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鼻の機能を活かして 健康的に呼吸しよう
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大人が受けたい今どきの保健理科26
吉田のりまき
薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
私たちは生まれてからずっと呼吸をしています。やり方を教わらずとも呼吸できたので、実際に自分がどのように息を吸って吐いているのかを気に留めないで大人になりました。
最近、口呼吸や鼻呼吸という言葉を耳にするようになり、改めて自分の呼吸方法を確認する人が増えました。
なぜ鼻呼吸が良いと言われているのでしょうか。
鼻の穴から入った空気は鼻腔を通って喉の奥へ移動し気管支へ、そして肺に入ります。口から入った空気も喉で合流しているので、喉までの間に、何らかのメリットがあることになります。
鼻の奥のフィルター
私たちは鼻毛があることを知っていて、鼻から飛び出さないよう手入れをしています。鼻毛がなければいちいち手入れをしなくて済むのにと思いつつも、鼻毛が鼻の入り口で病原体や有害物質などの異物を侵入させないようにしてくれていることをありがたいと思っています。鼻がフィルターの役割をしていることは誰もが容易に気づくことです。
しかし、鼻の毛は鼻毛だけではありません。鼻から喉にかけて小さな線毛が生えており、絶えず動いています。鼻の中には粘液を出す細胞があるのですが、線毛が動くことでこの粘液に流れがつくられ、入ってきた異物を押し流して外に出しているのです。
臭いで身を守る
他にも鼻を経由するメリットがあります。皆さんに問いかけると、大抵の場合、危険な臭いを感知して身を守ってくれるという回答がすぐに得られます。
鼻が臭いを感知できるのは元となる分子が空気中を漂っているからです。この分子は小さくて目に見えませんが、鼻の中にある嗅毛が分子をキャッチしています。
ちなみに、食べ物の味わいにも鼻の嗅覚が関係しています。風邪をひいて鼻がつまったとき食事がおいしく感じられない経験をしたことがおありかと思いますが、ヒトは舌だけでなく鼻でも食事を味わっています。
今回紹介する絵本『あなたのはな』では、グレープジュース、トマトジュース、オレンジジュース、レモンジュースを用意し、普通に飲んだ時と鼻をつまんだ時とで味を比べています。実際にやってもらったことがあるのですが、自分が何のジュースを飲んだのか分からなくなっていました。
食事では、食べる前に臭いが鼻から入って来ます。また、口の中に入ってからも臭いの分子が鼻の中へ入ります。これら臭い情報と味覚情報が一緒になったものを脳が記憶しているので、鼻から入って来る臭いをシャットアウトするだけで、脳の記憶と異なってしまい、何を食べたのか分からなくなってしまうのです。
温度湿度の瞬間調節
さて、ここまででも、口ではなく鼻で空気を取り込むメリットお分かりでしょう。しかし、誰でも容易に気づくことなのに鼻呼吸を意識していた人は少ないと思います。鼻のことは義務教育でほとんど学習しないので、鼻の仕組みと健康とを結び付けて改めて考える機会をなかなか持てないのです。このコーナーでは、当たり前のことを再確認して健康増進に役立てていただきたいです。
最後に、教えてもらわないと気づかないことを書きます。
体温が一定に保たれているように、私たちの体の中は最適な状態に維持されて生命活動を行っています。呼吸というのは体の外と内とをダイレクトにつなげる行為ですから、最適な状態を乱さないように呼吸しなければなりません。
もし、凍えるような寒い朝に、冷たい空気をそのまま肺に届けたら、体の中が急に冷えてしまいます。また余りにも乾燥している空気だと、体の湿度に影響を及ぼします。そこで、外の空気が体内環境に影響を与えないよう鼻の中を経由している間に温度と湿度を調整しているのです。鼻の中には毛細血管がたくさん集まっていて、例えば冷たい空気を取り入れる場合は、毛細血管を広げることで冷たさを緩和させています。ちなみに鼻にはたくさんの毛細血管が集まっているため、鼻の粘膜を傷つけると鼻血も出やすいのです。
また、体の外に空気を出すときも、体から熱がどんどん逃げてしまわないよう鼻を経由させることで体の熱を奪わないようにしています。つまり、鼻は瞬間温度湿度調節器であり、異なる環境の体の外と内を無理なくつないでいるのです。口には残念ながらこの機能がなく、鼻呼吸をする意義は、人間が本来持っている温度湿度調節機能を活用することにあったのです。
私たちは新機能を持った便利な健康グッズばかりに目が行ってしまいがちですが、本来備わっている大切な機能が十分に活用されているかどうかを見直すことも、健康増進を考える上で大切です。