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アルツハイマーが向こうからやって来た
鈴木 そうなんですか、面白いですね。研究の方へ話を戻して、いわゆる今進んでいるのは早期発見、そして進行遅延のための、ある種の薬物対応、こういうことだと思うんですけれども、臨床医から研究医になられた山中先生がノーベル賞を取られまして、再生医療というのがこれからのキーワードとなっていますが、もう少し長期のスパンとして、脳神経細胞の再生というのは非常に一番難しいということは私も百も承知なんですけれども、次世代への期待も込めてですね、どういうシナリオがあり得るのか、まだ仮説構築ブレインストーミングのステージだと思いますが、その辺りのことはどんな感じでしょうか。学者の立場を離れていただいて、ちょっと大風呂敷を広げていただきたいと思うんですけれども。
岩坪 そうですね。我々はやはり、細胞が死ぬメカニズムから治療へという所にどうしてもフォーカスせざるを得ないんですけれども、今お話のありましたように、例えばiPS細胞から神経組織の再生というのは非常に大きな方向性だと思います。アルツハイマー病と同じような老化性の神経変性疾患として近年増えている病気としてパーキンソン病がございます。これは、ある程度薬物療法が効きます。ドーパミン補充療法がなぜ効くかというと、ドーパミンを作っている神経細胞に非常に選択的に変性が起こるので、それをLドーパという前駆体を飲むことでドーパミンを補充するというかたちで効いているわけです。ですから、再生医療でドーパミンを作る細胞を作って、それを補充するということでも、かなりの効果が期待されます。これは神戸の理研の笹井先生がかなり進めておられますね。あとは脊髄損傷でも、完全に再生するのは難しいですけれども、損傷部位の間をつなぐような神経細胞を補う、これをiPS細胞を使って慶應の岡野先生が先駆的に進めておられます。
でも恐らく直感的に一番難しいと思われるのがアルツハイマー病ですね。人間の認知機能のすべてを担う非常に複雑な大脳皮質の神経細胞が、非常に広く抜け落ちてしまう。それを再生し、どうすれば再構築できるかは、現時点ではイメージするのも困難です。仮に再構築できた場合に、元の人と同じ人格が保たれるのか、という疑問すら出てくるほどです。
当面はやはり、あるメカニズムをもって神経細胞が死んでいく、そのスピードを落とすことに尽きると思います。話が元へ戻りますが、アルツハイマー病で神経細胞の死ぬ原因が色々分かってきている。最上流の原因はβアミロイドというタンパク質が溜まるところ、あるいは次の段階で細胞を殺す下手人はタウというタンパク質が細胞の中に溜まること。いずれにしても非常に早い段階で起こってくることなので、まだ脳に予備能力があるうちに、そのプロセスにくさびを打つということが必要です。