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外科医が大量に中途離職

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 日本の研究グループが、厚生労働省発表の1996年から2006年までの医師・歯科医師・薬剤師調査データから、日本における実働医師・一般外科医・他診療科医師・女性医師数の動向を調査したところ、実働医師数は増えているものの一般外科医数は減少しており、特に30~40代の20%超が10年間で中途離職したことが分かりました。


Mid-career changes in the occupation or specialty among general
surgeons, from youth to middle age, have accelerated the shortage
of general surgeons in Japan
Yasuhiro Mizuno • Hiroto Narimatsu •Yuko Kodama • Tomoko Matsumura •
Masahiro Kami
Surg Today DOI 10.1007/s00595-013-0613-6

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 日本における明らかな一般外科医不足に関する懸念が持ち上がっているが、現状は全く明確になっていない。日本の一般外科医数における動向を明らかにするために、本研究グループでは経時的な専門分野による医師数を研究した。

 本研究は、経時的な医師数における推移、病院勤務と診療所勤務での勤務形態比較、女性医師の割合における推移を調査した。1996年、1998年、2000年、2004年、2006年の、医師・歯科医師・薬剤師調査からのデータを使用した。

 1994年と2006年の間で、一般外科医数は、24,718人から21,574人へと12.7%下落した。25歳から54歳までの一般外科医の20%超が、1996年から2006年の間に職業を変更するか、専門(診療科)を変更するかしていた。25歳から54歳までの一般外科医のうち、病院勤務医数は、2000年から2006年の間で2,567人、16.2%下落した一方で、診療所勤務医数は348人、19.8%上昇した。女性一般外科医の割合は、1996年の2.4%から2006年の4.5%へと上昇した。

 日本における一般外科医の減少は、主として中途離職によるものである。

●背景

 緊急を要さない選択的手術においても緊急手術においても、一般外科は医療で欠かすことのできない役割を果たしている。しかし、近年多くの国で一般外科医不足が報告されており、医療への負の影響が懸念されている。

 一般外科医数の減少と診療への影響に関する実証研究はほとんどされておらず、実態は不明確なままとなっている。米国で過去20年にわたって一般外科医数が変化していることを示した研究がある一方で、新たな一般外科医数と退職した一般外科医数を1人あたりの一般外科医数の計算に用い、将来的な一般外科医数減少を予測した研究もある。

 一般外科医数不足を論ずる際には、医師に関係する要因および患者に関係する要因など、様々な要因を考慮に入れなければならない。例えば、一般外科医数は、新たな外科医と退職外科医の純差で決められる。一般外科医になりたいという人の数が明らかに減少してきているが、診療科変更・転職・退職といった職業変更の影響は不明確である。

 本研究グループでは、日本における一般外科医数の動向を、厚生労働省が2年に1度発表するデータを用いて調査した。

●方法

(1)調査対象およびデータ収集
 本研究は、年ごとの各診療科に対する医師数を調査した。医療施設従事者であると報告した医師免許保有者(2006年には全医師数の94.8%を占めた)を調査し、この群を総実働医師として定義した。1996年、1998年、2000年、2004年、2006年の、医師・歯科医師・薬剤師調査からのデータを使用して医師数を決定した。この調査は2年に1度実施され、医師・歯科医師・薬剤師の分布を、性別・年齢・職種・雇用形態・薬剤師を除いては診療科により示すもので、一般にも公開されている。

(2)日本における医療制度
 日本で医師になるためには、大学の医学部を卒業し、国家試験に合格しなければならない。2003年までは、医師は、国家試験合格後直ちに自分の診療科での診察を開始することができた。しかしながら、2004年に政府が制度を変更し、国家試験合格後2年間の研修を受けることが要求されるようになった。この制度の下、医師たちは、内科・外科・救急医療・小児科・産婦人科・精神科・地域医療分野で2年間研修することになったため、診療科選択は2年延期されているのである。診療科の選択は個人に委ねられており、政府または医学会によって規定されるものではない。

(3)定義
 「一般外科医」とは、医師・歯科医師・薬剤師調査に対して、自分の診療科を示すために単一回答のみが認められる中で、「外科」を選択した医師と定義される。「外科医」は、診療科として、外科・整形外科・形成外科・美容外科・(脳)神経外科・呼吸器外科・心臓(血管)外科・小児外科・直腸結腸外科のいずれかを選択した医師である。「内科医」とは、診療科として、内科・心療内科・呼吸器科・消化器科(胃腸科)・循環器科・アレルギー科・リウマチ科・小児科・精神科・神経科・神経内科のいずれかを選択した医師である。「産婦人科医」とは、診療科として、産婦人科・産科・婦人科のいずれかを選択した医師である。これらに加えて、眼科・耳鼻咽喉科・気管食道科・皮膚科・泌尿器科・性病科・リハビリテーション科(理学療法科)・放射線科・麻酔科、2006年から加えられた病理・救命救急・研修医も選択可能な診療科となっている。

 本研究では、医療法に基づいて従事施設を定義した。病院とは、20床以上の入院病棟を有する医療機関で、診療所とは、19床以下の入院病棟を有するか、入院病棟を有しない医療機関である。重症に対する手術や、他の主要な手術は、通常診療所では実施されない。さらに、日本においては、医師は通常1病院のみに勤務するので、診療所に勤務する者が病院で手術を実施することは稀である。

(4)本研究の目的
 本研究の目的は、日本における一般外科医数の動向を調査し、これらの動向に影響を与えている要因を明らかにすることであった。

(5)データ分析
 本研究は、医師数に対する後ろ向き経年的研究で、1996年(X)の年齢層を母集団とし、2006年(X+10)での同年齢層との比較を行った。1996年に24歳未満であった年齢層および75歳以上の年齢層は、2006年には相当する年齢層がないため、本研究では、1996年に25歳から74歳であった医師について調査した。

●結果

(1)一般外科医数および総実働医数における動向
 総実働医数は、1994年から2006年までの12年間に徐々に増加し、19.3%上昇したが、一般外科医数は徐々に減少し、12.7%下落した。総実働医に占める一般外科医の割合は、1994年には11.2%であったが、それ以降一貫して減少し、2006年には8.2%となった。

(2)一般外科医の減少
 1996年における年齢層別の実働医数と一般外科医数に関して、10年後での変化割合を見ると、39歳以下の医師では、総実働医数は増加したが、一般外科医数は減少した。40歳以上の医師については、総実働医数と一般外科医数の両方が減少したが、一般外科医数の減少が特に著しかった。30代から40代の年齢層では、総実働医数は0.7%の減少であったのに対し、一般外科医数は22.6%下落した。

(3)病院と診療所の比較
 病院および診療所で勤務する一般外科医数の2000年における数字をもとに、2年後、4年後、6年後の動向を調べると、すべての年齢層において、病院勤務医数は減少しており、55歳以上の高年齢層での減少が最も大きかった。診療所勤務医数は、25~39歳および40~54歳の年齢層では、若干増加したが、55~69歳の年齢層では着実に減少した。

(4)各診療科における10年間での変化
 1996年に25~74歳であった医師数を各診療科で10年後(35~84歳)と比較すると、すべての領域での外科医と産婦人科医の減少率が、総実働医数の減少率よりも大きくなった。外科の分類で見ると、一般外科医の減少率26.6%が他の外科医の減少率4.3%よりも大きかった。

(5)女性医師割合の動向
 1996年から2006年までの総実働医と一般外科医における女性の割合を見ると、どちらも増加しているが、総実働医における増加率との比較において、一般外科医の増加率はより低いものとなった。

●考察

 本研究は、日本における一般外科医数の動向を初めて明らかにした。1994年から2006年までの離職による一般外科医数は12.7%下落しており、(医師不足は)産婦人科医の不足によってさらに深刻となり、社会問題となっている。

 日本での一般外科医の減少は、主として中途離職によるものである。離職率は、特に30代~40代で高くなっている。多くの研究が、なり手不足の観点から一般外科医不足を扱ってきており、この問題は適切には議論されてきていない。それにもかかわらず、30代および40代の医師が一般外科医療の最前線にいること、後進の教育における中心的役割を果たしていること、一般外科医育成には時間がかかることを考慮すると、極めて重要な問題となるのである。この状況が続く限り、一般外科医の不足は加速度的にさらに悪化し続けそうである。

 本研究で特に興味深いのは、一般外科医数の減少が、他の診療科よりもはるかに多いという事実である。過重労働・医療訴訟・低賃金が、外科や産科で働く医師不足の理由として挙げられてきているが、これらの要因が、一般外科と他の診療科との間で著しく異なるというのは想像しがたい。一般外科医の減少は、まだ明らかにされていない別の理由と関連があるのかもしれず、さらなる研究が求められる。

 本研究においては、病院勤務の一般外科医での離職率が、診療所勤務者よりも高かった。このことは、個人診療所での医師との比較において、病院勤務医が直面している劣悪な勤務状態を反映している。それにもかかわらず、重症者を含め傷害を有する患者への手術のほとんどが病院で実施されることを考慮すると、病院での職を離れる病院勤務の一般外科医数が多いことは、手術までの待機時間が長引くことを意味し、緊急手術には適応できない危険性を孕んでいる可能性がある。

 言及に値する一つの問題は、すべての年齢層の中で、病院勤務の一般外科医減少数が、診療所勤務の一般外科医増加数を超えていることである。日本の医師は、40~50代までは病院に勤務し、その後同じ診療科での個人診療所を開設すると考える人が多いが、これは事実とは異なっている。病院勤務医は、一般外科から他診療科へと移ったり、個人診療所開設時には他診療科へと変更したりする傾向があるのだ。

 総実働医および一般外科医に対する女性医師の割合は、年々増加してきているが、どちらにおいても、大きな男女格差が残っている。2006年に、総実働医に対する女性医師の割合は17.2%だったが、一般外科医に対する割合は4.5%と低いものだった。女性医師は、おそらく一般外科医領域において、適切に利用されていないのであろう。将来的に女性医師数が増加することが期待される。一般外科医不足に終止符を打つためには、女性医師をよりうまく利用し、若い女性医師に一般外科を選択するよう奨励し、女性医師を歓迎する労働環境を作り出すことが重要である。

 本研究は、日本における一般外科医不足の実情に関する価値ある情報を提供しているが、いくつかの限界も存在している。第一に、本研究は、一般外科医の離職理由に関する情報提供はしておらず、離職後たどった道筋についても触れていない。これらの問題を理解することは、一般外科医がその診療科から離れるのを食い止める方策の見極めに重要となるであろう。伝統的な日本の研修制度下では、外科医は一般外科から入り、後に心臓血管外科のような、専門外科領域に進むことが多かった。2004年に臨床研修制度に対する見直しがされ、外科医の伝統的なキャリア・パスに大きな影響を与えたので、本研究結果を偏らせている可能性はある。第二に、本研究は、外科で第一に働きたいというなり手不足の問題を適切に議論することはできなかった。これらの点について、さらなる研究が必要となる。

 最後に、この問題を扱うための最適な戦略構築を議論する必要がある。方法の一つとして、手術数の多いhigh-volume centerの数を増やすことが挙げられるだろう。high-volume centerに一般外科医を集約することは、医療チームの機能を高めることになるかもしれない。実際、がんに対するそのようなhigh-volume centerが、今や日本に設立されている。一方で、high-volume centerの効用については、議論の的となっている。つまり、郊外に居住する患者にとってはより不便になる可能性を懸念する一般外科医もいるのである。現状を正確に評価するためには、将来的な調査が必要となるであろう。一般外科を離れ他の診療科に移ったり、個人診療所を開設したりする一般外科医に、病院での手術実施を認めたり奨励したりすることも有効かもしれない。通常、手術は2人以上の一般外科医で行われるので、執刀医として手術を担当する病院外科医の助けとなり得る。それ故に、病院の一般外科医チームが、そのような制度を利用して、より多くの手術をこなすことができる可能性がある。

 まとめとして、本研究グループは、日本における一般外科医の減少が、主に中途離職によるものであることを示した。1994年から2006年の間に、一般外科医数は、24,718人から21,574人へと、12.7%下落した。25~54歳の一般外科医の20%超が、1996年から2006年の間に転職するか診療科変更するかした。その年齢層の一般外科医では、2000年から2006年の間に病院勤務者数が2,567人、16.2%減少した一方で、診療所勤務者数は348人、19.8%増加した。これらの研究結果は、日本における一般外科医数減少にもかかわらず、患者を診ていくための最適な戦略構築での助けとなるであろう。本研究の情報は、同じような動向が報告されている国々における医療状況評価にも役立つであろう。

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