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認知症の経済損失は既に5兆円。さらに迫る高齢化

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(岩)医療経済的なデータも日本ではあまり多くの数字がないのですけれども、数年前にイギリスから統計が出まして、世界の認知症による経済損失を推計すると年間6040億ドルに上るということでした。50兆円を超える数字です。日本の認知症による経済損失についてゃ、なかなか具体的なデータがないんですけれども、恐らく5兆円をはるかに超えるであろうと言われています。

 介護保険ができまして、かつて認知症を含む高齢者や、障害のある方の生活が非常に大変だったのが、大きく救われたわけです。ですが、それにかかる費用は年々増加していて、今年度は8兆円とうかがいました。かつて厚労省の認知症対策室に、介護保険の中で認知症の対策・ケアに直接必要とされて額がいくらぐらいになるのか、推算をお願いしたことがございます。色々な積み上げの中で認知症に直に関わる分の算出は難しいと思われましたが、無理に試算いただいたところ、大体半分ぐらいは認知症の方のケアに大きくかかわる支出と言えるのではないかということでした。4兆円となるとものすごく大きな額です。さらに家族の方が介護をされるために就労できないというような分を含めた経済損失は、さらに大きいだろう考えられます。

 我々は研究の成果に基づいて、治療法を実用化して、何とかアルツハイマー病になる方の数を減らす、あるいは不幸にして発症された方でも超早期から対応して進行スピードを抑える、ということを実現したいと考えています。アルツハイマー病が5年で進むところを仮に10年間に遅延させることができたとしたら、うんと単純に考えますと、ある時点でのアルツハイマー病の患者さんの数を半減させることができます。もし実現すれば先ほどの5兆円の半分を節約できます。

 今アルツハイマー病になった方のケアに莫大な社会資源が投入されていることを考えますと、もちろんケアは非常に大事ですからそれを続けながら、一方で新たな患者さんの数を少しでも減らす、あるいは発症初期の方の進行を少しでも遅延させることに本気で取り組まないといけない、そういう思いで研究を進めているところです。

(鈴)5兆円が半分になるというお話でしたが、これから2030年に向けて、特に大都市圏は急速な高齢化が進むわけです。放っておくと、認知症の患者さんの数が本当に1.5倍とか2倍になってしまうかもしれません。そうならないためにも1.5を半分に抑え込むことが必要。それぐらいこの問題の深刻度合というのを受け止めて取り組んでいかなければならない、と我々政策側としては考えます。

 今までの日本の医療政策というのは、三大成人病に重点的に、様々な医療リソースを振り分けるということだったわけです。けれども、私たちが医療イノベーション室を内閣官房に作って、新しいタイプの病、典型例がこのアルツハイマーであるわけですけれども、こうしたことに世の中も含めて、我々政策関係者も頭を切り替えないといけません。もちろん三大成人病は引き続き大事でありますけれども、急激な高齢化の中で、認知症に対して早く手を打っていかないといけないと我々も問題意識を深めてきました。

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