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週1回のチョコレート習慣が認知機能を高める?!

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チョコレートが好きな方に朗報です。これまで、チョコレートやココアは心血管系疾患に良い効果があることで注目されてきましたが、記憶や情報処理速度などの認知機能を高める効果も期待できるかもしれません。ダークチョコレートの方が効果は高そうですが、ミルクチョコレートにも有効な効果は入っているようです。

大西睦子の健康論文ピックアップ116

大西睦子 内科医師、ボストン在住。医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月から7年間、ハーバード大学リサーチフェローとして研究に従事。著書に「カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側 」(ダイヤモンド社)。

大西睦子医師に、食やダイエットなど身近な健康をテーマにした最新学術論文を分かりやすく解説してもらいます。論文翻訳のサポートと編集は、ロハス・メディカル専任編集委員の堀米香奈子が担当します。

週1回以上食べる人ほど認知機能高く

今回、クライトン博士たちが明らかにしたのは、30年という長期間にわたる習慣的なチョコレート摂取と認知機能の関連性です。共著者である米メイン大学心理学科のメリル・エリアス教授らと共に、1976年から続くメイン・シラキュース縦断的研究(MSLS)で収集したデータの分析を行いました。

Crichton GE, Elias MF, Alkerwi A3.
Chocolate intake is associated with better cognitive function: The Maine-Syracuse Longitudinal Study.
Appetite. 2016 Feb 10;100:126-132.
doi: 10.1016/j.appet.2016.02.010.

MSLS では、老化や心血管疾患、認知機能に関し、食事摂取量および心臓血管疾患の危険因子についての調査が行われています。参加者は、食物摂取頻度調査票に挙げられた食品(肉、魚、卵、パン、シリアル、米、パスタ、果物、野菜、乳製品、チョコレート、ナッツ、スナックタイプの食品、紅茶、コーヒー、水、フルーツジュース、アルコール飲料)をどれだけ、どのような頻度で摂取するか回答します。
https://umaine.edu/psychology/faculty/merrill-f-elias/msls-description/

今回の研究の対象者は、研究開始時に認知症を発症していない23〜98歳のニューヨーク州シラキュース居住者968人です。研究者たちは食物摂取頻度調査票を利用して、30年間にわたるチョコレート摂取頻度(決して食べない、まれに食べる、週に1回、週に2〜4回、週に5〜6回、毎日1回以上)を尋ね、認知機能のテストを行い、分析を行いました。認知機能の評価には、MSLS神経心理学的テスト(視覚空間記憶、視覚的スキャンと追跡、話の記憶、言葉の記憶、作業における記憶力)が用いられました。スコアが高いほど、より良い認知機能となります。

その結果、チョコレートを週1回以上食べる人は、チョコレートを食べない、めったに食べない人たちと比較して、すべての認知機能が優れていました。対象者の年齢、性別、教育、収入などの他高血圧やコレステロール値や血糖値などの心血管症リスク要因、アルコール摂取量やカロリーの総摂取量などの影響を差し引いても、作業における記憶力以外の認知機能の優位性は維持されました。

考慮したのは、具体的には以下のような点です。

・女性は男性よりも頻繁にチョコレートを食べていた。
・週に1回以上食べる人たちは、食べない・めったに食べないに比べ、総コレステロール値やLDLコレステロール値が高かったが、血糖値は低かった。
・習慣的に食べる人たちは、食べない・めったに食べない人たちに比べて、高血圧と2型糖尿病の割合が低かった。
・習慣的に食べる人たちは、総じてエネルギー摂取量が多く、特に肉類、野菜、乳製品の消費が顕著な一方、アルコール消費は極端に少なかった。
・収入はチョコレート消費に直接的に関与していないが、収入が食品選択や食事のパターンに影響を与える可能性があるため考慮に入れた。

研究者たちは、チョコレートの消費量が認知機能を予測できるか、また、より良い認知能力のより高い人がチョコレートを好む傾向があるかどうかも調査しましたが、結果、特に関連はありませんでした。この研究ではチョコレート消費と高認知機能の因果関係については不明ですが、認知能力が高い人がチョコレートを多く消費しているわけではないことは、チョコレートの認知能力向上効果の肯定材料と言えます。


ミルクチョコレートでも効果あり

今回の報告で注目すべき点は、認知機能への効果をダークチョコレートに限定せず、ミルクチョコレートでも認めていることです。

実は、チョコレートやココアの短期摂取による認知機能の向上効果については、既に疫学的研究や臨床試験で多数報告されています。
http://ajcn.nutrition.org/content/101/3/538.abstract
http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12263-009-0135-4

そうした報告の中で認知機能を高める物質として注目されてきたのは、チョコレートとココア製品に含まれるフラボノイドです。フラボノイドは、植物の作り出す抗酸化物質であるポリフェノールの一種で、カカオ豆に占めるココアフラボノイドの割合は、20%にも上ります。ポリフェノールには多様な種類があり、ポリフェノール>フラボノイド>フラバノール類と分類され、ココアフラボノイドの中で最も典型的なのが、ココアフラバノールです。フラバノールは他にも紅茶、赤ワイン、ブドウやリンゴなどの果物の皮に多く含まれます。

チョコレートやココアのフラバノール含有量は、カカオ含有量に依存します。一口にチョコレートと言ってもカカオ含有量は種類によって大きく違い、一般にミルクチョコレートで約7~15%、 ダークチョコレートなら30~70%といったところ。なお、ホワイトチョコレートでは、カカオ豆からは脂肪分であるカカオバターしか使わないため、フラバノールなど認知機能に効果が期待できる成分は入っていません。またフラバノール含有量で言えば、ダークチョコレート100gには約100mg含まれますが、無糖ココアパウダー100gなら最大250mg含むという報告もあります。

実際、様々な研究がカカオ含有量の多いダークチョコレートに焦点を当ててきました。かつて「ココアが体に良い」と取り上げたテレビ番組がきっかけで、ココアが一気に日本国内の店頭から姿を消したことがありますが、その後は「カカオポリフェノール」という言葉がより一般化して、特に「ダークチョコレートがより体に良い」と言われるようになっていますよね。その背景にはこうした研究があるのです。

一方、今回の研究では、研究の対象をダークチョコレートに限定していません。調査では摂取チョコレートの種類については特に区別せず、認知機能への効果がミルクチョコレートでも認められるという先行研究を示しています。その担い手が、フラバノール以外の向精神・覚醒成分であるカフェインとテオブロミンです。カフェインは目覚まし効果でよく知られていますね。テオブロミンはチョコレートやココアの独特の苦み成分です。

ある研究では、フラバノールと、カフェイン・テオブロミンの混合物、それぞれダークチョコレート50g分を摂取したところ、同等の覚醒および認知機能の向上効果があったとしています。また別の研究では、フラバノールの量を調整した飲み物を8週間摂取したところ、低濃度でも言語流暢性などについてはある程度向上が見られ、この効果はカフェインとテオブロミンによるものとの考えが示されました。

以上、 チョコレートやココア製品を少量でも毎日の食生活にとり入れることが、認知機能に良さそうだというのは、嬉しい話ですね。

私たちの認知機能は、一般的に加齢に伴い衰えていきます。残念なことに、現在、それに対する有効な治療法はありません。そこで、日々摂取する栄養で、認知機能の低下を予防したり緩やかにしたりすることが期待されています。

そんな食品のひとつが、今や世界中で食べられるようになったチョコレートというわけですね。2009年には、全世界で720万トンのチョコレートが消費されました。日本の国内消費は年間25万トン超で、欧州と比べてもドイツ、フランス、イギリスに次ぐ数字で、イタリアを抜いています

実は、私もチョコレートは大好きです。ただ、チョコレートは、脂肪や糖分を多く含みますから、食べ過ぎには注意しなければいけませんね。

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