全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

ウォーキング VS ランニング ――病気を防ぐ効果は?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

健康志向の高まりで、ウォーキングやランニングを生活に取り入れている人も増えてきていますね。すでに実践している人も、あるいは(私・堀米のように)どちらにも足踏みしてしまっている人も、歩くのと走るの、実際にどちらが健康に役立つか、気になりませんか?今回は、そんな素朴なギモンに正面から答えてくれる論文です。

大西睦子の健康論文ピックアップ37

大西睦子 ハーバード大学リサーチフェロー。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて研究に従事。

ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートとリード部の執筆は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。


ウォーキング(中等度の運動)かランニング(強度の運動)、もし同じエネルギーを消費するとしたら、高血圧※1や高コレステロール血症※2、糖尿病※3のリスクに対して、どちらに効果があると思いますか?


そのひとつの答えが医学雑誌「Arterioscler Thromb Vasc Biol」に掲載されました。カルフォルニア大学バークレー校にある米国エネルギー省の研究所、ローレンス・バークレー国立研究所からの新しい報告をご紹介致します。

Williams PT, Thompson PD.
Walking versus running for hypertension, cholesterol, and diabetes mellitus risk reduction.
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2013 May;33(5):1085-91.
doi: 10.1161/ATVBAHA.112.300878. Epub 2013 Apr 4.


研究者らは、米国で行われている「国民ランナー健康研究(National Runners' Health Study)」http://healthresearch.lbl.gov/における33,060人のランナーと、「国民ウォーカー健康研究(National Walkers' Health Study)」の15,945人のウォーカーを、大規模前向きコホート研究※4で比較し、運動の方法と強度の違いから、冠動脈疾患※5のリスク因子への影響を評価しました。


調査期間は6.2年間で、参加者はアンケートを介して活動が記録されると共に、医師による①高血圧、②高コレステロール血症、③糖尿病と④冠動脈疾患の診断が記録されました。参加者のうち、男性はランニングが83.5%(平均48.2歳)、ウォーキングが16.5%(平均61.2歳)で、女性はランニングが56.1%(平均40.9歳)、ウォーキングが43.9%(平均53.1歳)を占めました。


結果は以下のようでした。
1) 高血圧の発症リスク:ウォーキングは7.2%、ランニングは4.2%減少
2) 高コレステロール血症の発症リスク:ウォーキングは7%、ランニングは4.3%減少
3) 糖尿病の発症リスク:ウォーキングは12.3%、ランニングは12.1%減少
4) 冠動脈疾患の発症リスク:ウォーキングは9.3%、ランニングは4.5%減少


すなわち、糖尿病、高血圧、冠動脈疾患発症のリスクは、ウォーキングとランニングでは、有意差は認められませんでした。高コレステロール血症のリスクは、ランニングよりもウォーキングにわずかに大きくなりました。


さらにウォーキングとランニングを詳しく比較するにあたり、研究者は、その距離よりも身体活動の量(METh/d =一日あたりのメッツ•時)に着目しました。


MET=メッツは、身体活動の強さを表す単位です。例えば、安静に座っているときは「1メッツ」にあたります。普通の速さで歩いたときは「3メッツ」になります。このメッツに身体活動の実地時間をかけた「METh=メッツ•時」(あるいは「エクササイズ」と呼ぶこともあります)で、身体活動の量が表されます。例えば20分間歩いた場合は、3×20/60=1.メッツ•時(エクササイズ)になります。一方、ランニングは「10メッツ」とされていて、6分走ると、10X6/60=1メッツ•時(エクササイズ)になります。つまり、より強い身体活動ほど短時間で1メッツ•時(エクササイズ)になる計算。20分間のウォーキングと6分間のランニングが同じ1メッツ•時(エクササイズ)に相当する考えです。


研究者らは、ウォーキングとランニングの参加者それぞれについて「一日あたりメッツ•時(METh/d)」の値を計算し、以下の1)~5)に結果を分類しました。

1) METh/d <1.8
2) METh/d =1.8〜3.6
3) METh/d =3.6〜5.4
4) METh/d =5.4〜7.2
5) METh/d ≥7.2


すると、1)METh/d <1.8の場合に比べ2)~5)では、次のような疾患リスクの減少傾向が明らかになりました。

●ウォーキング
・高コレステロール血症のリスク減少:2) 14.0%、3) 23.8%、4) 21.8%、5) 38.3%
・高血圧のリスク減少:2) 14.7%、3) 19.1%、4) 23.6%、5) 13.3%
・糖尿病のリスク減少:2) 34.1%、3) 44.2%、(>5.4 METのウォーキングはデータが少なすぎるので除外)

●ランニング
・高コレステロール血症のリスク減少:2) 10.1%、3) 17.7%、4) 25.1%、5) 34.9%
・高血圧のリスク減少:2) 19.7%、3) 19.4%、4) 26.8%、5) 39.8%
・糖尿病のリスク減少:2) 43.5%、3) 44.1%、4) 47.7%、5) 68.2%


ご覧の通り、ウォーキング(中等度の運動)とランニング(強度の運動)で同じエネルギーを消費する場合、高血圧や高コレステロール血症、糖尿病のリスクに対して、ほぼ同じ効果があるということがわかりました。さらに、よりたくさん走ること、歩くことが健康によいこともわかりました。ちなみに、厚生労働省の目標は、3メッツ以上の運動や生活動作を1日1時間、合計で1週間に23エクササイズ以上としています。


というわけで、ランニングが好きではなくても、ランニングが健康上の問題で無理な方も、どうぞご安心下さいね。この研究から、ウォーキングにはランニングに匹敵する健康への利益があることが明らかになったのです。


ウォーキングのもう一つの利点は、犬の散歩や、仲間と一緒に話をしながら歩くこともできる点です。ゴルフのコースを歩くのでも、スーパーに買い物に行くのでもいいのです。是非、ウォーキングを日常生活のルーチンに取り入れて下さい。最後に一言付け加えさせていただくと、前回のコラムの情報も是非、ご参考にしてくださいね!木々の生い茂った公園や自然の緑地を散歩すると、ストレスから来る"心の疲れ"も癒されます。一度に体も心もリフレッシュできるんですね。

1 |  2 
  • 患者と医療従事者の自律をサポートする医療と健康の院内情報誌 ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索