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「足の傷の治癒は、歩行を守るため」-寺師浩人神戸大教授

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寺師浩人教授.jpg 医学や工学分野の足の専門家が集まるユニークなシンポジウム「足と歩行を守る」(大阪大学大学院医学系研究科バイオデザイン学共同研究講座主催)が9月25日に大阪市内で開かれた。
 
 中でも興味深かったのは、寺師浩人神戸大学医学部附属病院形成外科学教授(写真)の基調講演での「私は患者さんに対する創傷治癒を目的にやっていたのだが、それは全く間違っていたということが分かった。血流を良くするということとか、傷を治癒するということはあくまで歩行を守るための手段に過ぎない」という話。

 寺師氏は糖尿病によってできる足の傷、「足潰瘍」の創傷治癒が専門(糖尿病性足病変についてはロハス・メディカル2014年7月号参照)。足潰瘍の病態などについての「神戸分類」の提唱者でもある。その寺師氏が「創傷治癒を目的にやっていたのだが、それは間違いだった」と言い切ったのが非常に興味深かった。


ロハス・メディカル論説委員 熊田梨恵

寺師氏は次のように続けて語った。

「患者さんは傷を治すつもりで私の外来に来られます。元々は歩けていたけど、(足潰瘍のために医療者から)歩かないようにと言われていて、歩いていない方です。そういう患者さんがどういうことを最初に仰るかというと

『先生、(私は)また歩けるようになりますか』と仰る。

そういう時に私は今までどういう風に言っていたかというと

『傷が治ったらね』などと言っていた自分もいました。

元々歩いていた患者さんが傷を治すのに4か月かかったとして、ついに傷は治ったけど歩けなくなったとしたら、私は傷を治すために患者さんの歩行を奪った人間ということになります。そんなことは絶対にあってはならないと気付きました。

『足病学』(※)という文明、文化、教育がないところでは、それさえ分からないということだと私は思っています。創傷治癒は血流を良くすることの上位にありますが、創傷治癒の上位にあるのが『歩行』。これぐらい崇高なものはないと今は思っています」


日本の医療は専門分化し過ぎて患者全体を診ることを忘れている、などと言われる昨今だが、こうして「歩行を守る」というテーマの中で、医療や工学の専門家を前に、大学教授である寺師氏が自らの気付きを率直に語る姿は印象的だった。


その上で、寺師氏は患者の歩行を守ることについて「ヒントはリハビリテーションにあると思っている」と述べた。糖尿病で重傷下肢虚血のある患者に早期積極的リハビリテーション(入院2週間以内に立位で行うリハビリテーション)を行った結果、歩行の再獲得や自宅退院に効果があったとする研究結果を示した。「早期積極的リハはきちんと創傷について理解している理学療法士が行えば、歩行にプラスに働くということが分かる。傷を悪くさせることもない」と述べた。

寺師氏によると、国内に糖尿病患者は約1000万人おり、このうち約20万人以上に「足の褥瘡」と呼ばれる足潰瘍がある。足潰瘍の原因は末梢性神経障害や末梢血管障害、感染症など。寺師氏が唱えた「神戸分類」は、糖尿病性足潰瘍を原因によって分類し、それぞれの傷の特徴や治療法などについて示している。

まとめの中で「歩行を守るということをもっと推進したいと思っている。リハの面々に入って頂いて早期の積極的リハをどう行うかということを確立しようと思っている」と話した。


※「足病学」とは (足の診療所webサイトより抜粋)
足病学は、足部や足関節を中心に下肢を専門に診て外科的治療までを行う診療科として、アメリカを中心に、イギリスやオーストラリアなど英語圏に広がっています。その昔は「キロポジスト」とも呼ばれ、英語圏以外では「ポドロージスト」などとも言われています。その中で、アメリカのポダイアトリーは、基礎医学に加え、「スポーツ医学」「リハビリテーション医学」「整形外科」や「生物力学」などの動きを診る他、「血管外科」「皮膚科」「形成外科」など『足』を診るために必要な分野を網羅した国家資格です。この資格保有者(ポダイアトリスト/足病医)は1万5000人と言われています。

糖尿病については、ロハス・メディカルの過去の特集をどうぞ。
絵で見て分かる生活習慣病
生活習慣病とホメオスタシス(2014年1月号)
蓄えを使うホルモン 貯めるホルモン(2014年2月号)
インスリンのやっていること(2014年3月号)
インスリン抵抗性(2014年4月号)
⑤ 高インスリン血症から生活習慣病へ(2014年5月号)
これってすでに糖尿病?(2014年6月号)
毛細血管がつぶれ3大合併症へ(2014年7月号)

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