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自転車通学はメタボ予防になる
デンマークで小学生を対象に調査したところ、自転車通学を続けることは将来の2型糖尿病や心血管疾患予防につながるらしいことが分かりました。
Bicycling to school improves the cardiometabolic risk factor profile: a randomised controlled trial
Lars Østergaard, Line A B Børrestad, Jakob Tarp, Lars Bo Andersen
BMJ Open 2012;2:e001307 doi:10.1136/bmjopen-2012-001307
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
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●背景
メタボリックシンドローム(MS)は、心血管疾患(CVD)や2型糖尿病と関連のある多様な危険因子を同時に発生させる。ほとんどの国において、成人人口の20%から30%の間の有病率となっており、子どもや青少年での発生率が増加していることは、世界的な公衆衛生に大きな脅威を与えるものである。MSにさらされることは、成人でのCVD発症や死亡に対して2倍のリスクを、2型糖尿病発現に対して5倍にまで高いリスクを与える。さらに、心血管代謝の危険因子集中は幼年時代から成人時代にまでそのまま進んでいくので、人生後半での病気発症予防のため、早期のMS対策が重要となる。
子どもや青少年においては、身体活動が危険因子を集めることを予防するための可能性を有しており、このことは毎日の中強度の身体活動を10~20%増やすことがMSリスクを33%低下させるという考えに支えられている。徒歩や自転車のような活発な通学が予防的身体活動に重要な貢献をするかもしれない。観察的研究では、自転車通学をしていない子どもと比較して、自転車通学をしている子どもではより高い心肺機能とより低いBMI値が観察されているので、自転車通学は健康に有益であると示している。もし、自転車通学が時間効率よく実現可能な毎日の身体活動の形として一般に認知されれば、潜在的に全人口を目標にできる。公衆衛生の見地から、最も活動的ではない人々で最大の健康利益が達成されことを考えると、このことは大変に魅力的だろう。
工業化された社会における自転車通学の機会に関しては、幅広い懐疑説が存在するようだ。心配の度合いは、しばしば自転車通学普及と否定的に関連しており、例えばデンマークでは若者の約60%が自転車通学であるのに対して英国では約2%となっている。
自転車通学が本当に心血管代謝的健康促進を起こすのかどうかを調査する介入研究はいまだに実施されていない。一つの理由として、安全な自転車通学を許すようなインフラを有している国がほとんどないことが考えられる。別の理由として、介入はしばしば安全な経路を提供するために建造環境における変化を含むこととなり、固定化している研究設定において調整することは難しいということもある。子どもにおける自転車通学と心血管代謝的健康とをつなぐエビデンスはいまだ限られており、因果関係を調査する実験的研究が望まれてきた。故に、本研究の目的は、無作為試験により、自転車通学が心肺機能を高め心血管代謝の危険因子を改善させるのかどうかを調査することである。
●方法
(1)対象者
本研究は、デンマークのオーデンセにて2011年春に行った。36の公立小学校へ招待状を出し、調査者自らが10の学校を訪問したり、プロジェクトがオンラインやラジオで紹介されたりした。調査に先立つ3カ月間自転車通学をしておらず、調査用の2グループに無作為割り付けされることに同意した場合は登録することができたが、自転車を持っていない場合や通学距離が1km未満の場合は除外された。合計で189人の子どもたちが参加を申し出たが、うち131人は日常的に自転車通学していたこと、4人が家族事情に変化があったことから、54人が適格とされた。無作為割り付け結果を受け入れずに11人が外れ、最終的に43人が研究対象者として残った。
(2)研究設定および介入
自転車通学群23人、対照群20人という割り付けになった。計測は8週間の介入プログラム終了まで継続した。通学手段以外に制限は設けられなかった。参加者は、最大で56~74回学校への行き帰りの移動を蓄積することができた。ベースライン時と追跡調査時のすべての測定は、割り付けを伏せられた人によって実施された。
(3)測定
以下のような測定を実施した。
1 身長計による身長測定
2 ソックス着用または裸足でシャツとパンツのみ着用の状態で、0.1kg精度の体重計で体重測定
3 皮下脂肪厚はハーペンデン・キャリパーを用い左側の二頭筋、三頭筋、肩甲骨下角部、へそ横部で測定
4 体重超過および肥満は、出版されている年齢別・性別BMI境界点により決定
5 収縮期血圧および拡張期血圧は血圧計で左腕にて2分間隔で最低5回測定し、最後の3回の平均値を採用
6 一晩絶食(8時間超)と採血終了までは水のみ摂取可の指示のもと、右腕前肘窩から採血(7の検査用)
7 ブドウ糖値、インスリン値、コレステロール値、トリグリセリド値分析(インスリン抵抗性はHOMA-IR値)
8 有酸素フィットネスはバイシクル・エルゴメーターによる最大酸素摂取量で測定
9 通学手段・スポーツの習慣・一般的な生活の質に関して、アンケートに回答した。
10 追跡調査では、全員がウェブベースの地図ツールを使って学校までの道筋をしるした。
11 全員がベースライン時測定の2週間前に走行距離計を自転車に取り付けた。
12 走行距離計の数値は、追跡調査テストまで毎日曜日にSMSシステムによって自己申告した(日曜日に報告のなかった場合には、月曜日に連絡が取られた)。
13 毎日の通学手段を日記に書いた。
14 通学に関係する自転車の総走行距離は、学校までの距離×行き帰りの回数で算出した。
15 自転車走行強度測定のため、自転車通学群は、GPSと心拍数モニター(HRM)を渡され、1日中身に着けるよう指示された。
16 自転車以外の身体活動はアクセロメーターで評価され、ベースライン時とベースライン時から5週後に月曜日から日曜日まで連続7日間監視され、データが収集された。
以下の理由で数件のデータ不備が生じた。
1 針恐怖症のため、ベースライン時および追跡調査時ともに1人分の血液データ不足となった。
2 対照群の1名が1型糖尿病のため、インスリン値とHOMA-IR値を対象から外した。
3 自転車通学群の追跡調査時コレステロール値1人分、および自転車通学群ベースライン時HOMA-IR値1人分がラボ側の問題で入手できなかった。
4 収縮時間血圧が、抵抗に遭い1名分不足となった。
5 自転車通学群の1人は最大酸素摂取量がうまく計測できなかったため、研究内標本の値から推定値を算出した。
6 追跡調査時に試験の抽出条件に適合しなかったため、最大酸素摂取量の変化について3人分データ不足となった。
(4)統計
自転車通学群においては、少なくとも通学の80%以上に自転車を使った場合は条件遵守、対照群においては、通学の20%未満に自転車を使った場合は条件遵守とした。
それぞれの変数のZ-スコア(個々のデータが平均値から標準偏差いくつぶん離れているかを評価する方法:観測値-ベースライン時平均/ベースライン時標準偏差)を算出し、合成Z-スコア化した。合成Z-スコアは、ベースライン時および追跡調査時測定に基づく、空腹時トリグリセリド値・インスリン感受性(HOMA-IR値)・皮下脂肪4カ所合計値・収縮期血圧・総コレステロール値/高密度リポ蛋白率・有酸素フィットネスの逆行といった標準選択危険因子の平均として構築された。ベースライン時合成Z-スコアと追跡調査時合成Z-スコアは、ベースライン時平均と標準偏差に従って標準化され、合成Z-スコア間の変化を、追跡調査時標準化合成Z-スコアの平均-ベースライン時標準化合成Z-スコアの平均により算出した。
●結果
(1)対象人数等
8週間の追跡調査を終了した自転車通学群と対照群との間で、ベースライン時の特徴や主要変数となるベースライン時の最大酸素摂取量と平均Z-スコアにおける統計的差異は存在しなかった。自転車通学群のうち5人、対照群のうち1人が条件非遵守となった。
(2)最大酸素摂取量における変化
単純比較は以下のような結果となった。
1 自転車通学群
ベースライン時 1.81 lO₂/分
追跡調査時 1.87 lO₂/分
3.3%上昇
2 対照群
ベースライン時 1.69 lO₂/分
追跡調査時 1.73 lO₂/分
2.3%上昇
intention to treat(ITT)分析(*1)では、自転車通学群は対照群と比較して、フィットネス向上は見られず、β=0.0337<0.0337標準偏差>(信頼区間 95% -0.06~0.12 P=0.458)となったが、自転車走行キロメートル数とフィットネス向上の間には有意な関連があった(P<0.001)。
(3)合成Z-スコアにおける変化
単純比較は以下のようになった。
1 自転車通学群
ベースライン時 0.01
追跡調査時 -0.26
2 対照群
ベースライン時 0.01
追跡調査時 0.28
ITT分析では、対照群と比較して、自転車通学群が合成Z-スコアを低下させ、β=-0.58<0.58標準偏差>(信頼区間 95% -1.03~-0.14 P=0.012)となった。
●考察
本研究の主要成果は、8週間で自転車通学群が心血管代謝危険因子を0.58標準偏差分、有意に低下させたことである。自転車通学によって、心肺機能への期待したような効果は現れなかったが、青少年対象で実施された横断的研究では自転車通学群において4.6~5.9%高い心肺能力が報告されており、また、ある前向き研究においても自転車通学を始めた子どもたちにおいて9%の向上が見られている。本研究では、自転車走行距離と心肺機能の間には有意な関連が見られたので、継続期間が短かったことにより先の研究とは異なった結果となったのかもしれない。
合成Z-スコアが0.58下がったことは価値のあることである。MSスコアが1上がることは、2型糖尿病発現オッズ比が男性において3.4、女性において5.1、CVDオッズ比は1.7という関連性が示されており、MSスコアが0.58下がったということは、理論的には糖尿病発現のオッズ比を約45%、CVDのオッズ比を約25%低下させることになる。結論として、自転車通学は心血管代謝危険因子妨害になり、2型糖尿病とCVDの潜在的予防となると認識されるべきである。