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糖尿病で脳が老化し縮む

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 糖尿病、および代謝調整不全指標であるインスリン抵抗性・血清インスリン値・ヘモグロビンA1c値と脳容積や認知機能との関連を調査したところ、糖尿病は脳の老化を進行させること、インスリン抵抗性は脳容積減少にも認知力低下にも関連あることが分かりました。


Association of Metabolic Dysregulation With Volumetric Brain Magnetic Resonance Imaging and Cognitive Markers of Subclinical Brain Aging in Middle-Aged Adults
The Framingham Offspring Study
Zaldy S. Tan, MD, MPH, Alexa S. Beiser, PHD, Caroline S. Fox, MD, MPH, Rhoda Au, PHD, Jayandra J. Himali, MS, Stephanie Debette, MD, Charles DeCarli, MD, Ramachandran S. Vasan, MD, Philip A. Wolf, MD, and Sudha Seshadri, MD
Diabetes Care. 2011 August; 34(8): 1766-1770.
Published online 2011 July 16. doi: 10.2337/dc11-0308

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 アルツハイマー病は、85歳を超える人の50%もを苦しめており、医療および社会的コストと重要な関連がある。米国人口の急速な高齢化に伴い、65歳を超える人のアルツハイマー病は、効果的な予防や治療が見出されなければ、2050年までに現在推値5百万人から1千1百万人を超えるまでになるだろうと予測されている。

 晩期発症のアルツハイマー病は、65歳を超える人に影響を与える進行の遅い病気で、ほんの数年発症が遅れるだけで、個人のリスクや病気の人口負担を有意に減少させるだろうと主張する人もいる。Framingham研究では、アルツハイマー病の発症が5年遅くなることは、生涯リスクを14%から7%へと半減させることに等しいだろうとの推定をした。様々な病気変性剤が研究されているが、アルツハイマー病の発症を遅らせる可能性のある変更可能な危険因子に関する平行調査は、価値のある試みであろう。

 糖尿病は潜在的に変更可能な危険因子であり、老齢者対象の集団研究のいくつかにおいて、認知症およびアルツハイマー病発症リスクと関係があるとされてきている。同様の関連が、まだ慢性病にかかっていない65歳未満のより若い人々における前糖尿病性および糖尿病性状態の全体分布範囲と後発のアルツハイマー病リスク潜在性測定との関係づけを実証できるなら、糖尿病が要因であるという論拠が強められることとなる。さらに、糖尿病性および前糖尿病性状態の3混成構成要素となるインスリン抵抗性・高インスリン血症・高血糖症を調べることは、アルツハイマー病リスク測定におけるこれらの要素の相対的重要性を明らかにすることに役立つかもしれない。中年期における糖尿病性および前糖尿病性状態と、後発の認知症やアルツハイマー病の認知マーカーや脳のMRIマーカーとの関連可能性を調査するため、本研究では、Framingham Offspring Study対象者で認知的には全く問題のない中年における、糖尿病・HbA1c・空腹時血清インスリン値・インスリン抵抗性と構造的および機能的脳老化測定とを関連づけた。

●方法

(1)対象者
 1998~2001年に実施されたFramingham Offspring Study(*1)7回目検査に参加した対象者が、脳のMRI研究と神経心理学的評価に参加するように誘われた。参加に同意し、臨床的脳卒中や認知症、あるいは脳腫瘍のようにMRIや認知パフォーマンスを変えてしまうような他の神経的状態のない、男性1,128人、女性1,311人、合計2,439人(平均年齢62歳±平均偏差9)が研究対象者となった。

(2)脳MRI測定
1 全脳容積(TCBV)
2 海馬容積(HV)
3 白質病変容積(WMHV)

(3)認知評価
1 言語記憶と抽象推理検査(この二つは、Framingham Heart Studyのオリジナルコホートでアルツハイマー病発現リスクとの関連があった)
2 前頭葉実行機能検査(糖尿病の人における認知障害検出に高感度である)

 認知領域として、言語記憶、視覚記憶、実行機能を調べた。

(4)糖尿病的および前糖尿病的状態
1 空腹時血糖・HbA1c・空腹時インスリン値は、Offspring7回目検査において、対象者が1晩少なくとも8時間絶食後に採取した血液サンプルから評価された。
2 糖尿病は、インスリンまたは他の糖尿病治療薬を使用しているか、空腹時血糖値が126mg/dL以上と定義した。
3 HbA1cは、高速液体クロマトグラフィー分析により測定した。
4 血清インスリン濃度は、放射免疫測定法により測定した。
5 インスリン抵抗性は、HOMA-IRにより推定した。

(5)統計分析
 糖尿病のある・なし、HbA1c値、空腹時血糖値、HOMA-IR値を、MRIと認知試験の結果に関連づけた。インスリン治療を受けている対象者のデータは、インスリン値を含む分析からは除外した。Framinghamコホートで脳容積と認知機能に影響を与えると前もって示されている以下のような共変数による補正を加え、線形回帰モデルを構成した。
1 モデルA 年齢・性別・教育水準
2 モデルB モデルAの変数に加え、糖尿病とは関係のない心血管危険因子(7回目検査における収縮期血圧・喫煙・心血管疾患傾向)
3 モデルC モデルBの変数に加え、Framinghamオリジナルコホートにおいて認知症リスクと先に関連づけられた因子(7回目検査におけるアポリポ蛋白E遺伝子型・血清ホモシスチン濃度・C反応性蛋白質・インターロイキン6)

 さらに、すべての分析で、7回目検査とMRIまたは認知試験との期間でも補正を加えた。

 2次分析として、臨床的糖尿病である対象者を除外し、糖尿病期間が糖尿病とMRI測定との関係に与える影響を、3層に分け調べた。
1 Offspring7回目検査において糖尿病性ではなく、1991~1995年実施の5回目検査においても糖尿病性ではなかった群(比較基準)
2 5回目検査では糖尿病性ではなく、7回目検査では糖尿病性だった群
3 5回目検査および7回目検査ともに糖尿病性だった群

●結果

 代謝調節不全指標となる7回目検査時の糖尿病・HbA1c・HOMA-IR・空腹時インスリン値すべてが、すべてのモデルにおいて全脳容積(TCBV)と負の関連にあった。糖尿病がある人とない人の間に見られた1.24%のTCBVにおける差異は、約6年の経時的老化に相当するものであった。注目すべきは、インスリン抵抗性および高インスリン血症とTCBVとの関連は、まだ臨床的糖尿病を発現していない対象者に限定しても有意なままであったことである。対照的に、代謝指標のどれも海馬容積(HV)とは関連がなかった。

 認知機能測定に関して、7回目検査時の糖尿病・HbA1c・HOMA-IR・空腹時インスリンは、それぞれより低い実行機能と関係があった。実行機能とHbA1c・HOMA-IR・空腹時インスリンとの負の関係は、モデルBとCにおいても、また、臨床的糖尿病者を除外しても変わらなかった。臨床的糖尿病やHbA1cではなく、HOMA-IRと空腹時インスリンが、視空間記憶と負の関係にあった。これらの関係は、モデルBとCにおいても有意なままであった。

 驚くべき発見は、すべての共変数で補正後は弱まったものの、糖尿病と言語記憶課題におけるより高い得点との明らかな関連であった。インスリン値との相互作用があったので、この明らかな有益効果は、血清インスリン値が高い人にのみ見られ、インスリンを受けていないサブサンプルにおいては見られなかった。

 5回目検査時と7回目検査時の糖尿病状態による層分け分析では、糖尿病とTCBVとの横断的関連は、両検査時に糖尿病であった群にのみ存在し(糖尿病期間4年以上、P<0.001)、7回目検査時にのみ糖尿病を発現した群には存在しなかった(P=0.113)。

●考察

 本研究では、平均年齢62歳の成人集団において、臨床的糖尿病と代謝調節不全マーカーであるインスリン抵抗性・高インスリン血症・高血糖症(高いHbA1c値)のそれぞれが、MRI測定TCBVとより乏しい実行機能試験結果により、脳老齢化加速兆候と関連があった。インスリン抵抗性と高インスリン血症は、前糖尿病状態を裏付ける初期マーカーであり、臨床的糖尿病のないサブサンプルにおいても両方との関連が見られた。

 さらに、高血糖状態のマーカーとインスリン抵抗性測定値との関連には、それぞれが老齢化の認知マーカーと関係する際には異なるパターンがあるようで、インスリン抵抗性測定値であるHOMA-IRと空腹時インスリン値は視覚記憶および実行機能と負の関連がある一方で、血糖指標である糖尿病とHbA1cは実行機能とのみ負の関連があった。

 本研究結果は、糖尿病や特にインスリン抵抗性に見られる代謝調節不全の早期発見と管理が認知障害の臨床的発症を遅らせることができるかどうかを調べるために続いている研究を支持するものである。インスリン抵抗性・高インスリン血症・高血糖で特徴づけられる糖尿病性および前糖尿病性状態は、壮年期において存在すると、脳容積を減少させること、および実行機能や記憶試験の認知パフォーマンスが低くなることと関係がある。これらの結果は、代謝調節不全を後年における認知症やアルツハイマー病リスクへと結び付けるエビデンスの大部分を広げるものである。これらの結果は、代謝調節不全を調整することにより認知的ならびに構造的脳損失を遅らせることを試みる臨床試験が、臨床的糖尿病ではない70代の人においてさえ、正当化されるかもしれないことを示している。

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