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心臓の左室駆出率と認知機能の関係

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 Framingham Offspring Studyで心臓の左室駆出率と脳容積および認知検査との関連を調査したところ、駆出率が低過ぎても高過ぎても認知機能に影響を与えるのかもしれないことが示唆されました。

Relation of Left Ventricular Ejection Fraction to Cognitive Aging (From the Framingham Heart Study)
Angela L. Jefferson, PhD, Jayandra J. Himali, MS, Rhoda Au, PhD, Sudha Seshadri, MD, Charles DeCarli, MD, Christopher J. O'Donnell, MD, MPH, Philip A. Wolf, MD, Warren J. Manning, MD, Alexa S. Beiser, PhD, and Emelia J. Benjamin, MD, ScM
Am J Cardiol. 2011 November 1; 108(9): 1346-1351.
Published online 2011 August 30. doi: 10.1016/j.amjcard.2011.06.056

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 重症心筋症の患者の中では、左室駆出率(*1)(left ventricular ejection fraction = LVEF)が、認知障害・構造的神経解剖学的異常・アルツハイマー病リスク増大を含め、異常な脳老化と関係があるとの報告がある。その称するところでは心臓移植の後で心機能改善により認知障害は好転し、脳血流は50%以上増加する。それ故、LVEFが減少することは脳潅流恒常性に影響を及ぼし、臨床的脳損傷の原因となるかもしれない。末期の心臓病がない場合、LVEFが異常な脳老化にどのような影響を与え加速させるのかについては、少ししか知られていない。本横断的調査は、先行する研究を大規模疫学的コホートに拡大し、高感度心臓MRIを使い、同時に脳損傷と心筋傷害に対する共通する血管リスクを考慮しLVEF評価をすることで、LVEFと異常な脳老化との関係理解を深めることが目的である。先行する研究に基づき、地域密着型コホートにおける臨床的認知症および脳卒中のない成人を対象にして、より低いLVEFは、前臨床のアルツハイマー病の認知および神経画像マーカーである学習と記憶・脳容積・下角容積・海馬容積、および脳血管変化の認知および神経画像マーカーである実行機能・白質病変(WMH)と関係があるだろうとの仮説を立てた。

●方法
 1998~2001年に実施されたFramingham Offspring Study(*2)7回目検査に参加した3,539人のうち、1,707人が2002~2006年の心臓MRI研究に参加し、そのうちの1,174人が2005~2007年の認知および脳MRI研究に参加した。認知症や臨床的脳卒中など神経的症状のある51人と共変数データに不備のある9人が除外され、本研究コホートは1,114人で構成された。

 対象者は、以下の認知検査を受けた。
1 遅延記憶
2 言語
3 実行機能
4 言語推理
5 視覚認知機能

 脳MRIにより、総頭蓋容積・総脳容積・前頭葉容積・下角容積・海馬容積・白質病変が測定された。総脳容積・前頭葉容積・下角容積・海馬容積・白質病変は、総頭蓋容積に対する割合で表された。

 心臓MRIは、仰臥位にて呼気終末に息を止めた状態で撮影された。拡張終末期容積(end-diastolic volume = EDV)と収縮終末期容積(end-systolic volume = ESV)が算出され、(EDV-ESV)/EDVによりLVEFを求めた。

 LVEFと脳老化変数それぞれとの線形関係評価を回帰分析した。次に、LVEFを五分位に分類した群で脳老化変数を比較し、U字型関連を調べた。それ故、最低五分位群Q1および最高五分位群Q5と比較基準のQ2~Q4とで、それぞれの脳老化変数を比較した。先行する研究に基づき、7回目検査時に定められた共変数、すなわち、年齢・性別・収縮期血圧・喫煙状況・糖尿病(空腹時血糖値126mg/dL以上、または経口血糖降下剤服用、またはインスリン使用)・高血圧治療・心房細動・CVD傾向(冠動脈性心疾患・心不全・間欠性跛行)により補正を加えた。

 2次分析として以下の分析を実施した。
1 CVD傾向対象者77人を除外
2 LVEF五分位変数Q1、Q5、比較基準Q2~Q4を用い、性別・年齢(60歳未満対60歳以上)・アポリポ蛋白E遺伝子E4状況(E4陰性対E4陽性)による影響変化評価を行った。

●結果

 LVEFと脳MRIおよび神経心理学的変数との関連はなかった。CVD傾向対象者を除外しても、結果は変わらなかった。

 LVEF五分位での脳老化変数との関連を評価したところ、最低五分位群Q1は、比較基準Q2~Q4と脳MRI変数における差異がなかった。しかしながら、Q1群は、遅延記憶検査の一つであるvisual reproduction delayed recallおよび視覚認知機能検査において、比較基準群との差異が認められ(両検査ともに標準化偏回帰係数β=-0.27、P<0.001)、低いLVEF値はより乏しい認知パフォーマンスとの関連があった。CVD傾向対象者を除外しても、結果は同様であった。

 Q5群は、遅延記憶検査2種類(β=-0.18とβ=-0.17、P=0.03)、実行機能検査(β=-0.22、P=0.02)、視覚認知機能検査(β=-0.20、P=0.02)において、比較基準群より乏しいパフォーマンスとなった。CVD傾向対象者を除外しても、結果は同様であった。

 臨床的に低いLVEFがQ1群と認知力との関連を説明することになるのかどうかを測定するため、Q1群をLVEF55%未満41人とLVEF55%以上184人に二分した。55%未満サブグループは、遅延記憶検査の一つであるvisual reproduction delayed recall標準化偏係数β=-0.42、P=0.01と比較基準群より低くなったが、視覚認知機能検査ではβ=-0.16、P=0.34と有意にはならなかった。しかしながら、55%以上サブグループは、visual reproduction delayed recallでβ=-0.24、P=0.004、視覚認知機能検査でもβ=-0.29、P<0.001となり、比較基準群より低い結果となった。

●考察

 本疫学的研究結果は、LVEFと異常な脳老化マーカーとの間で、線形関係というよりU字型関連を示した。LVEFの最低五分位群と最高五分位群両方が、比較基準群よりも異常認知変化の横断的エビデンスを示した。より低いLVEFが異常な脳変化と関連あるという観察は、重症心筋症患者を調査した結果LVEFが減少することは記憶・推論・配列障害に関連あると報告した先行する文献内容を拡大することになる。心不全やCVDがない場合、本研究結果が、より低いLVEFも異常な脳老化と関連すると示すことになる。視覚認知機能と物体認識において有意な関連が見られたLVEF最低五分位群が、臨床的には正常値である55~66%の対象者も含んでいることは注目すべきである。心臓の収縮機能が低い方の正常値であったとしても異常な脳老化の横断的マーカーと関連ある可能性があるという観察結果は、心臓指数の低い方の正常値はより小さな脳容積と関連あると報告した我々の最近の研究と一致する。

 本研究からの予期せぬ観察結果として、LVEF最高五分位群が言語記憶や視空間記憶・実行機能・視覚認知機能で比較基準群よりも乏しい認知パフォーマンスとなったことがある。健全なLVEF値が脳の健康によいかもしれないことに反して、非常に高いLVEF値は微妙な認知障害の原因となるかもしれない。あるいは、本研究結果が、貧血や甲状腺疾患など分析的に考察されなかった付帯兆候または別の病的過程を反映しているのかもしれない。LVEFと認知的老化の間に見られたU字型関連については、早期機能的損失のような認知症の臨床的重要性を含めさらなる研究が求められる。

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