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肥満と7つの"神話"
今回は、ダイエットの常識、つまり当たり前のように科学的根拠に基づくと信じられている数々の"定説"が、ばっさばっさと切り捨てられていきます。いかに「科学っぽい」話を信じ込んでしまっていたかに気づいて、唖然とするかもしれません・・・。
大西睦子の健康論文ピックアップ27
大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。
ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。
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よく噂になっているダイエットに本当に効果があるのか、興味がありませんか?アラバマ大学バーミングハム校のデビッド•アリソン博士らのグループは先日、メディアや科学論文によく紹介されているダイエットに科学的な根拠が本当にあるのかどうか検討し、医学界のトップジャーナルとして評価されている『New England Journal of Medicine』に報告しました。
博士らは、肥満にまつわる事柄を、以下の3通りに分類しました。
●科学的証拠と矛盾する「神話」:7つ
●科学的証拠を欠いている「推定」:6つ
●科学的な裏付けのある「事実」:9つ
順を追って見ていきましょう。
●神話
反する事実・根拠があるにも関わらず、一般的に根強く信じられている肥満の"神話"には次のようなものがあります。
1)わずかなカロリーの摂取量やエネルギーの消費量の変化が、長期的に大きな体重の変化をもたらす。
事実:
半世紀前から言われている「3500kcalルール」というのがあります。3500kcalのカロリーの増減が0.45kgの体重の変化に相当する、というものです。ところが、体重変化は個人差があり、実際もっと少ないと考えられています。例えば3500kcalルールですと、毎日1マイル (1.6 km)歩いて100kcalの消費をすれば5年後に22.7kgの減量になるはずですが、実際は4.5kgの減量です。
2)現実的な減量目標の設定が大事。
事実:
これは妥当そうに思われますが、挑戦的な目標を設定して減量が成功する人もいるものの、実際には、達成不可能な目標によってかえって挫折につながることが多いようです。
3)ゆっくり体重を減らすことは、急激な減量より優れている。
事実:
早く体重を減らした人は、長期的に減量に成功しています。
4)ダイエットのタイミングの見極め、心構えが大事。
事実:
減量しようと思っている人は、みんな心の準備はしているものです。
5)体育授業は子供の肥満防止に重要。
事実:
今の体育授業は、子供の肥満の予防にならないようです。それより、活動の頻度や強さ、持続が、減量や肥満防止につながります。
6)母乳で育てると、将来の肥満の予防になる。
事実:
母乳には、母と子供の絆などたくさんの利点はありますが、子供の肥満の予防にはなりません。
7)セックスでカロリー消費(1回100〜300kcal)。
事実:
例えば、体重70kgの男性は、性的刺激時1分間に3.5 kcalのエネルギーを消費します。その平均時間は6分間と報告されていますので、30代半ばの男性は21kcalの消費となります。
●推定
次の6つは、科学的に正しいとも間違っているとも証明されていませんが、多くの人に受け入れられている信念です。
1)朝食を規則正しく食べることは、肥満の予防に役立つ。朝食を摂らないと、あとで食べ過ぎる。
事実:
2つのランダム化試験※1で、朝食ありVSなしの差は、体重に影響しませんでした。
2)幼児期に学んだ運動や食生活が、生涯の体重に影響する。
事実:
これまでにランダム化された試験はありません。
3)より多くの野菜や果物を食べると体重が減る。
事実:
野菜や果物の摂取が健康に良いことは、もちろん事実です。ただ、野菜や果物を食べても体を動かさないと体重は減りません。
4)ウェイト・サイクリング(weight cycling)※2は死亡率を高める。
事実:
確かに、ヨーヨーダイエット※2のように、体重が増えたり減ったりを繰り返したり、あるいは体重が安定しないことと死亡率の上昇には関連性が見られます。しかしながら、この死亡率上昇はおそらく健康状態に関連するものであって、原因の混同があります。動物実験では疫学※3的関連性は証明されませんでした。
5)間食で太る。
事実:
ランダム化試験で実証されていません。
6)歩道や公園などの環境整備の有無が肥満に影響する。
事実:
観察研究などから、首尾一貫した関連づけはされていません。
●事実
肥満についての事実は以下のとおりです。
1)遺伝的要因が大きな役割を果たすが、それが運命ではなく、環境の変化は減量を促進する。
2)エネルギー摂取量を減らせば、非常に効果的に体重を減らす。
3)体重減少にかかわらず、運動は健康を促す。
4)十分な運動や身体活動は、長期的な体重維持に役立つ
5)肥満は慢性のものであって、減量促進の状態を継続することが長期的な減量の維持につながる。
6)肥満児は、親を巻き込んで家庭から環境の整備を図ることが、減量につながる。
7)給食や食品代替製品は減量に有用。
8)いくつかの医療品は、臨床的に意義の多い減量の達成に有効であり、使い続ける限りは効果が見られる。
9)適切な肥満外科手術※4は、長期的な減量と糖尿病やその死亡率低下をもたらす。
さて、みなさんはどんなご感想をお持ちになられたでしょうか?「神話」と結論付けられた事柄の中に、これまで信じていた話が複数あったりしませんでしたか?いずれにしても、最終的な事実は、肥満防止と減量の基本は「食べ過ぎず、体を動かすことを続ける」という特に驚く結論ではないのです。
ところで、『フードファディズム』って、ご存知ですか?「これを食べれば健康になる」「この食べ物で病気が治る」とか、「あれを食べると病気になる」など、科学的に特に証明されていなくても、食べ物が体に対して与える影響を過大に信じることを意味します。そうなってしまう原因としてメディアの伝え方も問題視されていますが、そうしたウワサに振り回されては大変です。栄養学を研究する学者と、その情報を受け取る一般の人との間に、正しいコミュニケーションが必要です。
また驚いた点は、今回の報告の最後に、20人の共著者のうち少なくとも一人が、研究のために金銭的サポートを受けた組織を開示していることです。こうした情報公開は、さらなる研究の透明性や信頼性の向上につながるのではないでしょうか。