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認知症を知る18 義歯を使わないと発症リスク上がる

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98-1-1.jpg 自分の歯が少ないのに義歯を使っていない人は、認知症を発症するリスクが高くなるようです。

 この研究報告は、山本龍生・神奈川歯科大准教授らのグループが2012年3月、『アメリカ心身医学会雑誌』に発表したものです。大変に興味深い話なのですが、編集部では今まで報告の存在に気づいておらず、今年7月に行われたNPO法人「ハート・リング運動」の設立記念シンポジウムで、同運動共同代表の大久保満男・日本歯科医師会会長が紹介したのを聴いて、初めて知りました。

 内容を簡単に説明すると、「愛知老年学的評価研究(AGES)」(次項コラム参照)という疫学研究で、65歳以上の健常者4425人に歯や口の中の状態を選択肢から自分で選んでもらい、その後4年間、認知症を伴う要介護認定を受けたかどうか追跡しました。

 その結果、年齢、治療疾患の有無や生活習慣などに関わらず、歯がほとんどなくて義歯を使用していない人は、20本以上歯が残っている人より、有意に認知症による要介護認定を受けた頻度が高く、そのリスクは1.85倍(95%信頼区間は1.04倍から3.31倍の間)にも上ることが分かりました。

 昔から認知症の人に歯が少ないことは知られていましたが、認知症の結果歯の手入れができなくなって歯が失われるのか、歯がないから認知症になりやすいのかは分かっていませんでした。それを今回調査したところ、義歯がカギを握っているという結果になったわけです。

98-1.1.jpg グラフ1は、時間の経過と共に認知症になった人の割合を追いかけたもので、一目瞭然、義歯を使っていない人だけ割合が高くなっています。

 なお、「歯がほとんどない」は自己判断なので何本以下が該当するのか明確ではありませんが、山本准教授らが事後検証したところでは、本来なら28本あるはずの永久歯が一桁しかない人が多かったそうです。

 さて、なぜ歯が少なくて義歯を使っていないと発症リスクは高くなるのでしょう。

 山本准教授は、以下3つの仮説を挙げています。
①歯周病の慢性炎症の影響
 永久歯を失う最大の原因である歯周病は、歯茎で慢性的に炎症が起きている状態です。その炎症で作られるサイトカイン(細胞間の情報伝達を司る物質)は、脳神経細胞に悪影響を与えると考えられています。
②噛めないことの影響
 ものを噛むと、脳の血流が増え、記憶を司る海馬も活性化することが分かっています。この噛む刺激が足りなくなっている可能性があります。
③食生活の影響
 満足に噛めない人は、当然のことながら何でもバランスよく食べるというわけにはいかなくなります。野菜や豆など認知症のリスクを下げる食べ物(7月号参照)が特に苦手になりがちです。ビタミンなどの摂取不足で、認知症になりやすくなっている可能性はあります。特に白飯だけ食べているような場合、7月号に出てきた最悪のパターンにはまってしまいます。

 さらに山本准教授は、義歯を使っていないことで社交性が失われ、引きこもりがちになることも影響しているのでないかと考え、今後検証するとのことです。

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