全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

1日15分、週90分の運動でも健康に

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 運動したらよいことは分かっているんだけれど、「努力」しないとと思うと拒否反応が出てしまう人いますよね。でも、本当に「ちょっとした」努力でも効果はあるらしいのです。

大西睦子の健康論文ピックアップ3

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

 今回は、昨年度に台湾から報告された論文をご紹介致します。

Minimum amount of physical activity for reduced mortality and extended life expectancy: a prospective cohort study.
Wen CP, Wai JP, Tsai MK, Yang YC, Cheng TY, Lee MC, Chan HT, Tsao CK, Tsai SP, Wu X.
Lancet. 2011 Oct 1;378(9798):1244-53

 著者らは、健康な成人約41万6000人(19万9000人の男性と21万7000人の女性)を対象に、13年間(平均8年間)の疫学調査※1を行い、運動と寿命や病気の関係を調べました。

 一般に、欧米諸国の人に比べて東アジアの人は、運動の強度が低く、身体活動が少ないと言われています。米国の「アメリカ人のための身体活動ガイドライン(2008)」(「2008 physical activity guidelines for Americans])や、WHOの「健康のための身体活動に関する国際勧告(2010)」(「Global Recommendations on PhysicalActivity for Health」.日本語版はこちら)といったガイドラインによれば、1日30分×週5日=週150分の余暇時間の身体活動が健康に良いとされていて、実際、米国の成人の約3分の1はこうした勧告に見合う運動を実践しています。が、日本、中国や台湾など東アジア諸国では、5分の1以下の人しか実践していません。もともと東アジアの人は頻繁に病院に通うため、ヘルスコミュニケーション※を活用したり、医師から運動の指示が出される機会が多いはずです。しかし多くの医師は、病気に対する直接的な治療以外に患者からの希望がなければ、病気に直接関わらない行動の改善には時間を割きません。医師による運動の指示は病気に直接関わるものですから、推奨される運動量も、患者が継続しやすい最低限に抑えられるべきというわけです。

 そこで、著者らは、これまで明らかにされてこなかった週150分以下の軽い運動が、健康にどのような影響をもたらすかを調べました。なぜなら、もし最低限の運動で私たちの健康が改善すれば、誰もがすぐに実行できますし、患者さんたちも簡単に始められるからです。

 著者らは参加者にアンケートを行い、「アメリカ人のための身体活動ガイドライン(2008)」に従って、参加者を身体活動レベルごとに、1) 活動なし、2) 低活動、3) 中等度の活動、4) 高活動、5)非常に高活動の5つのグループに分類しました。具体的には、「どんな運動を週にどれくらい行っているか」という質問への回答や参加者の体重等をもとに、参加者それぞれの運動強度(MET;Metabolic Equivalent、安静時が1MET)※3と、週当たりの運動時間(h)を出し、それらを掛け合わせた運動量「MET・h」を指標としました。1)は3.75MET・h未満、2)は3.75~7.49MET・h、3)は7.50~16.49MET・h、4)は16.50~25.49MET・h、そして5)は25.50MET・h以上です。

 以下、調査結果です(論文のFigure 1では、縦軸に「活動なし」グループでの死亡率を1とした「ハザード比」※4、横軸に1)~5)のグループをとった、グラフA~Dが示されています)

●「全死因による総死亡率」について(グラフA)。1)活動なしグループに比べ、2)低活動のグループでは0.86になっていることから、死亡率が14%低下していることが分かります。続く3)中等度の活動、4)高活動、5)非常に高活動グループへと、運動の程度が高まるにつれて結果が右肩下がりになっていることから、運動量に応じて、全死因による死亡率が低下することが分かりました。

●「あらゆるがんによる死亡率」(グラフB)、「心疾患による死亡率」(グラフC)、「糖尿病による死亡率」(グラフ
D)、すべてについて、運動量に応じて死亡率が低下することが分かりました。

●これらの結果は、男女ともに全年齢で、心血管疾患があったり、リスクのあるライフスタイルの場合でもあてはまりました。ちなみに、筆者らによると2)低活動のグループは1)活動なしのグループに比べて、平均寿命が3年も長くなるとのことです。

 今回の報告から、最低限の運動を行うことで、心臓病、糖尿病、そしてがんによる死亡率が低下することがわかりました。軽い運動は非伝染性の病気(人から人へ伝染しない病気)に対して有効であり、医療費削減や医療格差の縮小につながることも期待されます。

 著者らは、まず1日15分、1週間に90分の運動を始めることを薦めています。この簡単な運動を始めると、自然にもう少し長めに運動することも楽しくなるようです。

 皆さんも1日15分の運動を今日から始めましょう!

1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索