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VPDに対する公的ワクチン接種の威力
米国では、ワクチンの公的勧奨によって、VPD罹患数や死亡数が劇的に減りました。
Historical Comparisons of Morbidity and Mortality for Vaccine-Preventable Diseases in the United States
Sandra W. Roush, MT, MPH, Trudy V. Murphy, MD, and the Vaccine-Preventable Disease Table Working Group
JAMA. 2007;298(18):2155-2163. doi:10.1001/jama.298.18.2155.
川口利の論文抄訳
発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。
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●背景
(1)総論
ワクチンは生物医学と公衆衛生の最も偉大な業績の一つであり、がんに至るいくつかの感染症も含め急性そして慢性感染症に対して防御免疫応答を刺激するものである。米国においては、ワクチンプログラムがワクチンで防げる病気(VPD)の多くを淘汰することに大きく貢献してきており、それ以外の病気に対してもかなり減少させてきた。VPDの被害には、これらの病気への罹患や早世に加え、学校や職場に行けなかったこと、医院での診察、入院により失われた時間など、社会的・経済的コストも含まれる。
国の勧めは、17のVPD淘汰および予防のためにワクチン使用を案内している。ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、はしか、おたふく(流行性耳下腺炎)、風疹(先天性風疹症候群を含む)、インフルエンザ、侵襲性ヘモフィルスインフルエンザ菌b型感染症(Hib)、B型肝炎、A型肝炎、ロタウィルス感染症、水痘、帯状疱疹、および肺炎連鎖球菌、髄膜炎菌、ヒトパピローマウィルス(HPV)によって引き起こされる病気が含まれている。
今回の報告は、国による推奨が2005年より前に実施された、これらのうち12(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、はしか、おたふく、風疹<先天性風疹症候群を含む>、Hib、急性B型肝炎、A型肝炎、水痘、肺炎球菌感染症)と、1971年以来ワクチン接種が日常的には勧められてこなかった天然痘に関して、歴史的および現在の状況をまとめたものである。インフルエンザは本研究から外した。というのも、流行性インフルエンザウィルスおよびワクチンは毎年変わり、予防のためには毎年ワクチン接種が求められることから、他のVPDとは異なるアプローチにより効果測定をする必要があるからである。
VPD罹患率および死亡率を調べる脈絡をつけるため、予防接種政策の発展、ワクチン配分と接種率評価、ワクチン安全性モニタリング、サーベイランスを含む、米国の国家予防接種プログラムの要素について述べておく。
(2)米国予防接種政策の発展
米国の予防接種政策は、米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)によって展開されている。ACIPは、関連科学情報を調べ、幼児・子ども・青少年・成人に対して承認されたワクチン使用のため、エビデンスに基づいた推奨を展開している。専門機関も、ワクチン接種推奨をしており、これはしばしばACIPの推奨と協調したものになっている。ACIPは、Vaccines for Children Programを通してワクチンを受けるのが望ましい幼児や子ども、そして青少年が利用できるワクチンリスト作成の責任を有している。1994年以来、Section 1928 of the Social Security Act(社会保障法)によって作られたプログラムは、保険未加入や低収入家庭の子どもたちが日常診療の一環としてワクチン接種を受けることを可能にし、ワクチン接種とプライマリーケアの統合を支えている。
(3)ワクチン配分と接種率評価
1995年にポリオ不活化ワクチンが承認されて以来、国家予防接種プログラムは、州・地方・民間供給者と協力して、公共部門へのワクチン購入および配分における中心的役割を果たしてきている。Vaccine for Children Programのワクチンは、適格となる子どもや青少年は無料で医療者にかかることができる。この計画は、高いワクチン接種率達成と新たに推奨されたワクチンを子どもたちが確実に利用できることに貢献している。保険未加入や低収入の成人に対しては同じような計画は存在していない。
1994年以来、National Immunization Survey (NIS)は国家・州・選択地域のワクチン接種率推定を、新たに承認され使用が推奨されるものも含めて、19~35カ月の米国の子どもに情報提供している。2004年、19~35カ月の子どもに対するワクチン接種率推定が、Healthy People 2010の目標値であった最低5年間全域管理が推奨されているすべてのワクチンを受けた割合が80%以上という数字を初めて超えた。Healthy People 2010は、21世紀の最初の10年間に米国国民の健康増進のためのロードマップとして設定された国の健康目的概要である。1989年以来、ワクチン接種施設は学校やデイケアを包含するように広がり、これらの環境での幼児や子どもへ高いワクチン接種率を保証し、青少年や成人に対する接種率を計るための新たなシステムが開発されている。ワクチン接種率評価は、VPDリスクを抱えるグループを識別し、理解推進への努力に焦点を当て、ワクチン接種推奨を伝える効用の尺度なのだ。
州ベースのワクチン接種登録を含め、情報源の数が増えており、幼児や子ども、青少年、成人に対するワクチン接種記録の維持が可能になってきている。ワクチン接種登録は、秘密を守りながら様々な医療提供元からのワクチン接種データを維持するコンピュータ処理情報システムである。ワクチン接種登録は、備忘・想起通知を出すことでワクチン接種率を高めることができる。ワクチン接種情報システムは、ワクチン管理、有害事象報告、生涯期間でのワクチン接種歴など、さらなる可能性を有する登録である。ワクチン接種情報システムは、公共医療部門・民間医療分門ともに臨床医が利用でき、2005年に公共のワクチン接種提供場所75%、民間のワクチン接種提供場所44%からワクチン接種情報システムへのワクチン接種データ提供があった。
(4)ワクチンの安全性モニタリング
ワクチン安全性の保証は国家ワクチン接種プログラムに関係する核となる機能で、CDC、米国食品医薬品局(FDA)、他の連邦機関、公共部門および民間部門のワクチン備蓄との共同責任となっている。ワクチン有害事象報告システムを通じての報告と市販後モニタリングの利用増加は、承認前研究で確立された安全性情報が一般での使用中に反映されているかどうかを決定するため、そして認識されていなかったり稀であったりする有害事象を早期に見つけるために非常に重要である。ワクチンと関連があり、一般に広く利用された後にしか見つけることができないかもしれない稀で深刻な有害事象を識別するため、新たな科学的アプローチが使われている。1986年の国家小児ワクチン障害法が国家ワクチン障害補償プログラムを設立し、推奨ワクチン接種で障害を受けたと信じられる人に対する損害賠償請求権を与えた。
(5)サーベイランス
国家予防接種プログラムの疾病罹患率と死亡率に対する効果を評価するためには、ワクチン接種率と疾病の負担両方の評価が必要となる。国の疾病サーベイランスにおいて州や地方の公衆衛生担当者は、医療提供者、検査研究所、他の公衆衛生関係者が法定伝染病を州や地方の保健当局へ報告することをあてにしている。米国では、疾病や症状の報告を法律や規則によって義務づけている。報告すべき疾病一覧は各州で異なるが、すべての州によって共通に報告される一定の疾病がある。CDCと全米州および地域疫学専門家審議会(CSTE)は、州の保健当局の指定疾病症例報告を国の報告義務疾患のサーベイランスシステムに加えるためのガイドラインを制定した。VPDの州報告症例の特殊性を上げ比較可能性を高めるために、サーベイランスへの症例定義が作られてきている。質の向上したサーベイランスシステムは、疾病の型や国家予防接種プログラムの有効性監視に対しても公衆衛生データを提供するよう設計されてきた。慢性疾患(B型肝炎と肝臓がん、HPVと子宮がん)に対するワクチンの効果を明らかにするためには、長期間にわたる変化を捉えるようにサーベイランスが設計される必要がある。
VPDに帰する死亡が予防接種プログラムの効果に対する別の指標となる。死亡は国の報告義務疾患のサーベイランスシステムに報告されており、さらに、全米保健医療統計センター、全米生命統計システムが、VPDによる死亡も含め、死亡数を監視するために使われたデータを提供している。国の報告義務疾患のサーベイランスシステムの死亡報告は、州および地方レベルでの生死の登録に基づく生命統計データとともに、ワクチン接種がVPDの最も深刻な結果に与える影響を監視できるようにしている。
●方法
ワクチン接種前年間平均推定をし、VPDに対する報告または推定症例数、死亡数、入手可能な場合は入院数を測定した。ワクチン接種前の情報は、幅広い過去の報告源から入手し、最も分かりやすく信頼できるものを識別した。年ごとの過去の平均症例数と死亡数は、ワクチン承認以前または特定ワクチン接種プログラムが広く実施される以前の代表的期間に対する報告または推定数から取り出した。過去のベースライン時(各年平均)に対してより広い前後関係を持たせるため、ピーク時の症例数と死亡数についても測定し、期間を識別した。
最新の入手可能な報告または推定数については、疾病の負担を最も代表する情報源から、症例数は大部分が2006年、死亡数は2004~2006年、入院数は2006年の数値を測定した。VPDそれぞれに対する症例数、死亡数、入院数のパーセント表示での減少割合は、ベースライン時と最新の数字差として算出した。
●結果
(1)1980年以前に承認または推奨されたワクチン
国家的に予防接種が推奨される以前の時期と2006年の症例数を比較すると、次の割合で減少したことが分かった。
1 ジフテリア 100%
2 はしか 99.9%
3 おたふく 95.9%
4 百日咳 92.2%
5 ポリオ 100%
6 風疹および先天性風疹症候群 風疹99.9%、先天性風疹症候群99.3%
7 天然痘 100%
8 破傷風 92.9%
死亡数の減少割合については、百日咳で99.3%、破傷風で99.2%となり、先天性風疹症候群による死亡数報告が不明である以外、他の疾病による死亡は報告されておらず、すべて100%であった。天然痘は世界的に撲滅されており、ポリオウイルス、はしかウイルス、風疹ウイルスによる風土的伝染は米国においては淘汰された。
(2)1980年以後2005年以前に承認または推奨されたワクチン
国家的に予防接種が推奨される以前の時期と最新の症例推定数を比較すると、次の割合で減少していると考えられる。
1 A型肝炎 87.0%
2 急性B型肝炎 80.1%
3 Hib 99.8%以上
4 肺炎球菌 34.1%
5 水痘 85.0%
死亡推定数の減少割合については、以下の通りである。
1 A型肝炎 86.9%
2 急性B型肝炎 80.2%
3 Hib 99.5%以上
4 肺炎球菌 25.4%
5 水痘 81.9%
入院推定数は、Hibと肺炎球菌ではデータ入手不可であったが、A型肝炎で87.0%、急性B型肝炎で80.1%、水痘で88.0%の減少となった。
●考察
ほとんどのVPD症例数は史上最低となっており、入院数や死亡数も激減している。これらの功績は、幼児期や小児期のワクチン接種プログラム実施を成功させたことにより、幼児期から小児期を通して高いワクチン接種率を達成し、それを維持してきたことによるところが大きい。定期接種が勧められている小児ワクチン12のうちの7ワクチンが、それぞれの出生コホートにおいて推定33,000の死亡数と1千400万件の症例数予防につながり、それぞれの出生コホートにおいて直接的コストを100億ドル削減し、社会に対して障害や失われた生産性を含めさらに330億ドルのコスト削減をしていると推測されている。
青少年や成人に対して近年推奨されているワクチンの接種を増やすことで健康上の恩恵がもたらされるかもしれないが、細菌性髄膜炎、HPV、破傷風ジフテリア百日咳混合ワクチン(Tdap)のように、青少年の疾病罹患率や死亡率を下げるワクチン数が増えることは、機会と挑戦とをつくり出す。青少年に推奨されるワクチンすべてを日常的に利用できるようにすることは、幼児や子どもに対するアプローチとは異なるものが求められるだろう。百日咳、インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹ワクチンを日常的に利用できることへの保証は、成人におけるVPDの罹患率や死亡率を低下させ、他の脆弱な人々への伝染を減らすかもしれない。成人の間に高い接種を達成するためには、医師と患者によるワクチン接種から得られる恩恵に対するより深い理解が求められ、ワクチン供給を成人予防医療として採用する必要があるだろう。最大の余得は、青少年と成人でのより高いワクチン接種率達成からもたらされるように思える。
ワクチンは生物医学と公衆衛生の最も偉大な業績の一つであり、ワクチンの効能と安全性を、そしてすべての年齢層におけるワクチン接種率を高めるため引き続く努力が、全体的な公衆衛生への恩恵をもたらすであろう。ワクチン開発、ワクチン投資、サーベイランス、評価、そしてワクチン分配における挑戦が、未来に対する機会となるのである。