五つのエンドポイントに対する一変量による粗オッズ比と多変量による補正オッズ比を、ロジスティック回帰モデルにて求めた。年齢・性別・教育水準は、潜在的交絡因子としてすべての多変量モデルに加えられた。他の潜在的交絡因子として、認知症の家族歴・日常的喫煙・日常的アルコール摂取・非ステロイド系抗炎症薬使用・7項目による日常生活動作総合点(食事・ベッドからの移動・排泄・身づくろい・整容・歩行・入浴)・7項目による日常生活関連動作総合点(薬の管理・電話使用・お金の管理・調理・散歩・買い物・家事)・自己評価健康状態・10症状のうち報告された慢性疾患数(心臓病・高血圧・がん・脳卒中または他の神経疾患・関節炎・潰瘍・糖尿病・甲状腺疾患・腎臓病・抑うつ)を考慮した。

●結論

 認知機能に障害のなかった人たちは、年齢中央値72歳、修学年数中央値11年で、認知機能障害だが認知症ではない人たち(cognitive impairment - no dementia:CIND)の78歳、9年、認知症だった人の80歳、10年よりも、若く修学年数が多かった。性別による分布は、それぞれの分類ともに、男性がほぼ40%で女性がほぼ60%となった。報告された定期的な運動は、CIND、あるいは認知症である人たちよりも、対照群においてより頻度が高かった。CSHA-1の適格者で、追跡調査期間中に死亡した人やCSHA-2には参加しなかった人たちの特徴として、対照群と比較した場合に、ベースライン時により年齢が高く・教育水準がより低く・身体的により活動的ではなく、全体的にCIND群や認知症群と類似したものであった。

 年齢・性別・教育水準で補正を加え、身体活動と認知機能との関係を調べると、以下のような結果となった。
1 低度・中度・高度の身体活動は、身体活動なしと比較した場合に、CINDリスクがより低くなることと関係があった。
2 中度・高度の身体活動は、アルツハイマー病やいずれかの型の認知症リスクの有意な低下と関連があった。類似してはいるが有意ではない効果が、血管性認知症との間に観察された。
3 身体活動レベルがより高いことによるより低いリスクの有意傾向は、CIND群においてP<0.001、アルツハイマー病群においてP=0.02、いずれかの型の認知症群においてP=0.04となった。

 身体活動とCINDおよび認知症との関連を、年齢・教育水準で補正を加え男女別に調べると以下の通りとなった。
1 女性では、定期的運動は、CIND・アルツハイマー病・認知症リスクの有意な低下と関連があった。オッズ比は、身体活動レベルの最も高い群で最も低くなっており、身体活動なしの群と比較して、CINDと認知症リスクは約50%、アルツハイマー病リスクは約60%低下した。身体活動レベルの増加に伴うリスク低下の傾向は有意で、CINDはP<0.001、アルツハイマー病はP=0.03、認知症はP=0.02となった。
CINDオッズ比(信頼区間 95% P<0.001)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.71(0.46~1.09)
③中度身体活動 0.52(0.37~0.74)
④高度身体活動 0.53(0.31~0.89)
アルツハイマー病オッズ比(信頼区間 95% P=0.03)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.60(0.31~1.14)
③中度身体活動 0.67(0.42~1.06)
④高度身体活動 0.38(0.16~0.91)
いずれかの型の認知症オッズ比(信頼区間 95% P=0.02)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.55(0.31~0.97)
③中度身体活動 0.64(0.43~0.95)
④高度身体活動 0.48(0.25~0.94)

2 男性では、身体活動レベルとCIND・アルツハイマー病・認知症リスク低下との関連は、観察されはしたが統計的に有意とはならなかった。
CINDオッズ比(信頼区間 95% P=0.16)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.58(0.30~1.11)
③中度身体活動 0.92(0.62~1.38)
④高度身体活動 0.68(0.42~1.11)
アルツハイマー病(信頼区間 95% P=0.43)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.87(0.34~2.19)
③中度身体活動 0.68(0.34~1.37)
④高度身体活動 0.67(0.29~1.54)
いずれかの型の認知症(信頼区間 95% P=0.78)
①身体活動なし(比較基準)1.00
②低度身体活動 0.88(0.42~1.86)
③中度身体活動 0.82(0.48~1.41)
④高度身体活動 0.83(0.45~1.55)

 性別による身体活動とCIND・アルツハイマー病・認知症リスクとの関連を、年齢・性別・教育水準・喫煙・アルコール摂取・非ステロイド系抗炎症薬使用・基本的日常生活動作および日常生活関連動作・自己評価健康状態・慢性疾患数で補正を加え調べると、男女におけるオッズ比は、上述のものと類似する結果となったが、統計的有意性が見られなくなったものも存在した。女性では、CINDがP<0.003、アルツハイマー病がP=0.05と有意なままであったが、いずれかの型の認知症ではP=0.18となり、統計的に有意とはならなかった。男性では、3群ともに統計的有意性は見られなかった。

 認知機能が正常であった対照群のみにおいて、年齢と教育水準で補正を加え、身体活動と修正版ミニメンタルステート検査での5得点損失リスクとの関連を調べた。男性において関連性は見られなかったが、女性においては、高度身体活動群で有意な保護効果が見られ、オッズ比は0.58(信頼区間 95% 0.40~0.82)となり、身体活動レベルがより高いことと保護効果がより高くなることとの有意傾向は、P<0.01となった。

●考察

 本大規模前向きコホート研究から、カナダの高齢者を代表する標本において、日常的な身体活動が、認知機能障害や認知症、とりわけアルツハイマー病リスクに対して、有意な保護効果のあることが示された。これらの関連は、主に女性において観察され、身体活動レベルが上がるほどリスクが低下するという有意な用量反応関係を示した。また、研究期間を通じて正常な認知機能を有した高齢女性において、強度の定期的身体活動が認知損失のリスク低下と関連あることも分かった。

 本研究は、定期的な身体活動に取り組むことは、他の健康効果も含めて、高齢者において、特に女性では、認知機能障害や認知症の発生を遅らせるかもしれないし、予防するかもしれないことを示している。これらの研究結果は、さらなる疫学研究や介入研究による確認が必要ではあるだろうが、本研究は、定期的な身体活動が、高齢者における認知機能障害・アルツハイマー病・他の認知症の重要で有力な保護因子になり得ることを示しているのである。

↓↓↓当サイトを広く知っていただくため、ブログランキングに参加しました。応援クリックよろしくお願いします。

  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索