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アルツハイマーが向こうからやって来た

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鈴木 やはりそうですか。

岩坪 アルツハイマーの超早期治療というと、すごく荒唐無稽なことのようにも聞こえるかもしれないんですけれども、これは先ほどお話の出ました健康保険財政の話にもつながります。

 今の一般臨床、内科医療の中で、一番多く行われているのは、ある種の予防医療なんですね。何のことかかといいますと、例えば、高コレステロール血症は動脈硬化の危険因子です。動脈硬化が進みますと、脳梗塞や心筋梗塞といった不可逆的なことが起こるわけです。同じく、高血圧もなぜ治療するかといえば、血圧が高いだけだと普通症状が出ませんが、これもやはり動脈硬化などの血管障害を起こしてきます。すなわち、まだ不可逆的なイベントが起こらない前から、健康な時に、その後で障害を起こすことが確立されている危険因子を下げておいて、不可逆的な障害の発生を防ぐ。これが現代医療で行われている医療行為として一番頻度が高いものなのです。

 これがなぜ認可されているかというと、もちろん、抑えておけば予防効果があることが過去の臨床研究で証明されているからなのです。全く同じことがアルツハイマーでもあてはまるんじゃないか、と考えているわけです。一番初期の変化が表れているプレクリニカルADという、仮想の初期段階から見つけて、それを抑えていくことはできないか。原因になるアミロイドを抑えること、細胞の死ぬ原因になるタウを抑えること、あるいは他にも色々な促進因子があるかもしれない。病気を促進する未知のファクターも見つけてゆかないといけない、それを抑えることで、アルツハイマーへ向かう道筋をできるだけスローダウンしようということです。アミロイドがあるだけの状態なら、脳は健康なわけです。天寿がんという言葉がありますけれども、たとえば90歳で天寿を全うする、その時に初期のアルツハイマー変化が起こっていても構いませんので、まだ脳の機能に変調を来さないレベルに押しとどめていく、そうして健康長寿を全うしていただく、そういう目標に向かって、なかなか短期間に達成は難しいかもしれませんが、道筋が付き始めていると思います。

 それをめざしてゆきますと、最初は医療経済的にもバランスが取れないかもしれません。抗体医薬など高価なものを症状のない方に使ってみるということは研究医療の域を出ないのですけれども、例えば低分子の通常の医薬でアミロイドを効率的に除去するものが出てくればどうなるか。今始まろうとしているプレクリニカルADの観察研究などから、どういう方は生涯の間に認知症発症のリスクがあるかが分かってくるでしょう。例えば60代で既に進行の兆しがあるから、あえて治療を始めましょうとか、あるいは80代で軽度の異常があるけれども、その後10年であまり進行しないだろうと予測されるような方は、余計な医療をせずに健康な生活を謳歌していただきたいとか、そういうような老年期医療における個別化医療も、アミロイドPETとかゲノムとか、様々な情報を駆使して判定できるようになるのではないかと思います。そうすると、予防という所にフォーカスして、最終的には社会全体の負担も、個人が認知症になるリスクも低減できるんじゃないか、そういうことを夢見ております。

鈴木 考えてみれば、がんも同じですね。自覚症状やそれに基づく障害というものがある前から、がん細胞は増殖していて、まさに早期発見、早期治療、早期対応が重要でしょうから、そこをきちっとクリニカルに決めていくということさえできれば、クリアできる課題なのかなと思いました。

岩坪 その通りですね。鈴木先生が尽力されて進み始めた医療イノベーションの準備段階で、私もディスカッションに参加させていただきました。まずは最初に医療イノベーション室というものができて中村祐輔先生がリードをお取りになりましたが、やはり中村先生はがんの専門家なので「がんから手を着けるけれど次は認知症だよ」と言われました。僕は、がんでどんなディスカッションがあり、何が実行されるか、ずっと勉強させていただいたんですけれども、中村先生たちと議論していても「いやがんも認知症も問題点の在り方は一緒だね」ということになりました。それはまさに今鈴木先生がおっしゃったように、症状が明らかになってから手を着けるのでは遅い場合があるということで、できるだけ早期を狙って、最後は超早期の治療、今現在の言葉では予防というに所へつなげるのが大事なことがはっきりしました。そこの議論を徹底的にして、次は認知症という道筋を付けていただいて、今もなお力強くサポートいただいているのが心強いところです。

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