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アルツハイマー病、治療対象はどんどん早期に

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(岩)一昨年のことですが、アメリカで作られ、日本でも25年くらい使われてきたアルツハイマー病の診断ガイドライン(基準)が改定されました。これまではアルツハイマー病として、認知症レベルしか定義されていなかったものが、これに加えてアルツハイマーによるMCI、さらにその手前のプレクリニカルADというものが加わりました。すなわちアルツハイマーの病理変化は起こり始めていると思われるが、まだ全く症状はないという方々をPETスキャンなどで診断して、この方々が本当にその後の段階に進んでいくのかどうか、どういう方が進むがどういう方は進まないのかということを研究するために、研究の診断名として、一番初期段階のものがガイドラインに入ったのです。

 このような経緯で、今私どももアルツハイマーの脳に起こる変化と、その原因を突き止めて、それに対応する治療薬を作ろうとする一方で、その治療薬を本当に有効に効かせるために、できる限り早期段階の方を見つけようと努力しています。そして超早期の治療や予防、先制医療という言葉でも表現されますが、その一番のターゲットがアルツハイマーの超早期段階でないかと考えられる段階まで来ています。

 一つ最近のトピックを紹介しますと、アメリカはやはり動きが早いです。今年から、アメリカで非常に大きな臨床研究が三つ走ります。そのうち二つは先ほど申しました家族性のアルツハイマー病に関わるものです。もう一つは孤発性ADに関わるものなんですけれども、いずれも、症状がまだないプレクリニカルAD段階の方に、原因と考えられるアミロイドを減らす薬を適用して発症を遅延させる、あるいは予防することが本当に可能かを調べようとする薬剤介入研究です。二つの家族性アルツハイマー研究は、原因になる遺伝子の変異を持っている方を対象にしたものです。この方々は不幸なことですけれど、10数年ぐらい経つとアルツハイマー病を発症されることが予測されますので、発症を遅らせることができるかを確かめる。孤発性アルツハイマーに関わるもう一つの研究は、一般の高齢者を対象に、アミロイドのPETスキャンを多数の方に行い、陽性だった方に抗アミロイドβ薬を投与するもので、A4研究と呼ばれています。

 この1月中旬に、一番大きなプレクリニカルADのスタディであるA4で何の薬が使われるかが決定されました。さきほど名前が少し出ましたが、軽症アルツハイマーの方でわずかの効果が報告されたソラネズマブが、この予防試験に使われることが発表されました。このようにアメリカは非常に激しい動きが生じているところです。

 我々もいきなりそのレベルには達せないのですけれども、MCIの方や、今年始まるJ-ADNI2という研究では、プレクリニカルADの方を検出し、どんな風に画像やバイオマーカーが変わっていくのか、そして認知機能の低下を発症される方がどの程度あるのかを調べる、そんな形で研究が始まっているところです。

(鈴)プレクリニカルADの話をしていただいたんですけれども、我々政策の側で考えていかなければならないのは、少なくとも保険医療というのは、まさにクリニカルになってからと言いますか、症状が出てから、それをどう治癒するかということで、それに対しては保険医療の対象になる、と。しかしながら日本の皆保険制度は素晴らしいスキームだと思いますけれども、まさに予防的なことというのは、そもそも保険制度が想定していたタイプの、発症して治すことができるものとはコンセプチュアルなレベルで違ってくるものですから、プレクリニカルなことに関して、治療費と申しますか予防費と申しますか、いずれにしても薬の投与が必要になってくるわけで、そうした時にどういう社会的な合意と、仕組みを再構成・再編成するかということは、まさに政策側に突き付けられた非常に重要な、かつ国民的な色々な議論を必要とする大事な課題だなということを申し上げたいと思います。

岩坪2.jpgいわつぼ・たけし●1960年生まれ。84年東京大学医学部卒業、89年東京大学医学部助手、92年東京大学薬学部客員助教授、98年東京大学大学院薬学系研究科教授。2007年から現職、J−ADNI主任研究者。2012年、ポタムキン賞受賞。
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すずき・かん●通称すずかん。1964年生まれ。86年東京大学法学部卒業、通商産業省、慶應義塾大学SFC環境情報学部助教授、2001年参議院議員(現在2期目)。09年文部科学副大臣。11年から民主党政策調査会副会長。大阪大学招聘教授、筑波大学客員教授他。

その2へつづく

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