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認知症疑い高齢ドライバー3万人、免許返納は進まないの?

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認知症の恐れ 3万人 警察庁 75歳以上のドライバー」という報道がありました。運転に差し障るような状態でハンドルを握っていた人が3万人もいたのか、と驚くとともに、「やっぱり」との思いも。アクセルとブレーキの踏み間違いによる高齢者の交通事故のニュース、ちょくちょく聞きますよね。さらに私が気になったのは、2点。「75歳以上の自主返納は認知機能検査を受けていない人も含めて今年1~9月に18万4897人」というところと、「認知機能検査で、認知機能の低下がある『第2分類』は30万165人」という記述です。

堀米香奈子 ロハス・メディカル専任編集委員

まず、自主返納について。今年の9カ月間で返納者数は18万人超とのことですが、これは多いのか少ないのか、どの程度の数字なのでしょうか。

警視庁の運転免許統計で調べると、全国の運転免許保有者数は約8220万人。このうち75歳以上は約513万人(全体の6.2%)で、返納した18万人はその約3.6%に当たることになります。

これはちょっと少ない気がします。

75歳以上になると「要介護」認定の割合も急増するようですから、そのあたりに認知機能や身体機能の何らかの境界線があるのかもしれません。そう考えると、何か事故を起こす前に、返納するのが理想的です。

しかし返納が進まないのは、日常生活を営むには自ら運転するしかない高齢者が多い実態が反映されているのでしょう。返納後の生活に不安があるのです。これについて、「認知症にやさしい社会を」を合言葉に活動するNPO法人ハート・リング運動専務理事の早田雅美氏が、ロハス・メディカルで石川県輪島市の商工会議所の画期的な取り組みを紹介しています。

ただし、一番の問題は郊外や山間部です。都市部と違って、徒歩で買い物に行けるほど近くにお店はありませんし、特に過疎化が進んだ地域では、バスや電車などの公共の交通手段もどんどん廃止されています。

高齢ドライバー比率が東京都で最も低く、過疎化の進んだ県で高くなっているのは、そういうことでしょう。かなり難しい問題だと改めて感じました。

高齢ドライバー.png
都道府県データランキング「高齢者ドライバー」

次に、認知機能の低下がある「第2分類」が30万人超いたとのこと。30万人って、なかなかすごい数だと思いますが、「認知機能の低下」をどう判断しているのでしょうか。

そもそも警視庁が実施している検査とはどういうものなのか、警視庁webサイトを調べてみたところ・・・

次の3つの検査項目を受けます。
・時間の見当識:検査時における年月日、曜日及び時間を回答します。
・手がかり再生:一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答し、さらにヒントをもとに回答します。
・時計描写:時計の文字盤を描き、さらに、その文字盤に指定された時刻を表す針を描きます。

とのこと。参考文献も掲載されています。

挙げられているテスト3項目は、認知症の診断によく使われている長谷川式簡易知能評価スケールMMSE(ミニメンタルステート検査)の両者を合わせたものに、時計描写テストを加えたもの、という感じですね。

採点方法も公開されていて、総合点によって次のように分類されるそうです。
ア 記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類):総合点が49点未満
イ 記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類):総合点が49点以上76点未満
ウ 記憶力・判断力に心配のない者(第3分類):総合点が76点以上

こうしてみると、「イ 記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類)」の幅もかなり広いですね。これだったら確かに30万人にはなりそうな気もします。認知症でなくても、今日の日付が曖昧だったり、寝不足などの体調次第で物覚えが悪くなったりするものです。

そう考えるとなかなか妥当な検査になっているのかもしれません。特にイ第2分類レベルくらいなら、返納のきっかけがない人や、返納の必要性を意識したことがない人も多そうです。ぜひ高齢者の方々が、気楽に、身近なところで検査を受ける機会を増やしてほしいと思います。


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