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新習慣が身につく「21日ルール」って本当?

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その名の通り、生活習慣病は生活習慣を改めればリスクをぐんと減らせるもの。そう誰しもが分かっていながら、現実にはなかなかできないことですよね。新しい習慣として身についてしまえばラクなのでしょうが、それまでどれくらい頑張ればいいのか、分かっていたら頑張れそうな気がします・・・。

大西睦子の健康論文ピックアップ56

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


「よし!今日からダイエットを始める!」と決意されたあなた。では、新しい習慣を身につけるのに、どのくらい時間がかかると思いますか?


新しい習慣は21日で身につくという、「21日ルール」という神話があります。「21日ルール」は、1960年に、アメリカの形成外科医であるMaxwell Maltz医師著の『Psycho-Cybernetics』に記されています。Maltz医師は、「通常、心の中でわかるまでの変化をもたらすためには、約21日以上かかる。例えば、整形手術の後には、彼の新しい顔に慣れるまで、約21日かかる。腕や脚が切断された場合、幻肢(まだ腕や脚があるかのような感覚)は約21日間持続する。新しい家に住む人は、それが自分の家のように感じるまで、約3週間は住む必要がある」と説明していますが、実際、どうなのでしょうか? だったら、生活習慣病を克服するには、21日間、食生活の改善をすれば、その習慣が身につくのでしょうか?


ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)のPhillippa Lally博士らのチームは、平均27歳(21-45歳)の学生96人(男性30 人, 女性66 人)を対象に84日間、1日1回新しい習慣を繰り返し、どのように身につくかを調査しました。

Phillippa Lally, Cornelia H. M. Van Jaarsveld, Henry W. W. Potts and Jane Wardle
How are habits formed: Modelling habit formation in the real world
European Journal of Social Psychology 40, 998-1009 (2010)
DOI: 10.1002/ejsp.674


新しい習慣として、27人は食べること(例:昼食に果実を食べる)、31人は飲むこと(例:昼食と一緒にボトル1本の水を飲む)、34人は運動(例:夕食の前に15分走る、朝のコーヒーを飲んだ後に50回腹筋をする等)、残りの4人は瞑想などを選びました。参加者は、毎日ウェブサイトにログオンして、「私は自動的に行った」「私は何も考えず行った」「しないことは難しい」など、行動の自動性について自己報告をしました。


結果は、習慣が身につくまでの平均時間は66日で、参加者の間で18日から254日まで個人差がありました。当然、より複雑な行動が習慣になるには時間がかかりました。例えば、毎朝コップ1杯の水を飲むというようなシンプルなものに比べて、定期的な運動の習慣づけはかなり大変でした。 運動の習慣を選択した参加者は、 飲食に関する習慣を選択した参加者と比較して、身につくまでに約1.5倍長くかかりました。また研究では、期間中、新たに始めた習慣を1日実践しなかった場合に、習慣の発展にどのような影響を与えるかも検討しました。もし、たった1日やらなかったことが致命的なら、健康的な習慣を身につけることはとても難しいことになりますが、長期的には問題ありませんでした。


ところで、そもそも習慣って何でしょうか? 習慣は、「長い間繰り返し行ううちに、そうするのが決まりのようになったこと。その国やその地方の人々の間で、普通に行われる物事のやり方、社会的なしきたり。心理学で、学習によって、後天的に獲得され、反復によって固定化された個人の行動様式」を示します。また、『American Journal of Psychology」では、心理学の観点から、習慣とは、「以前の繰り返しの精神的な経験を通じて獲得した、多かれ少なかれ、固定された考え方、喜び、感じ方のこと」と定義しています。


毎日何となくやっていることの積み重ねが、私たちの人生に大きく影響します。健康的な食事を心がけてアクティブにしている人は、自然と引き締まった体型になり、ファストフードばかり食べてじっとしている人は、余分な脂肪が体に蓄積します。思考も習慣化します。前向きに考えられる人はイキイキと楽しそうで、ネガティブになりがちな人は何をやってもつまらなそうです。もし、私たちが今の状況を改善したいなら、悪い習慣を克服するしかないと思います。


また習慣は、喜びなどの感情面にも大きく影響し、影響されます。以前取り上げた脳内報酬系が、その一つですよね。甘いものを食べて嬉しいと感じ、それを繰り返しているうちに、いつも甘いものと食べることが習慣になります。ただし、これは、いい報酬とはいえません。報酬としては、「成功」「達成」「勝利」による喜びがいいと思います。ただし、大きな「成功」「達成」「勝利」を得るには時間がかかりますので、日々の努力による変化は、とても小さいことでしょう。例えば、「今日はジョギングをした」「夕食はヘルシーなものを食べた」「失敗したけど前向きに考えた」といったことは、それだけで体型や考え方がすぐ変わるわけではなくても、「よく頑張った。いい1日だった!」と気分がよくなるはずです。そしてその習慣を、少なくとも2から3カ月は続けてみて下さい。かかる時間に個人差はあっても、まず自分の中での変化が、そのうちに他人にも分かるほどの変化になりますよ。

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