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HbA1cと認知症の関係

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 英国で、糖尿病の診断に用いられるHbA1c値と死亡率や認知機能などとの関連を調べたところ、自己申告による糖尿病歴はないもののHbA1c値が糖尿病診断基準となる7%以上の場合、かなり有意に認知症リスクが高まることが分かりました。論文全体から、HbA1c値と死亡率・認知症に関連する部分をお伝えします。

An investigation of the population impact of variation in HbA1c levels in older people in England and Wales: From a population based multi-centre longitudinal study
Lu Gao1*, Fiona E Matthews1, Lincoln A Sargeant2, Carol Brayne2 and MRC CFAS3
BMC Public Health 2008, 8:54 doi:10.1186/1471-2458-8-54

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 糖尿病は高齢者においてはよくあることで、数は増加している。糖化ヘモグロビン(HbA1c)は、過去3カ月にわたる平均血糖値の指標である。HbA1c検査は、糖尿病を調べるために用いられる臨床法の一つとなっている。最近の研究は、HbA1cと総死亡率・心血管疾患・認知機能との関係を報告してきているが、高齢者に集中して関係を調べた研究はほとんどない。

 本研究の目的は、イングランドおよびウェールズにおける65歳以上の人における、HbA1c値と総死亡率・心血管疾患発症・認知低下・身体障害との関連を調べることである。

 10年にわたる多センター・縦断的加齢研究に参加した69歳以上の男女1,139人が、追跡調査の5~6年後にHbA1c測定を受けた。

 総死亡率・心血管疾患死亡率・虚血性心疾患死亡率は、HbA1c増加に伴い増加した。糖尿病診断を受けた対象者、または、自己申告の糖尿病はないもののHbA1cが7%以上だった対象者は、総死亡および心血管疾患での死亡率が高くなった。糖尿病診断を受けていないHbA1c7%以上の群は、認知症発現の有意により高いリスクを抱えており、オッズ比は4.8(信頼区間95% 1.1~21.6)となった。自己申告による糖尿病はあるがHbA1c7%未満の対象者は、糖尿病がなくHbA1c7%未満の対象者に相当する死亡率および認知症発症となった。

 本研究結果は、HbA1c値が、死亡率や認知症のような長期アウトカムと関連があるという先行する報告を支持するものである。

●方法

(1)対象者
 英国医学研究協議会の認知機能および加齢研究(CFAS)は、ベースライン時での対象は18,000人を超える65歳以上の多センターによる縦断的研究である。主として2相からなる集団ベースの面談研究で、毎年または隔年での追跡調査を行った。郊外地のケンブリッジとウェールズのグウィネズ、都市部のノッティンガム・ニューカッスル・オックスフォード・リバプールの計6カ所のCFASセンターが存在する。

(2)面談
 血液は、オックスフォードを除いて、すべてのセンターにおける研究開始の4~6年後、1996~1998年の第3ウェーブ面談で採取された。研究診断を含めて評価面談を既に受けた対象者すべてが、このウェーブに招かれた。有病評価は、認知機能障害に重きが置かれた。血液サンプルは、すべての応答者から求められ、1,654人中の69%にあたる1,150人から採取された。11サンプルには日付が記されていなかったため除外し、1,139人のHbA1c測定値が分析に用いられた。感度および特定性の観点から、ならびに類似研究で使用されてきていることから、本分析でも境界点7%が糖尿病診断に用いられている。対象者は5群に分類された。
1 自己申告による糖尿病あり
2 これまでに糖尿病診断を受けたことはないと報告しているがHbA1c値は7%以上
糖尿病診断を受けた人は治療を受け監視されているはずなので、認知機能や身体機能に対して、この2群間で異なる影響があるだろうと考えた。
3 低HbA1c値群 3.7%~5.2%
4 中HbA1c値群 5.3%~5.7%
5 高HbA1c値群 5.8%~6.9%

 血液採取面談の2年後に、サブグループが再度面談を受け、その2年後、リバプールを除いて、すべての生存者が10年目の面談を受けた。HbA1c値測定を受けた1,139人中524人が、最低1回の追跡調査面談を受けた。血液採取からの追跡調査期間中央値は5年だった。

(3)曝露/リスク測定
 住居・結婚歴・主たる職業・社会的接触・身体的健康・幸福に関する情報は、ベースライン時面談で収集された。これらの状況変化は、追跡調査時の面談で入手された。詳細な認知機能および身体機能を含めた健康状態に関するデータは、追跡調査時面談を受けた対象者においてHbA1c測定前後ともに入手可能であった。

 ベースライン時の自己申告または情報提供者面談によって測定された認知機能障害の危険因子は、糖尿病歴・心臓発作歴・脳卒中歴・高血圧歴を含んでいた。自己申告による糖尿病は、いずれかの面談において、「あなたはこれまでに糖尿病になったことがありますか?」という質問に「はい」と答えた人と定義された。喫煙状況は、一度も喫煙したことがない、少なくとも5年前にやめた前喫煙者、現在喫煙者に3分類された。

(4)アウトカム
 すべての対象者は、死亡通知に関して国民統計局でフラグを立てられた。2004年末までに、HbA1c測定者のうち619人が死亡した。死因は、死亡診断書から確証された。心血管死は、国際疾病分類第9版のコード400~438、虚血性心疾患死は410~414、脳血管疾患死は430~438が死亡診断書のどこかに記載されていることと定義された。

 認知機能は、ミニメンタルステート検査得点によって測定された。認知症は、構造化面接Geriatric Mental State (GMS) と、それに基づくコンピュータによる診断システム Automated Geriatric Examination for Computed Assisted Taxonomy(AGECAT)を用いて行われた。認知症・認知症ではない・不明を以下のように分類した。
1 認知症 AGECATレベルO3以上
2 認知症ではない AGECATレベルO0、O1、O2
3 不明 AGECATレベルに不備あり

 認知症発症の定義は、血液採取がされた面談後に認知症になった場合とした。

 研究設定およびデータ収集における差異から、リバプールの168人は、死亡率分析のみに加わった。

(5)統計方法
 対象者の特性分析、変数分布分析、HbA1cと血管疾患危険因子との関係分析を実施した。人口統計学的変数と危険因子の分類との間でのHbA1c値の差異調査のため、分散分析を実施した。連続変数と順序変数の傾向調査のため線形回帰を用いた。

 生存率分析は、HbA1c値と総死亡率・心血管疾患死率・脳血管疾患死率・虚血性心疾患死率・その他の死因による死亡率との関連調査に用いられた。危険因子の死亡率に対する寄与率測定のため、比例ハザードモデルを用いた。HbA1c値と認知症発症・身体障害発生との関係を調べるため、ロジスティック回帰モデルを用いた。

●結果

(1)対象者特性
 HbA1c値は、3.7%~13.9%までの歪んだ分布となり、中央値は5.6%、平均は5.8%で、91%は7%未満となり、センター間での差異はなかった。

 HbA1c値と自己申告による糖尿病で分類された1,139人の対象者を比較すると、糖尿病診断を受けたことのない男性がHbA1c値7%以上傾向となった。HbA1c値7%以上の群は、より年齢が高く、ミニメンタルステート検査得点がより低かった。自己申告による糖尿病ありの群、またはHbA1c値7%以上の群に属する人は、日常生活関連動作および/または日常生活動作に支障がある傾向となった。糖尿病診断を受けたことのある群では、心臓発作または脳卒中を経験したことを報告する傾向があった。

 HbA1c値が7%未満の1,004人では、喫煙者と高血圧を報告した人の平均値がより高くなっていた。HbA1c値正常群において、その他の点で系統的あるいは有意な差異は認められなかった。

(2)死亡率
 2004年末までに、1,139人中の54%が死亡した。死亡者数は、追跡調査期間の当初5年間においては同じような推移となったが、その後急激に増加した。死亡者の血液採取後追跡調査期間中央値は3年で、四分位数範囲は1.4~5.0年となった。

 累積死亡率を5群で比較すると、これまでに糖尿病診断を受けたことはないと報告しているがHbA1c値は7%以上の群が、他の群よりも死亡率がより高くなった。年齢と性別で補正を加えた死亡率のハザード比は、HbA1c値が最も低い群と比較すると、これまでに糖尿病診断を受けたことはないと報告しているがHbA1c値が7%以上の群が、総死亡率および心血管疾患死において2倍となった。糖尿病を自己申告した群も、HbA1c値が最も低い群と比較すると、心血管疾患死においてほぼ2倍となった。

 HbA1c値および/または糖尿病状況と、総死亡率・心血管疾患死亡率・虚血性心疾患死亡率・脳血管疾患死亡率・非心血管疾患死亡率との関係を、年齢・性別・心臓発作歴・脳卒中歴・高血圧歴・喫煙状況で補正を加えた多変量回帰モデルで調べた。HbA1c値と総死亡率・心血管疾患死亡率・虚血性心疾患死亡率との間には、HbA1c値が1%上昇することにより、総死亡率は約10%(信頼区間95% 1~24%)、心血管疾患死亡率は20%(信頼区間95% 7~37%)、虚血性心疾患死亡率も20%(信頼区間95% 4~44%)増加することと関連があった。しかしながら、自己申告による糖尿病と死亡率との間には有意な関連はなかった。

 自己申告による糖尿病群は99人いたが、1/3はHbA1c値7%未満であった。このグループが、自己申告による糖尿病+HbA1c値7%以上のグループと死亡率における差異があるのかどうかを調べるため、4群に分けて分析を実施した。
1 自己申告による糖尿病のないHbA1c値7%未満
2 自己申告による糖尿病のないHbA1c値7%以上
3 自己申告による糖尿病のあるHbA1c値7%未満
4 自己申告による糖尿病のあるHbA1c値7%以上

 年齢と性別で補正を加えたモデルにおいて、自己申告による糖尿病のないHbA1c値7%未満群を比較基準とした場合、自己申告による糖尿病のあるHbA1c値7%以上群は、心血管疾患死亡率および虚血性心疾患死亡率のハザード比が有意に高くなった。

(3)HbA1cと認知症
 HbA1c測定から平均5年の追跡調査期間中に、453人中67件の認知症発症があった。本研究標本では、認知症は年齢とともに増加し、男性4.9%に対して女性14.6%と、女性において発現がより多かった。5年にわたる認知症発現の割合を見ると、HbA1c値7%以上の群が他の群よりもかなり高くなった。HbA1c値7%未満の3群での割合は類似したものとなった。自己申告による糖尿病群での認知症発現割合は低かった。自己申告糖尿病群での5年までの粗死亡率は70%に対し、HbA1c値7%未満群では52%であった。

 年齢および性別で補正を加えたロジスティック回帰モデルにおいて、これまでに糖尿病診断を受けたことはないと報告しているがHbA1c値は7%以上の群では、HbA1c値7%未満の群と比較してオッズ比4.8(信頼区間95% 1.1~21.6)という有意に高いリスクとなった。

●考察

 確立されている文献とは対照的に、本分析からは、糖尿病診断を受けている対象者が認知症発現のより高いリスクを抱えることとはならなかった。HbA1c値が認知症と関係あるということを示すエビデンスはなかったが、自己申告による糖尿病診断がないHbA1c値7%以上の群において、認知症発現リスクが有意に高くなった。生存していれば認知症を発現したであろう人のいくらかは、糖尿病による早期死亡のため、追跡調査から差次的に外れていったかもしれない。死亡時での認知症有病率は全体で30%であり、65~69歳では5%であったのに対し95歳以上では58%と年齢とともに強い増加傾向があったことから、本研究での高死亡率グループにおいては見逃された発症件数があるかもしれない。加えて、本研究グループでの低い発症率は、偶然であろう。

 しかしながら、自己申告による糖尿病がないHbA1c値が7%以上の群で死亡率の高かったことを考えると、これらのバイアスは、認知症発症率が観察されたよりも高くさえあるかもしれないことを暗示していることになる。HbA1c値7%以上群が、糖尿病の自己申告群も含めた他の群よりも総死亡率、特に非心血管死因による死亡率が高かったことを示している。

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