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同じメタボでも構成要素ごとリスクに差

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 メタボリックシンドロームとの診断を受けることになる構成要素のうち、組み合わせによって心血管疾患リスクや死亡リスクに差があることが分かりました。

Trajectories of Entering the Metabolic Syndrome : The Framingham Heart Study
Oscar H. Franco, MD, DSc, PhD; Joseph M. Massaro, PhD; Jacky Civil, PhD; Mark R. Cobain, PhD; Brendan O'Malley, PhD; Ralph B. D'Agostino Sr, PhD
Journal: Circulation , vol. 120, no. 20, pp. 1943-1950, 2009
DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.109.855817

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

●背景

 1988年にジェラルド・リーブンによってシンドロームXとして最初に分類されたのだが、メタボリックシンドロームの定義には様々な基準が存在する。選択された定義によるが、一般的にメタボリックシンドロームは、高血圧・高脂血症・腹部肥満・インスリン抵抗性・微量アルブミン尿症を含む多様な代謝変則が同時に起こることと定義され得る。選択された基準とは独立して、メタボリックシンドロームは、いくつかの研究において、他の病的状態の中でも糖尿病・CVD・コレステロール胆石のリスク増大と広範囲に関連づけられてきている。例えば、メタボリックシンドロームである人はCVDにおいて2倍、糖尿病において5倍、発現リスクの増大を経験する。今日の世界的なCVDと糖尿病の流行を抑制するために的確にメタボリックシンドロームを管理することが基本であるとしても、メタボリックシンドロームの病因とその構成要素が相互作用し進展する方法はよく分からないままである。さらには、メタボリックシンドローム定義に入る人によってたどられる軌跡や、これらの軌跡が生涯のCVD経験や死亡率を変える様子はよく理解されておらず、ほとんど探求されてきていない。これらの要素は、メタボリックシンドロームを有する人の間で管理の適切性を妨害するかもしれない。メタボリックシンドロームおよびその構成要素の発現と進行に関する理解を深めることが求められるのである。

 本研究では、Framingham Offspring Studyの成人集団において、メタボリックシンドロームおよびその構成要素の分布と進行、メタボリックシンドロームに入る人によってたどられる軌跡、その軌跡が後発のCVDや死亡率に与える潜在的影響を評価しようとした。さらには、これらの軌跡が喫煙状況によって異なるのかどうかも評価した。

●方法

(1)対象者
 Framingham Offspring Studyの4回目(1987~1991年)、5回目(1991~1995年)、6回目(1995~1998年)検査に参加し、それぞれの検査でメタボリックシンドロームの5構成要素のある・なしを評価された対象者からのデータを選択した。4回目検査に参加した4,019人のうち、730人が3回すべての検査には参加しなかったこと、211人がメタボリックシンドローム構成要素のうちの少なくとも1項目にデータ不備があることにより除外され、3,078人のデータを分析することとなった。

(2)メタボリックシンドロームの評価
 メタボリックシンドロームの存在は、4回目から6回目の検査を通じて評価された。メタボリックシンドローム定義のため、本研究では成人治療パネル3(ATP Ⅲ)基準を用い、以下の5項目のうち少なくとも3項目に該当する場合は、メタボリックシンドロームを有すると分類した。
1 腹囲が男性で40インチ(102cm)超、女性で35インチ(88cm)超
2 HDL-C値が男性で40mg/dL未満、女性で50 mg/dL未満
3 トリグリセリド値が150mg/dL以上
4 高血圧(収縮時血圧130mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上、または高血圧治療を受けている)
5 空腹時血糖値100 mg/dL以上(この定義は、最近米国糖尿病学会および米国心臓協会により示された境界点による)

(3)CVDおよび糖尿病評価
 CVDは以下の明確な兆候のうち一つ以上があることと定義した。
1 冠動脈性心疾患(狭心症・冠動脈不全・心筋梗塞・冠動脈疾患の結果としての突然死または突然ではない死)
2 うっ血性心不全
3 脳卒中
4 一過性虚血発作
5 間欠性跛行
3人の医師による委員会がすべての件を評価し、3人ともが同意することが判断基準となった。

 糖尿病は、随時血糖値が200 mg/dL以上、またはインスリン治療を受けている、(および/または)経口糖尿病薬を服用している場合と定義された。

(4)メタボリックシンドローム構成要素の進行
 メタボリックシンドロームおよびその構成要素の進行定義のため、男女両方および性別特化のメタボリックシンドロームおよびそれぞれのメタボリックシンドローム構成要素測定を4回目から6回目までの検査時に実施した。その後、それぞれの構成要素二つずつでの組み合わせを10通り作った。それぞれの組み合わせに対して、4回目から6回目の検査までで少なくとも一つの組み合わせで両要素を経験した対象者のサブグループ識別を行った。そのサブグループにおいて、組み合わせの片方が他方より先に検査時に現れる頻度、および両方が一つの検査時に同時に現れる頻度を調べた。

(5)メタボリックシンドローム構成要素および三連構造、頻度およびメタボリックシンドローム予測
 4回目検査ではメタボリックシンドロームではなく5回目または6回目検査時にメタボリックシンドロームとなった男性376人、女性400人、合計776人に対して、男女共通および性別特化のメタボリックシンドローム構成要素それぞれの発生およびメタボリックシンドローム診断となる要素三連構造のそれぞれを評価した。三連構造とは、メタボリックシンドローム診断を保証することになる同時的3構成要素の組み合わせと定義した。例えば、ある対象者が、高血圧・腹囲大・高トリグリセリド値・低HDL-C値でメタボリックシンドローム診断を受けたとすると、以下の三つの三連構造を持っていると考えられる。
1 高血圧+腹囲大+高トリグリセリド値
2 高血圧+腹囲大+低HDL-C値
3 腹囲大+高トリグリセリド値+低HDL-C値

 年齢と性別で補正を加え、4回目検査時のメタボリックシンドローム構成要素傾向と5回目または6回目検査時でのメタボリックシンドローム発生のある・なしとの関係を評価した。5回目(および/または)6回目検査時までにメタボリックシンドローム発現となることがアウトカムとなった。分析は2度実施し、1度目は全対象者で、2度目は4回目検査時にメタボリックシンドロームではなかった男性1,058人、女性1,298人、合計2,356人のみで実施した。

(6)三連構造とCVDおよび死亡率予測
 最も頻繁に見られるメタボリックシンドローム構成要素の三連構造がCVD発症と死亡率に与える影響を2007年まで評価した。分析は2度実施し、1度目は後発のメタボリックシンドローム発生のある・なしにかかわらず4回目検査時にメタボリックシンドロームではなかったすべての対象者で、2度目は4回目検査時にはメタボリックシンドロームではなかったが6回目検査時までにメタボリックシンドロームとなった人のみで実施した。CVD発症に関する分析は、さらに4回目検査時にCVD傾向であった対象者を除外して実施した。

(7)感度分析
 メタボリックシンドロームの様々な構成要素に加えて、おそらく喫煙がCVD発症に最も高いリスクを与える最重要因子である。それ故に、メタボリックシンドローム構成要素および三連構造の頻度、メタボリックシンドローム予測に関する分析を、喫煙状況を喫煙していない群対現在および過去喫煙者群で層分けして実施した。

●結果

(1)ベースライン時特性
 ベースラインである4回目検査時平均年齢は51.6歳で、女性が51.6%となった。全対象者の6.5%がCVD診断、4.2%が糖尿病診断を受けていた。メタボリックシンドローム構成要素の平均水準は以下の通りであった。
1 腹囲 35.1インチ
2 収縮期血圧 126.2mmHg、拡張期血圧 79.1mmHg
3 HDL-C値 49.9mg/dL
4 トリグリセリド値 120.4mg/dL
5 空腹時血糖値 94.6mg/dL

 4回目検査時にメタボリックシンドロームであった722人はより年齢が高く、平均年齢で比較するとメタボ群54.9歳に対して非メタボ群50.6歳(P<0.001)であった。糖尿病傾向はメタボ群13.3%に対して非メタボ群1.4%(P<0.001)、CVD傾向はメタボ群11.9%に対して非メタボ群4.8%(P<0.001)となったが、喫煙率(現在喫煙または過去に喫煙)はほぼ同じで、メタボ群43.5%に対して非メタボ群42.5%であった。

(2)メタボリックシンドローム傾向および進行
 4回目検査時にメタボリックシンドローム診断を受けたのは全対象者の23.5%にあたる722人だった。4回目検査時の全対象者におけるメタボリックシンドロームの5構成要素傾向は以下の通りであった。
1 腹囲大 25.7%
2 低HDL-C値 38.7%
3 高トリグリセリド血症 23.8%
4 高血圧 48.4%
5 高血糖症 18.9%

 4回目検査時から5回目検査時でのメタボリックシンドローム傾向増加率は10.6%、4回目検査時から6回目検査時でのメタボリックシンドローム傾向増加率は17.2%となった。4回目から6回目で最も増加割合が高くなった構成要素は高血糖症で18.9%が42.8%に、次いで中心性肥満が25.7%から50.7%へと増加した。高血圧および高トリグリセリド血症は~8%の増加、低HDL-C値は4回目検査時38.7%から6回目検査時36.4%へとわずかに減少した。

 4回目検査時メタボリックシンドローム構成要素を男女で比較すると以下のようになった。
1 腹囲大 男性28.6%、女性22.9%
2 低HDL-C値 男性39.9%、女性37.5%
3 高トリグリセリド血症 男性31.3%、女性16.8%
4 高血圧 男性56.0%、女性41.3%
5 高血糖症 男性24.4%、女性13.8%

 しかしながら、6回目検査時までに女性が男性に追いつき、腹囲では男性を越えるまでになった。高血圧では10%、高血糖症では20%の差があるものの、4回目検査時から6回目検査時までで、女性の方がメタボリックシンドローム構成要素の傾向がより大きくなった。ただし、低HDL-C値においては、女性は37.5%から32.0%へと減少し、男性は横ばい状態であった。

(3)メタボリックシンドローム構成要素の連続的進行
 低HDL-C値があった場合、一般に他の構成要素の出現に先立って低HDL-Cが起こっている。例えば、4回目検査時から6回目検査時までで少なくとも1回の低HDL-C値と高血糖症の組み合わせを経験した対象者963人で見ると、51.3%にあたる494人が高血糖症に先立って低HDL-Cとなり、先に高血糖症となったのは11.2%にあたる108人であった。両方が同時に出現したのは37.5%にあたる361人であった。次に連続性の点で支配的である構成要素が高血圧、最も支配力が弱いのは高血糖症であった。性別に層分けしても同じような結果となったが、女性においては高血圧が他のすべての構成要素に先立つ因子となった。

(4)メタボリックシンドロームに入る際の因子の頻度および三連構造
 4回目検査時にメタボリックシンドロームではなく5回目または6回目検査時にメタボリックシンドロームとなった対象者において、最も頻繁に出現した構成要素は高血圧で77.3%あり、以下腹囲大68.8%・高トリグリセリド血症65.5%・高血糖症60.8%・低HDL-C59.1%となった。因子発生の頻度順位は男女で異なり、女性では中心性肥満・高血圧・高トリグリセリド血症・低HDL-C・高血糖症となり、男性では高血圧・高血糖症・高トリグリセリド血症・低HDL-C・腹囲大となった。

 4回目検査時にメタボリックシンドロームではなかった対象者において、5回目または6回目検査までにメタボリックシンドローム診断を確定した3要素の組み合わせである三連構造の上位組み合わせは以下の通りとなった。
1 腹囲大+高血圧+高血糖症
2 低HDL-C+高血圧+高トリグリセリド血症
3 腹囲大+高血圧+高トリグリセリド血症
4 高血圧+高血糖症+高トリグリセリド血症
5 低HDL-C+腹囲大+高血圧
男女別に見ても、腹囲大+高血圧+高血糖症の組み合わせが最も頻繁に起こっており、男女合わせて上位5組となった組み合わせのほとんどは、男女別でも上位5組に入った。

(5)4回目検査時メタボリックシンドローム構成要素のメタボリックシンドローム予測
 4回目検査時でのメタボリックシンドローム構成要素それぞれの存在が、5回目または6回目検査時までのメタボリックシンドローム発生に対しての予測可能性を有するのかどうかを評価するために、4回目検査時に5構成要素のある・なしによる分析をすべての対象者において実施した。

 すべての構成要素が、5回目または6回目検査時までのメタボリックシンドロームを有意に予測していた。腹囲大であった場合が最も影響が大きく、オッズ比は4.76(信頼区間 95% 3.79~5.98 P<0.0001)となった。性別と有意な相互作用があったのは高血圧のみで(P=0.0465)あった。4回目検査時にメタボリックシンドロームでなかった対象者においても、同様の結果となった。

(6)三連構造のCVD発症および死亡率に関する予測
 5回目または6回目検査時でメタボリックシンドロームと診断を受けるに至った構成要素の三連構造上位5組について、ベースライン時(メタボリックシンドローム診断を受けた検査時またはメタボリックシンドロームでない場合は4回目検査時)以降のCVD発症および総死亡率に対する予測可能性を、2007年まで平均追跡調査期間14年において評価した。

 全体で2,217人中244件、11.0%のCVD発症があり、追跡調査期間中の1人年あたり0.00769件のCVD発症に相当した。性別で見ると、男性は974人中14.3%にあたる139人で0.01021件/1人年、女性は1,243人中8.4%にあたる105人で0.00579件/1人年となった。

 全対象者における死亡率は8.3%(2,356人中195人)、0.00532人/1人年となった。死亡率は男性の方が高く、11.3%(1,058人中120人)で0.00739人/1人年、女性は5.8%(1,298人中75人)で0.00368人/人年となった。

 4回目検査時にメタボリックシンドロームではなく、CVD傾向もなかった対象者において、三連構造上位5組の影響分析を実施した。上位5組のうちCVD発現に対して有意に影響が見られたのは、腹囲大+高血圧+高血糖症がハザード比2.36(信頼区間 95% 1.54~3.61 P<0.0001)、低HDL-C+高血圧+高トリグリセリド血症がハザード比1.94(信頼区間 95% 1.19~3.16 P=0.0079)となった。死亡率に対しても、この2組のみに有意な影響が見られた。腹囲大+高血圧+高血糖症がハザード比3.09(信頼区間 95% 1.93~4.94 P<0.0001)、低HDL-C+高血圧+高トリグリセリド血症がハザード比2.73(信頼区間 95% 1.63~4.58 P=0.0001)となった。5回目または6回目検査時までにメタボリックシンドロームとなった人のみで分析を実施すると、腹囲大+高血圧+高血糖症の三連構造のみがCVD発現リスクに対して有意な影響があり、ハザード比1.64(信頼区間 95% 1.05~2.57)となったが、死亡率に影響のある組み合わせは存在しなかった。

(7)感度分析
 喫煙による影響分析を実施したところ、非喫煙者においては、メタボリックシンドロームであると分類された場合、高血圧が最もよく存在する因子であり、その次が腹囲大となった。喫煙者においては、高トリグリセリド血症が最もよく存在する因子であり、次いで高血圧となった。三連構造の順位は喫煙によって実質的に変わることはなく、上位5組は相対的に同じ組み合わせとなった。

●考察

 本研究では、メタボリックシンドロームになっていく様々な軌跡を確認し、特定の軌跡をたどるとCVD発現の後発リスクや死亡率に対して有意な影響があることを測定した。中心性肥満+高血圧+高血糖症があってメタボリックシンドロームになった人は、CVD発症リスクが2.36倍、死亡リスクが3倍増加することが分かった。

 本研究対象者においては、メタボリックシンドロームは比較的短期間で劇的に増加する高い流行性を有する症状となった。ベースライン時の23.5%から、追跡期間10年後にはほぼ2倍の40.6%となった。

 メタボリックシンドロームとの診断を受ける構成要素三つの組み合わせのうち、中心性肥満+高血圧+高血糖症と低HDL-C+高血圧+高トリグリセリド血症の組み合わせリスクが高いことが分かり、高血圧は両方に共通する要素となっている。これらの組み合わせを有する人々を識別し、初期段階で適切な治療を提供することが求められる。

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