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アルツハイマー病、治療対象はどんどん早期に

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(岩)残念ながらアミロイドを下げるという効果はあったんですけれども、当初設定されていた治験の目標、認知機能の低下スピードを遅らせることがハッキリ証明されなければならなかったんですけれども、それが三つ行われた大きな治験でいずれも達成されませんでした。

(鈴)振り出しに戻ってしまったということでしょうか。

(岩)ところが完全に失敗かと言うと、そうとも言えないところがあります。例えば、イーライリリー社によって行われたソラネズマブという抗体医薬の治験は、昨年の10月ごろ結果が出てきましたけれども、目標とされた認知機能の進行遅延は、統計学的な差をもって証明できなかったんですけれども、色々に解析をしてみると軽症のアルツハイマー病、すなわち認知症になったばかりの方の群では、偽薬を投与した群より多少進行のスピードは抑えられているという結果が出ております。

 研究者や製薬企業が認識したことは、認知症の症状がハッキリしてからでは、原理的には正しい治療薬でも、時期が若干遅すぎるのではないかということです。すなわち、治療のターゲットになっているアミロイドは、アルツハイマーの一番上流の原因と考えられるわけです。それを神経細胞が相当抜け落ちてしまって、脳が十分な機能を発揮できない認知症のレベルに至ってしまったところで初めて、最上流の原因を抑え始めても遅すぎるんじゃないかという危惧が現実のものになってきたわけです。

(鈴)なるほど。

(岩)今アルツハイマーを診断・治療する上で、より早期の段階が重要になってきました。アルツハイマー病は、認知症の症状が揃ったところで、臨床的なアルツハイマー病と呼ぶわけですけれども、その前の段階で、いくらかの症状はあるんだけれども、まだ認知症と言えないような初期段階が見つけられるようになってきました。これを軽度認知障害(MCI)と言います。アルツハイマーの超初期段階で、記憶障害はかなりの程度まで進んでいるが、その他の種類の認知機能はまだそれほど落ちていないので、まだ認知症ではない、すなわちある程度は自立した生活をできるけれども症状は既に始まっている、そういう方を診断できるようになってきたんですね。

 今年くらいから始まってくる、次の世代のアルツハイマー病治療薬の治験は、MCIの方も対象に含めて進んでいく見込みです。

(鈴)MCIの段階を狙えば、効果を期待できるかもしれない、と。

(岩)ところが、それでもまだ少し遅いのかもしれない。人間の脳には非常に豊かな予備能力があるわけですね。MCIは、その予備能力がなくなってしまって記憶障害が出た状態とも申すことができます。

 21世紀になった頃に大きな発明がありまして、アミロイドのPETスキャンという技術が開発されました。PETスキャンは、今がんの診断なんかに使われていて、少量の放射性ラベルした物質を体内に入れて診断するわけですけれども、脳に対して使うことで、今まで患者さんが亡くなって解剖した場合にしか証明できなかった、アルツハイマーに最も特徴的な変化であるアミロイドがPETスキャンで証明できるようになったのです。そうすると、MCIより前、すなわちまだ症状は出ていないけれどもアルツハイマーの病理の変化が起こり始めているという方を、アミロイドのPETスキャンや、脳脊髄液のバイオマーカーなどによって、検出できるようになったんです。

(鈴)検出してどうするんでしょうか。

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