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高齢者は病気より衰弱の予防、栄養ケアを-医療法人悠翔会理事長・佐々木淳氏①
「高齢者の場合、怖いのは病気ではなく衰弱。アメリカの報告では、高齢者で退院後に3年以上生きている人を見てみると、栄養状態が良ければ8割は生きている。悪いと2割だった。これは進行した膵臓がんと同じぐらいの生存率」――。関東を中心に在宅医療を行う内科医で、医療法人悠翔会理事長の佐々木淳氏は1月10日、阪大が開いた市民向け公開講座で高齢者の体の特徴や医療などについて講演した。高齢になると病気の予防に関心が向きがちだが、肺炎や転倒・骨折がきっかけの入院による要介護状態悪化を防ぐことが大切と注意喚起し、根本的な原因である栄養状態不良と筋肉の脆弱化や筋肉量減少防止のための栄養ケアの重要性を訴えた。
ロハス・メディカル論説委員 熊田梨恵
佐々木氏は関東を中心に在宅療養支援診療所などを開き、在宅患者約3500人を診療、看取りも行っている。76人の医師以外に訪問看護師や歯科衛生士、理学療法士など多くのスタッフを抱えている。「超高齢社会を生き抜くためのヒント~希望ある終末期のために」と題した公開講座(阪大大学院医学系研究科地域包括ケア学・老年看護学研究室主催)で講演した。
■高齢者にとってのリスクは「入院」
鈴木氏は、高齢者の要介護度が上がったり、心身機能が低下したりするきっかけとして「入院治療」が大きいと述べた。「フレイルなどで身体機能が弱ってきた高齢者が入院すると、身体機能と認知機能が低下すると一般的に言われている」と説明。「入院関連機能障害」(下記)として解説した。
①環境変化によるストレス・・・「リロケーションダメージ」過緊張・適応障害・せん妄
②使わないことによる機能低下・・・床上安静・食事制限による廃用症候群と低栄養の進行
(鈴木氏のスライドより)
例えば脳梗塞を起こして入院し、退院後に転倒・骨折が起こり再入院、誤嚥性肺炎に進行するなど、入退院を繰り返しながら要介護度が上がり、段階的に衰弱が進んで死亡に至ると説明した。
鈴木氏は自身のデータから、在宅高齢者が緊急入院する理由の約半分が肺炎と骨折と示した。肺炎による入院では約3割が、骨折では約1割程度が死亡。入院前後で平均要介護度を比べた場合、肺炎ではプラス1.72、骨折ではプラス1.54だったと示した。入院医療費は、肺炎では平均で約118万円、骨折は約132万円かかっているとして医療費圧迫への影響も示唆。
「高齢者は何かあっても『入院できるから安心です』と仰る。でも違いますよ、入院したら具合が悪くなりますよ、ということです。だから『入院してなんとかしてもらいましょう』ではなくて『入院しないように頑張りましょう』ということが正しい」と語った。
■入院←肺炎、転倒・骨折←低栄養・筋肉量減少、筋肉の脆弱化
在宅にいる高齢者の場合、肺炎や骨折の原因は共通しており、低栄養と筋肉の脆弱化、筋肉量の減少があると述べた。佐々木氏の在宅患者のデータを示し、「9割が低栄養状態、7割が病的に筋量が減っており、8割が足腰が弱っていた。一言でいうと、栄養状態が悪くて筋肉が弱っている、これが高齢者。肺炎と骨折は全然違う病気に見えるが、ベースラインは同じ。栄養状態が悪くて筋肉が弱いこと」と説明した。
高齢者の場合、
食事量低下→低栄養→筋量減少→運動機能低下→廃用症候群→食事量低下(最初に戻る)
(スライドより)
というスパイラルで衰弱が進行していくと解説。
高齢者がかかりやすい誤嚥性肺炎や褥瘡、転倒・骨折、認知症の進行、尿路感染症などには全てこの「ネガティブスパイラル」が背景にあると説明した。「病気を一つ一つやっつけるのではなく、この根っこをどうするかということを考えなくてはいけない。どうするかというと、食事量をしっかりとって栄養状態を良くしていく。栄養ケアがすごく大事だということ」と栄養の重要性を強調した。
■ちょっと太目ぐらいの方が死亡率低い
高齢者のBMIと死亡率について示し、「60代、70代ではちょっと太目ぐらいの方が死亡率が低いということが分かっている。日本の後期高齢者はやせ型が多いので、しっかりご飯を食べて、太ってもらったら元気な高齢者が増えるかもしれない」との見方を示した。
高齢者に対する塩分制限の現状も問題視。「塩分制限は高血圧にならないための食事療法なので、本気でやるなら若い頃からしなければいけない。30代からすれば、脳梗塞や心筋梗塞になる人が7.5%減る。しかし70代80代になってからではあまり変わらない」と海外のデータを示した。高齢者の塩分制限は血圧の上昇を緩やかにすることが目的のため、高血圧そのものの改善にはならないどころか、低栄養のリスクになると指摘。「塩分制限をして薄味にして食が進まない、結果として栄養状態が悪くなったら死亡リスクが上がる。それよりも、高齢者は美味しいものを食べて体重を増やした方がいい」と述べた。
高齢者が要介護状態になる原因は、動脈硬化が原因の脳血管疾患より衰弱によることの方が多いとのデータを示し、「しっかりご飯を食べて運動する。これは皆さん自身の努力でできること。怖いのは病気より衰弱」と強調した。
高齢者の退院後の状態を見たアメリカの研究報告で、低栄養状態の高齢者は栄養状態が良好な高齢者に比べて累積生存率が低いことも示した。「退院した後3年以上生きている人を見てみると、栄養状態が良ければ8割は生きている。悪いと2割だった。これは進行した膵臓がんと同じぐらいの生存率。すい臓がんだとみんな一生懸命治療するのに、低栄養というと『何か食事が少ないわよね』というぐらいでほったらかされている。しっかり食べて太って頂けたら、この人たちの生存率も上がる。栄養ケアはとても大事。『高齢になったらあれ食べちゃダメ、これ食べちゃダメ』ではなく『高齢だからこそ栄養をバランスよくとってもらわないといけない』というのが正しい栄養指導」と述べた。
■筋肉は何もしないと1日1%減る
一般的に筋肉量は20代をピークに、その後は1年間に1%減るとされていると述べた。「これは生理現象なので、しっかり筋肉を守れば減らない人は減らない。逆に寝たきりだと1日で1%減る。高齢者が1週間寝たきりだと筋肉がなくなってそのまま寝たきりになってしまう」と述べた。筋肉をつけるにはタンパク質の摂取と運動が必要だが、70代になると20代の約2倍のタンパク質を摂取する必要があり、毎回の食事に現実的に取り入れるのは難しいことも示唆。その上で、栄養が不足するより過剰の方がまだ良いとして栄養指導の重要性を強調した。
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「寝たきりを遠ざける運動と栄養」
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