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慢性B型肝炎はインスリン抵抗性を招く
韓国で、一般集団を対象に、B型肝炎とインスリン抵抗性の関連を調査したところ、慢性B型肝炎群では、ウイルス陰性群と比較して、インスリン抵抗性の存在する比率が高いことが確認されました。
Association of chronic viral hepatitis B with insulin resistance
Jeong Gyu Lee, Sangyeoup Lee, Yun Jin Kim, Byung Mann Cho, Joo Sung Park, Hyung Hoi Kim, JaeHun Cheong, Dong Wook Jeong, Yu Hyun Lee, Young Hye Cho, Mi Jin Bae, and Eun Jung Choi
World J Gastroenterol. 2012 November 14; 18(42): 6120-6126.
Published online 2012 November 14. doi: 10.3748/wjg.v18.i42.6120
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
●背景
インスリン抵抗性(IR)は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病発現の主要兆候である。IRは、糖代謝に対しての適切な効果を誘発するためのインスリンの不能性によるものであるようだ。IRの状態では、通常反応をするためには過度に大量のインスリンが必要とされる。高インスリン状態は、血管・腎臓・肝臓に現れるいくつかの臨床的異常をひき起こし、これらはメタボリックシンドロームの主要な特徴を示す。メタボリックシンドロームは、通常、腹部肥満・高血圧・脂質異常症・血糖値上昇のような代謝疾患の組み合わさったものを指しており、患者においては同時に現れるものである。メタボリックシンドロームは、心血管疾患の深刻な危険因子として認識されているので、予防と包括的管理が治療において重要となる。
B型肝炎は、最も多い健康問題の一つであり、世界人口の3分の1、20億を超える人々がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染していると推測されている。慢性B型肝炎(CVHB)患者の約3分の2は、アジアと太平洋諸島に住んでいる。HBV感染は、急性(および/または)慢性肝炎をひき起こし、肝硬変・肝不全・肝細胞がんによる早世の原因になるかもしれない。さらには、HVB感染は、結節性多発動脈炎(PAN)・糸球体腎炎(GN)・血清病様症候群(前駆症)・関節炎・先端皮膚炎などの他の疾病に関係している。
最近、ある実験研究は、B型肝炎ウイルスX蛋白が肝臓インスリン信号伝達経路を傷つけること、HBV感染はIRと関連あることを示した。先行する臨床研究も、CVHBとC型肝炎において高インスリン血症が起こることを示しており、この関連がC型肝炎ウイルス(HCV)感染において明らかにされてきている。HCVが腫瘍壊死因子(TNF)システムの活性化によってインスリン信号伝達経路を妨害するかもしれないのだ。IRは、主に脂肪肝発現や線維形成進行との関係とPEGインターフェロン+リバビリンへの無反応により、慢性C型肝炎患者における重要な危険因子とされてきた。しかしながら、HBV感染がヒトのインスリン感受性に与える影響については、よく分からないままである。本研究においては、HBV感染はIRとメタボリックシンドロームに関連があるかもしれないという仮説を、IR発生率とメタボリックシンドローム有病率に関してHBV感染者研究対象者と健康な対照群とで比較することで実験した。
●方法
(1)対象者
本連続研究は、韓国の釜山広域市にある釜山大学校病院健康推進センターで実施された。研究のためのデータは、2007年1月から2008年9月までの間に総合的健康診断を受けた、男性3,851人、女性4,029人、合計7,880人の韓国人から入手された。対象者は、以下の区分にすべて当てはまれば適格とされた。
1 年齢が18歳以上
2 薬剤治療が必要な糖尿病や高血圧の既往症がない
3 抗C型肝炎ウィルス抗体反応が陰性
4 血清中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼまたはアラニンアミノトランスフェラーゼ値(ALT)が80IU/L未満
5 血清中ガンマグルタミルトランスフェラーゼ値(GGT)が80mg/dL未満
6 血清クレアチニン値が1.5 mg/dL未満
7 前立腺特異抗原値が5.0ng/mL未満
8 α胎児性蛋白値が10.0 IU/mL未満
9 がん胎児性抗原値が5.0 ng/mL未満(喫煙者)2.5/mL未満(非喫煙者)
10 白血球数が10,000/μL未満
11 高感度C反応性蛋白質値(hs-CRP)が1 mg/dL未満
(2)測定
健康診断、人体測定、血液検査が研究データとなった。
1 身長は最も近い0.1cmまで、体重は最も近い0.1kgまで計測
2 BMIは、キログラム体重÷メートル身長の二乗で算出
3 腹囲は、胸郭下端と腸骨稜の間の最狭部で通常呼気終了時に最も近い0.1cmまで計測
4 体脂肪率と総体脂肪量は、生体電気インピーダンス法により計測
5 血圧は、座位にて最低10分安静後に、右腕で自動血圧測定機器により計測
6 服薬歴、アルコール摂取量、喫煙習慣は、面接により聴取
アルコール摂取に関しては、アルコール飲料の種類、摂取の週あたり頻度、1日あたりの摂取量
喫煙状況は、非喫煙者か喫煙者(以前喫煙していた、または現在喫煙している)
7 血液サンプルは12時間絶食後に肘前静脈から、午前8~9時に採取
8 脂質像・尿酸・GGT・ シスタチンC・hs-CRP・空腹時血糖値・空腹時インスリンを測定
9 B型肝炎表面抗原・B型肝炎表面抗体・B型肝炎コア抗体は、酵素結合免疫吸着測定法にて測定
B型肝炎ウイルス状態を3分類した。
1 陰性
2 回復期
3 慢性B型肝炎
インスリン感受性は、インスリン抵抗性指数HOMA-IR・量的インスリン感受性検査指数(QUICKI)・Mffmにより評価した。
(3)メタボリックシンドロームの定義
メタボリックシンドロームは、2005年に米国心臓協会(AHA)・米国国立心肺血液研究所(NHLBI)と国際糖尿病連合(IDF)が提唱した診断区分に従い、評価した。中心部肥満は、男性で腹囲90cm以上、女性で85cm以上と定義した。
(4)統計分析
年齢・性別・アルコール摂取量で補正を加えた後に、空腹時血糖濃度と他の変数との相関係数を計算した。
年齢・性別・アルコール摂取量で補正を加えた後に、インスリン抵抗性とHBV状況との間に独立した関連があるかどうかを重回帰分析により評価した。
●結果
(1)ベースライン時対象者特性
対象者は、男性3,851人、女性4,029人、合計7,880人となり、男性平均年齢48.9歳、女性平均年齢48.6歳であった。年齢と総コレステロール水準は、男女間で統計的差異は見られなかった(P>0.05)。BMI・腹囲・収縮時血圧・血清中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値・ALT値・GGT値・空腹時血糖値・インスリン値・トリグリセリド値・LDL-C値・hs-CRP値・尿酸値は、男性が有意により高かった(P<0.001)。
(2)肝炎分類による代謝特性
男女ともに、他群と比較して、CVHB群は有意により年齢が高く、より腹囲が大きく、体脂肪・シスタチンC・空腹時インスリン・HOMA-IRがより高くなっていた。男性のCVHB群と陰性群では、空腹時血糖に有意差が見られたが、女性においては見られなかった。QUICKI(P<0.05)とMffm指数(P<0.01)は、女性においてCVHB群が有意により低かった。
(3)インスリン感受性と代謝因子との相関
HOMA-IRと正方向への相関が見られたのは以下の通りであった。
1 BMI 相関係数 r=0.378、P<0.001
2 腹囲 r=0.356、P<0.001
3 体脂肪率 r=0.296、P<0.001
4 収縮期血圧 r=0.202、P<0.001
5 総コレステロール r=0.134、P<0.001
6 トリグリセリド r=0.292、P<0.001
7 シスタチンC r=0.069、P<0.001
8 尿酸 r=0.142、P<0.001
QUICKIとMffm指標は、BMI・腹囲・体脂肪率・収縮期血圧・総コレステロール・トリグリセリド・シスタチンC・尿酸と負の相関となった。
(4)インスリン抵抗性と慢性B型肝炎との関連
インスリン抵抗性の存在に関して、年齢・性別・BMI・アルコール摂取量で修正を加えた後の、CVHB群オッズ比は、HOMA-IR区分では1.534(信頼区間95% 1.158~2.031)、QUICKI区分では1.566(信頼区間95% 1.124~2.182)となった。
●考察
本研究では、糖尿病歴のない対象者において、慢性B型肝炎がインスリン抵抗性と関連あることが観察された。慢性B型肝炎が、インスリン抵抗性発現に対して、独立してオッズ比の臨床的に有意な上昇を予測した。これらの結果は、慢性B型肝炎患者がインスリン抵抗性や糖尿病発生に対して注意深く監視される必要があるかもしれないことを示している。大規模一般集団における慢性B型肝炎とインスリン抵抗性の関連についての本研究報告は、先行する研究がHBV感染はインスリン抵抗性と関連あると提唱したことを支持するものである。