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温・水・塩の恒常性 保って防ごう熱中症
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大人が受けたい今どきの保健理科7
吉田のりまき
薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
気温が高く湿度も高い夏は、熱が体の外に放出されにくくなります。その結果、体の中に熱がたまって、熱中症になることがあります。
発熱と熱中症の違い
風邪などの発熱の時に体の温度が上がります。39℃になっても体は持ちこたえているので、多少の熱が体にたまっても自分は大丈夫だと油断してしまう人がいらっしゃいます。しかし、それは大きな勘違いで大変危険です。熱中症と発熱は全くの別物であることをしっかりと認識して熱中症対策を心がけてください。
それでは何が違うのでしょうか。
1月号で恒常性について述べましたが、体には体温が一定になるように調整する仕組みがあります。熱中症の場合は、温度設定はいつも通りで仕組みもフル稼働しているのに温度を下げられない状態です。
一方、風邪による発熱の場合は、ウイルスや細菌と闘うためには体温が高めの方がよいので、温度設定そのものが変えられていて、わざと発熱させているのです。
つまり両者は、体の中の事情が全然違うのです。
血と汗で温度調節
熱を体の外に出す仕組みとして、まず発汗が挙げられます。汗は肌の表面から出て気化します。この時に気化熱が必要となり、体から熱を奪っていきます。夏の暑い時に打ち水をすると涼しくなる原理と同じです。
発汗以外では、表皮近くにある血管を拡げるという方法があります。拡げられると血液が流れ込みやすくなります。体の中心部を通っていた血液の温度は、表皮近くにある血管を通る血液の温度より高めです。そこで、表皮近くにある血管を通っている時に、熱を放出しているのです。
普段であれば、これらの仕組みで、体の中にたまった熱を十分に発散させることができます。しかし、高温多湿で無風の環境だと、気化しづらく奪う熱が減ります。また、表皮近くの温度も高くなり、血液は涼むことができません。
さらに、この条件下でスポーツや労働をすると、動かした筋肉から新たに熱が産まれます。大した活動量でなくても、熱を発散させる間もなく熱が産まれるので、どんどん体の中に熱がたまっていくことになります。
水分バランス
恒常性があるのは体温だけではありません。体の中の水分量も、一定に保たれています。このことは、義務教育の理科ではほとんど触れられていませんが、中学保健の飲料水の単元で、体の水分バランスについて学習するようです。
体温の恒常性を維持させるために水分を頑張って放出し過ぎると今度は水分の恒常性を崩してしまいます。
水分の体重に占める割合は、赤ちゃんで80%、高齢者で50%と年齢や男女差によって違いますが、一般成人では体重の約60%です。
1日に尿や便、汗、呼吸で排泄される水量は約2.5ℓなので、水分を一定に保つため最低でも毎日約2.5ℓの水を補給しなければなりません。特に暑い所でスポーツや労働をする場合は、どんどん汗として水が失われるので、その分をこまめに補充しないと脱水になります。
体重の4%程度までの脱水は水を飲めば回復するのですが、6%程度になると点滴が必要で、それ以上では死の危険性もあります。
高齢者は元々体の中の水分量が減っているので、特に激しい運動をしなくても、脱水症状を起こしやすくなります。
塩分バランス
脱水は、単に水が失われるだけではありません。汗と共にナトリウムイオンも失われていきます。このナトリウムイオンについても恒常性が維持されています。
この観点からは、発汗の場合の補水に、汗に近い組成のスポーツドリンクを活用するのもよいでしょう。しかし、感染症による激しい下痢のような時は、もっと多くのナトリウムイオンを補う必要があります。市販の経口補水液を利用するとよいでしょう。とても塩っ辛い液です。命を守るために、これだけの塩分を補わないといけないということがよく分かります。
ナトリウムイオンがどういう物質であるのかは、理科の実験でも出てきますので、よく知られています。しかし残念ながら、神経伝達や筋肉の収縮など多様な体の中での役割は全く学習せず、ほとんど知られていません。
大人の理科・保健として、ぜひナトリウムイオンの働きについて自主的に勉強していただければと思います。
とにかく、何か一つの恒常性が崩れかけた時は、すぐに対処するように心がけてください。遅れるとドミノ倒しのようにどんどん他の恒常性が崩れてしまいます。まだ大丈夫と思わずに、早め早めに対処することで熱中症対策をしてください。