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メタボを改善すると心血管疾患リスクは下がる

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 中国で、一般住民を対象にメタボリックシンドロームと心血管疾患の関係を調査したところ、メタボ診断基準の中の血圧・トリグリセリド値・空腹時血糖値を改善すると心血管リスクは下がると分かりました。

An Exploratory Analysis of Dynamic Change of Metabolic Syndrome in Relation to the Risk of Developing Cardiovascular Disease in a Chinese Cohort
H Zhou, Zr Guo, Xs Hu, Lg Yu, Bh Xu, M Wu, Zy Zhou, C Yang and PMMJS Study Group
Iranian J Publ Health, Vol. 41, No.4, Apr 2012, pp. 26-34 Original Article

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。


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●背景

 メタボリックシンドローム(MS)は、肥満・インスリン抵抗性・糖代謝障害・高トリグリセリド血症・高密度リポ蛋白コレステロール値低下・血圧上昇を含む医的障害の合併で、心血管疾患(CVD)や糖尿病発現リスクを高める。全世界的に、公衆衛生問題となってきている。利用できうる最高のエビデンスによるとMS有病者はCVDリスクが高いことが示されている。心血管危険因子と密に関係するこの集団に対する関心が高まってきており、早期に干渉することで、多様なCVD危険因子形成を予防することができるかもしれない。このことは、MSの概念がCVD予防や管理の分野で広く受け入れられている重要な理由となっている。生活様式または治療により、MS構成要素の変化は介入の自然な結果として近づけられる可能性がある。例えば、コホート研究においては、ベースライン時MS患者が追跡調査時には非MSに変わるかもしれないし、ベースライン時非MSの人が部分的には追跡調査時にMS診断を受ける方に進んでいくかもしれない。MSとCVDの関係に関するこれまでの前向き研究は、一度だけ追跡調査を実施し、追跡調査時CVD発生とベースライン時MSとの関連を調査した。結果として、CVD発生に対するMSの動的変化の影響はよく理解されなかった。したがって、本研究の目的は、江蘇省における多様な代謝障害およびMS予防プロジェクト(PMMJS)のコホートデータを用いて、MSの動的変化がCVD発生に与える影響を比較することである。

●方法

(1)対象者
 PMMJSは、江蘇州におけるベースライン時MS有病率を推定し、追跡調査期間中のCVDと2型糖尿病発生率を評価するためのコホート研究である。多段抽出法を用い、第1段階では、異なる地域の経済的状況に基づき江蘇州の都市部13から3、郡部52から9を無作為に選択した。第2段階では、一つの都市から街区ないしは居住区と同様である1地区を、および一つの郡から一つの田舎町を無作為に抽出した。最終段階では、選択された地区と田舎町から世帯が無作為に選択され、各世帯から1人が交代なしの条件で無作為抽出された。地域の公衆衛生行政機関が、追跡期間中に容易に対象者の健康情報を追跡できるように住所や電話番号を含めた世帯登録を管理し、がん、重症障害、重症精神障害を抱えた人は除外された。全体として、1,000~2,000戸からなる12の初期構成単位から35~74歳の8,685人が無作為抽出され、性別と10年単位の年齢によって層分けされた。

(2)計測
 一晩絶食後の健康診断の午前中にすべての計測が実施された。内容は以下の通りであった。
1 自動記録装置による身長・体重
2 血漿および血清検査用サンプルはラボテストまで-80℃に凍結保管
3 標準水銀血圧計による血圧計測を30秒間隔で3回、5分休息後の座位で実施し、最初と5番目のコロトコフ音を収縮期血圧(最高血圧)および拡張期血圧(最低血圧)として記録
4 腹囲は立位で通常呼吸下へその高さで計測
5 血液サンプルから以下の値を分析(6~9)
6 空腹時血糖値(FPG)
7 トリグリセリド値(TG)
8 高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)
9 低密度リポ蛋白コレステロール(LDL-C)

(3)追跡調査
 追跡期間2年を満たした5,888人中4,582人が、2002年1月から2003年8月の間に第1回追跡調査と計測を受けた。内容および方法は、ベースライン時と同じであった。さらに、血圧データ・高血圧およびCVD発生に関する情報がアンケートに基づき収集された。

 第1回追跡調査を受け、追跡期間5年を満たした4,582人中3,847人が、2006年3月から2007年11月の間に第2回追跡調査を受けた。この調査では、主に5年間に発生したCVDに関する情報が収集された。2回の追跡調査を受けた対象者の中から、ベースライン時または第1回追跡調査時に2型糖尿病を有していたことが判明した者、データ不備のある者、CVD発症者、BMIが18.5未満の者を除外した結果、最終分析に残ったのは、男性1,406人、女性2,055人、合計3,461人となった。第1回追跡調査から第2回追跡調査までの中間値は3.8年であった。

(4)MSの定義
 米国心臓協会(AHA)と米国国立心肺血液研究所(NHLBI)の成人治療パネル3(ATP Ⅲ)である、AHA/NHLBI(2005)に基づき以下のうち三つが存在すればMSと診断した。
1 腹囲 男性で90cm以上、女性で80cm以上
2 TG値 1.7mmol/l以上
3 HDL-C値 男性で1.0mmol/l未満、女性で1.3mmol/l未満
4 血圧 130/85mmHg以上
5 FPG 5.6mmol/l以上

(5)CVDの確認
 CVD診断は、病院医の調査または患者からの報告の確認によって検証された。さらに、中国の疾病予防管理センターの運用機能として設定されている、地方での慢性病監視と死亡登録の日常モニタリングシステムにも頼った。CVD診断は臨床症状、心筋酵素、心電図所見、解剖所見、CVD既往歴に基づいて行われた。冠動脈性心疾患(CHD)は、確定急性心筋梗塞、急性心筋梗塞または冠動脈死可能性、非急性心筋梗塞、分類不可能な冠動脈死に分類された。脳卒中の定義は、明らかな非血管性原因がなく、手術や死亡により妨げられることがなければ24時間超局所的あるいは全体的に脳機能障害継続が急速に発現する兆候とした。CHDと脳卒中は、WHOのMONICA(*1)の基準を用い定義した。

(6)危険因子の定義
 家族の病歴に関して、親のCVD歴、2型糖尿病歴、高血圧歴、肥満、脂質異常症歴いずれかがあることとした。生涯で100本以上のタバコを吸った人は喫煙者、100本未満の人は非喫煙者とした。毎回50g以上のアルコールを年12回摂取することを飲酒として定義した。

(6)統計分析
 腹囲・TG・HDL-C・血圧・FPGにおける、第1回追跡調査時の値-ベースライン時の値による差異値を算出した。したがって、差異が大きいほど、MS構成要素がより増えていることを意味し、差異が<0であれば、MS構成要素が減少したことを意味する。MS構成要素とCVD発現との関連を相対危険度にて算出した。補正因子として、年齢・性別・喫煙・アルコール摂取状況・家族の病歴を含めた。

●結果

ベースライン時3,461人が、第1回から第2回の追跡期間中央値3.8年で分析対象となった。ATPⅢ定義により、以下のような分類となった。
1 ベースライン時MSなしで追跡調査時もMSなし 2,098人
2 ベースライン時MSなしで追跡調査時MSあり   547人
3 ベースライン時MSありで追跡調査時MSなし   313人
4 ベースライン時MSありで追跡調査時もMSあり   503人

 この4群の間には、ベースライン時に年齢・家族病歴を除いて、統計的に有意差が存在した(P<0.01)。2回目の追跡調査時では、87人が新たにCVDを発症しており、発症した群としなかった群の間には、腹囲・HDL-C・家族病歴を除いて、統計的に有意差が存在した(P<0.05)。

 全体としてのCVD発生率は2.58%だった。先に示した4群別に見ると以下の通りとなった。
1 ベースライン時MSなしで追跡調査時もMSなし 2.05%
2 ベースライン時MSなしで追跡調査時MSあり  5.01%
3 ベースライン時MSありで追跡調査時MSなし  1.65%
4 ベースライン時MSありで追跡調査時もMSあり 4.39%

 年齢・性別・喫煙・アルコール摂取状況・家族の病歴で補正を加えたところ、MS対象人数とCVDリスクの間に有意な関連は見られなかった。さらに、腹囲・TG・HDL-C・血圧・FPGというMS構成要素における差異のCVDリスクと構成要素の数を分析した。補正を加えた後の相対危険度は、腹囲・HDL-Cを除いて、1.288(信頼区間95% 1.088~1.524)となり、各要素別には以下の通りとなり、CVDとの関連が認められた。
1 収縮期血圧 1.015(信頼区間95% 1.005~1.024 P=0.002)
2 拡張期血圧 1.020(信頼区間95% 1.004~1.037 P=0.018)
3 TG     1.216(信頼区間95% 1.039~1.423 P=0.015)
4 FPG    1.239(信頼区間95% 1.030~1.490 P=0.023)

●考察

 近年、多くの前向き研究が、MSはCVD予測の重要な役割を果たすと報告してきているが、常にMSである人は固定されない。例えば、本研究でも、ベースライン時MSではなく追跡調査時MSがベースライン時MSでなかった群の20.7%、ベースライン時MSで追跡調査時MSでなかった人がベースライン時MSだった群の38.4%となった。ベースライン時MSではなく追跡調査時もMSでなかった群とベースライン時はMSではなかったが追跡調査時MSとなった群の比較では、CVD発生率が2.05%対5.01%、ベースライン時MSだったが追跡調査時MSではなかった群とベースライン時MSで追跡調査時もMSだった群との比較では、1.65%対4.39%となり、MSの動的変化がCVD発生率に対する影響を及ぼすことが分かった。補正を加えた後では、MS有病者の人数とCVDリスクとの関連は統計的に有意とはならなかったが、血圧・TG・FPGは個々にCVDと関連があり、MSの動的変化を測定することはCVD予測への有効なツールとなることが分かった。MS予防と管理の観点から、MSの動的変化を予防することは、特に血圧・TG・FPGにおいて、CVD発現リスク低下に効果的であると言える。

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