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アポリポ蛋白と認知症リスクとの関連

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 ハワイの日系アメリカ人男性を対象とした研究で、アポリポ蛋白A1濃度と認知症リスクとの関連、アポリポ蛋白Eε4遺伝子の有無と認知症リスクとの関連、両方の危険因子を組み合わせた場合のリスクを調べたところ、アポリポ蛋白A1濃度が低くアポリポ蛋白Eε4遺伝を保有している場合は、どちらの危険因子もない場合と比較して5倍近くリスクが高まることが分かりました。


The Relation between Apolipoprotein A-I and Dementia
The Honolulu-Asia Aging Study
Jane S. Saczynski, Lon White, Rita L. Peila, Beatriz L. Rodriguez, and Lenore J. Launer1
Am. J. Epidemiol. (2007) 165 (9): 985-992. doi: 10.1093/aje/kwm027 First published online: February 13, 2007

川口利の論文抄訳


発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 アポリポ蛋白と神経変性との関連は、不明確である。本研究では、認知症と血清アポリポ蛋白A1濃度のみとの関連、およびアポリポ蛋白A1とアポリポ蛋白E遺伝子型の組み合わせによる関連を調査した。対象者は、ハワイの日系アメリカ人男性で、1965年からホノルル心臓プログラム(Honolulu Heart Program)コホートおよびホノルル・アジア加齢研究(Honolulu-Asia Aging Study)において追跡調査を受けた。脂質値は、1980~1982年に評価された。認知症は、1991~1993年、1994~1996年、1997~1999年に、多段階手順により国際的指針を用いて評価された。929人の男性標本のうち、107人が認知症となった。アポリポ蛋白A1と認知症との関係は、年齢・教育水準・心血管危険因子で補正を加えた比例ハザードモデルを用いて分析した。アポリポ蛋白A1濃度の最低四分位群男性と比較して、最高四分位群は有意により低い認知症リスクとなり、ハザード比は0.25(信頼区間 95% 0.08~0.78)となった。アポリポ蛋白A1濃度が低くアポリポ蛋白Eε4対立遺伝子を保有している両危険因子群と比較して、アポリポ蛋白A1濃度が高くアポリポ蛋白Eε4対立遺伝子非保有の群は、有意により低い認知症リスクとなり、ハザード比は0.21(信頼区間 95% 0.08~0.52)となった。

 先行する研究が、アポリポ蛋白A1と心血管疾患との負の関係を証明してきており、本研究はそれらの研究結果を認知症リスクへと広げたことになる。これらの研究結果は、コレステロールの異なるリポ蛋白要素が、差次的に認知症と関連あるかもしれないという可能性を高めている。

●背景

 HDL-Cとアポリポ蛋白A1は、心臓病リスクを低下させるが、認知症との関係は不明確である。症例対照研究報告が、対照群と比較して認知症対象者においてアポリポ蛋白A1濃度がより低いことを示しているが、これらの研究においては、脂質は認知症診断後に測定されており、値は認知障害の過程によって影響を受ける可能性がある。HDL-Cと認知症との関連を調べた研究もあるが、結果は相反するものとなっている。ある症例対照研究では、認知症対象者においてより低いHDL-C値が報告されたが、前向き研究では、血清HDL-C値と認知症リスクとの関連は弱い、またはない、となっている。神経変性におけるHDL-Cの役割に関する最近の文献での食い違いは、それまでは説明されなかったHDLの特定アポリポ蛋白質構成要素の役割による可能性が部分的にある。アポリポ蛋白質と認知症の関連についての前向き研究は、コレステロールと認知症との関係をより十分に理解することが必要とされる。

 コレステロールと認知症との関連は、遺伝的感受性によっても加減されるかもしれない。アポリポ蛋白E遺伝子、特にε4対立遺伝子変異型は、最近唯一認められているアルツハイマー病に関連する遺伝的危険因子であり、脂質往来に関係し心血管疾患のリスク増大とも関係する。本研究では、臨床的認知症と血清アポリポ蛋白A1濃度のみとの関連、およびアポリポ蛋白A1とアポリポ蛋白E遺伝子型ε4との組み合わせによる関連とを調査するものである。研究は、1965年に確立されたホノルル心臓プログラムコホートの一部でもあった、1900~1919年に生まれたハワイの日系アメリカ人標本に基づいている。

●方法

(1)対象者および方法
 ホノルル心臓プログラムコホートには、オアフ島に住んでおり、研究開始時に選択徴兵制に登録されているすべての日系アメリカ人が含まれた。ホノルル心臓プログラムの一部として、男性たちは1965、1968、1971年に検査を受けた。1970年に、30%の無作為抽出標本が、リポ蛋白質研究への参加を求められた。リポ蛋白質標本に関して、1975~1978年と1980~1982年に追加検査が実施された。1980~1982年に1,379人に実施された、リポ蛋白質研究の第3追跡調査期間において、アポリポ蛋白A1測定が行われ、本分析の標本の枠組みを形成している。

 1991年に、ホノルル心臓プログラムはホノルル・アジア加齢研究として継続され、老年の疾病調査のための設定がされた。1980年にリポ蛋白質検査に参加した1,379人中、929人が1991~1993年のホノルル・アジア加齢研究検査に参加し、この標本が本研究の対象となっている。1980年のリポ蛋白質検査に参加しホノルル・アジア加齢研究検査には参加しなかた対象者450人中、77%は1991年の検査以前に死亡、4%は参加拒否、19%は簡易電話面談を受けた。ホノルル・アジア加齢研究の追跡調査は、1994~1996年、1997~1999年に実施された。

(2)認知症診断
 認知症の症例発見は、多段階手順を用いて実施した。全対象者に100点法のCognitive Abilities Screening Instrument(CASI)が実施された。1991年の検査時に、CASIと年齢によって、認知症評価のサブグループ識別を行った。1994年と1997年の検査時に、教育水準によって調整を加えた境界点を使い、教育水準の低い対象者は77点、教育水準の高い対象者は79点、あるいは9点以上の得点低下、によって認知症検査のサブグループ識別を行った。臨床的認知症評価には、代理人との面談・神経学的検査・神経心理学的組み合わせ検査・神経画像が含まれた。認知症診断は「精神障害の診断と統計の手引き-改訂第3版」基準、アルツハイマー病診断は「国立神経疾患・脳卒中研究所およびアルツハイマー病協会」基準、血管性認知症は「カリフォルニア州アルツハイマー病診断・治療センター」基準により、コンセンサス委員会において決定された。本研究標本には、107人の認知症発症者が含まれており、61人はアルツハイマー病の可能性大または可能性あり、28人は血管性認知症、18人は他の認知症と診断された。

(3)脂質測定
 1880~1882年に血液採取が行われ、HDL-C値と血清トリグリセリド値が測定された。血漿試料は凍結され、アポリポ蛋白A1は1996年に測定された。血液採取と認知症診断の間隔は、平均15年であった。

(4)アポリポ蛋白E測定
 1991年のホノルル・アジア加齢研究検査時に血液採取が行われ、アポリポ蛋白E遺伝子型が調査された。対象者は、ε4対立遺伝子を少なくとも一つ持っていればアポリポ蛋白Eε4陽性、それ以外はε4陰性と分類された。

(5)交絡因子および媒介物質
 数多くの人口統計学的および健康因子が、アポリポ蛋白A1と認知症の関係における潜在的交絡因子または媒介物質として調査された。HDL-Cとトリグリセリドは、アポリポ蛋白A1の認知症リスクに対する、他の脂質とは独立した寄与率調査のためのモデルに加えられた。アポリポ蛋白A1は、HDL-Cと心血管疾患との関係を左右することが示されており、HDL-Cはアポリポ蛋白A1の冠動脈心疾患に対する影響を左右することが見出されていることは、アポリポ蛋白A1とHDL-Cが、それぞれアテローム性動脈硬化や認知症リスクに独特の寄与率を持っていることを示すものである。トリグリセリドは、コレステロールエステル転移タンパク質を通じて、アポリポ蛋白A1と認知症の関係に影響を及ぼすかもしれない。これらの理由から、HDL-Cとトリグリセリドの両方を補正に加えた。他に以下の交絡因子を考慮に入れた。
1 年齢
2 教育水準
3 身体活動(自己申告による週あたりの中程度および激しい身体活動を三分位群に分類し、最低三分位群を比較基準とした)
4 糖尿病(自己申告による糖尿病診断・経口血糖降下薬またはインスリン使用・空腹時血糖値7.0mmol/リットル以上・ブドウ糖負荷試験の2時間後血糖値11.1mmol/リットル以上)
5 降圧薬使用
6 BMI
7 喫煙状況
8 アポリポ蛋白Eε4
9 血圧

(6)統計分析
アポリポ蛋白A1濃度と認知症との関連は、アポリポ蛋白A1濃度の最低四分位群を比較基準に、比例ハザードモデルにより推定した。

 先行する研究が、アポリポ蛋白A1濃度がより高いことは認知症リスクをより低くすること、アポリポ蛋白Eε4遺伝子はリスクを高めることを報告してきており、認知症リスクに対するアポリポ蛋白A1とアポリポ蛋白Eε4の連合効果があるかもしれないことから、対象者を以下の4群に分類した。
1 低アポリポ蛋白A1濃度(アポリポ蛋白A1濃度による四分位の下位3群)+ε4保有
2 高アポリポ蛋白A1濃度+ε4保有
3 低アポリポ蛋白A1濃度+ε4非保有
4 高アポリポ蛋白A1濃度+ε4非保有
最も高いリスクを抱えると考えられることから、低アポリポ蛋白A1濃度+ε4保有の群を比較基準とし、他の群のリスクはより低くなるだろうこと、高アポリポ蛋白A1濃度+ε4非保有の群が最もリスクが低くなるだろうことを仮定した。

 アポリポ蛋白A1は三つのハザードモデルで評価された。
1 時間尺度としての年齢による補正を加えた
2 年齢・教育水準・血糖値(mmol/リットル)・BMI・アポリポ蛋白Eε4・身体活動・喫煙パックイヤー・収縮期血圧による補正を加えた
3 2のモデルにHDL-C(mmol/リットル)と総血漿トリグリセリド(mmol/リットル)を補正に加えた

●結果

 アポリポ蛋白A1濃度の高い群は、平均して、より高いHDL-C値と総コレステロール値となり、トリグリセリド値・血糖値・BMI値はより低くなった。他のベースライン時特性は、4群間で有意な差異がなかった。

 モデル1と2においては、アポリポ蛋白A1濃度がより高いことと認知症リスクがより低いこととの間に、わずかな関連傾向があった。すべての因子で補正を加えたモデル3においては、最低四分位群との比較で、最高四分位群が有意により低い認知症リスクとなり、ハザード比は0.25(信頼区間 95% 0.08~0.78)となった。また、アポリポ蛋白Eε4状態は、有意により高い認知症リスクと関連があり、ハザード比は2.0(信頼区間 95% 1.2~3.2)となった。

 認知症の亜型によるモデルも、認知症全体でのモデルと類似の結果を示したが、標本規模が小さいことから、ハザード比において統計的有意性は認められなかった。アルツハイマー病と血管性認知症に関するモデル3でのアポリポ蛋白A1濃度最高四分位群ハザード比は、アルツハイマー病が0.26(信頼区間 95% 0.05~1.22)、血管性認知症が0.13(信頼区間 95% 0.01~1.13)であった。

 アポリポ蛋白A1とアポリポ蛋白Eε4との連合効果を調べると、すべてのモデルにおいて、リスクが最も高いと仮定した低アポリポ蛋白A1濃度+ε4保有群との比較で、他の群の認知症リスクがより低くなった。すべての因子で補正を加えたモデル3におけるハザード比は以下の通りとなった。
1 低アポリポ蛋白A1濃度+ε4保有群  1.00
2 高アポリポ蛋白A1濃度+ε4保有群  0.34(信頼区間 95% 0.10~1.13)
3 低アポリポ蛋白A1濃度+ε4非保有群 0.54(信頼区間 95% 0.32~0.91)
4 高アポリポ蛋白A1濃度+ε4非保有群 0.21(信頼区間 95% 0.08~0.52)

●考察

 本研究では、老齢の日系アメリカ人男性における、リポ蛋白質濃度と認知症リスクの関連を調査した。HDL-Cやトリグリセリドを含む数多くの生活様式・人口統計学的・生物学的共変数とは独立して、より高いアポリポ蛋白A1濃度がより低い認知症リスクと関連あることを見出した。また、アポリポ蛋白A1とアポリポ蛋白Eε4遺伝子の連合効果と認知症リスクとの関連も存在した。

 アポリポ蛋白A1と認知症リスクとの関連は、主に症例対照研究で調査されてきており、脂質測定は認知症診断の後で行われている。前向き集団ベース研究での結果は、入り混じったものとなっている。しかしながら、これらの研究では、脂質測定と認知症診断との間が比較的短く、認知障害の過程において既に脂質値が変わってしまった可能性がある。より長い追跡調査期間が、脂質と認知症リスクとの異なった関係を示すかもしれない。本研究は、前向き設定に基づくもので、脂質測定は、認知症診断の平均15年前に行われた。

 本研究では、低アポリポ蛋白A1濃度+アポリポ蛋白Eε4保有は、どちらの危険因子も持たない人と比較して、認知症リスクが5倍高くなることも見出した。このリスクは、それぞれの危険因子単独でのリスクよりも高いものとなったのである。

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