全国の基幹的医療機関に配置されている『ロハス・メディカル』の発行元が、
その経験と人的ネットワークを生かし、科学的根拠のある健康情報を厳選してお届けするサイトです。
情報は大きく8つのカテゴリーに分類され、右上のカテゴリーボタンから、それぞれのページへ移動できます。

慢性疾患有病率を減らし、公衆衛生を増進するためには強度の運動がポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ノルウェーと米国の研究者によって、健康を維持する、あるいは健康を改善するために必要な身体活動についての見解がまとめられました。ポイントとなるのは、強度の身体活動を導入することだそうです。

Increasing Physical Activity of High Intensity to Reduce the Prevalence of Chronic Diseases and Improve Public Health
Tommy Aune Rehn, Richard A Winett, Ulrik Wisløff, and Øivind Rognmo
Open Cardiovasc Med J. 2013;7:1-8. doi: 10.2174/1874192401307010001. Epub 2013 Jan 31.

川口利の論文抄訳

発行人の実兄。上智大学文学部卒。千葉県立高校の英語教師在任中に半年間の英国留学を経験。早期退職後に青年海外協力隊員となって、ホンジュラスで勤務、同じく調整員としてパナマで勤務。

 慢性疾患の高発生率や有病率、肥満や不活発の増加および医療費の増大は、持続可能とは考えられない一連の推移を示すもので、我々の社会において老齢者割合が増加していることを考慮すると、緊急の長期的社会的重要性を有するであろう。先行する大規模集団ベースの予防プログラムからの経験、および身体活動と心肺適応能増大の慢性疾患とその危険因子に対する文書化されている効果の再調査に基づき、本研究グループでは、身体活動の増大、特に活発な身体活動が、慢性疾患の有病率を低下させ、公衆衛生を向上させる主たる方法であることを主張するものである。強度の運動に特に焦点を合わせ、人口全体における身体活動増大を通じて、健康増進に対する調整された集団ベースでの介入プログラムが、緊急に国全体で、そして国際的に実施される必要があるということを結論づけるものである。

●はじめに

 慢性疾患は、全世界的に死亡と障害の主因となっている。身体活動レベルは低下し、座りがちの行動が増えており、そのことにより、心血管疾患・糖尿病・がんのような非感染性疾患有病率、および高血糖症・高血圧・体重超過のようなそれらの疾患の危険因子に対する有害な結果が出ている。世界保健機関(WHO)によると、非感染症疾患の有病率は全世界的に加速しており、どの地域にも広がり、すべての社会経済的階級に流行している。2002年の世界保健報告は、これらの疾患に帰する罹患率・障害・死亡率は、全死亡のほぼ60%、疾病負荷の43%を占めると示した。2020年までには、それらの寄与率が、全死亡の73%、疾病負荷の60%へ増大すると予測されている。重要なことに、非感染症疾患に帰する死亡の79%は、開発途上国で起きているのである。

 慢性疾患に対する生物学的危険因子は、主として不健康な生活様式によるものである。本研究グループは、うまく統合されたやり方で全人口における全年齢層での強度の身体活動を増加させることを目的とする、地域密着型予防プログラムが非感染症疾患に対する危険因子を制御する主たる方法で、それによって公衆衛生を向上させ医療費を削減させるということを、ここに主張するものである。

●集団ベース予防プログラムの4世代

 注意深く計画された地域密着型予防プログラムは、慢性疾患の発生率や有病率を低下させるための重要な手段かもしれない。そのような集団ベース戦略は、生活様式と環境の変化を通して全般的危険因子レベルを低下させることを狙っており、個人レベルの介入に依存するのみよりも、罹患率や死亡率の低下に対するさらに対費用効果が高い適切な取り組みと考えられている。理論的根拠は、数多くの人にわたる適度なリスク低下が、リスクの高い少数での大きなリスク低下よりも、より大きな公衆衛生的影響を与えるだろうということである。地域全体での健康増進を成し遂げることをねらいとする介入は、それ故に、すべての人にわたる適度なリスク低下を強く望むべきである。地域密着型介入は、ほとんどの人が可能性のある効果に浴するだろうことから、幅狭く標的を定められた戦略に利点がある。さらに、実施費用は比較的少なく、大規模な医療制度強化は必要とされず、既に非感染症疾患にかかっている人やリスクの高い人も利益を得るであろう。地域密着型介入は、慢性疾患に対する、一つないしはそれ以上の危険因子保有率を低下させることをめざし、典型的には、生活様式変化を促進するために環境変化・公教育・ある程度の行動変化戦略を用いている。

 CHAD Project、Stanford Three Community Project、Franklin Community CVD Health Programとともに、フィンランドでのNorth Karelia Projectが、1970年代初頭に最初の大規模地域介入プログラムに対する設定を提供した。これらの大規模介入の目標は、個人から施設および組織レベルまで、地域におけるいくつかのレベルでの社会的および健康志向行動変化をもたらすことであった。これらの初代プロジェクトが、後に実施された米国でのStanford Five-City Project、Minnesota Heart Health Project、Pawtucket Heart Health Projectを鼓舞した。

 第3世代プロジェクトは、1980年代と90年代に、より初期の試験を繰り返すもより少ない財源を用いることを目標に展開し、より明確に高リスクの亜集団を標的とした。これらの研究の中に、ノルウェー北極地方のBåtsfjordの漁村における地域密着型介入を通じて、心血管危険因子変更を明確な目標としたFinnmark Intervention Studyがあった。2000年以降に展開した4代目研究は、とりわけ社会経済的貧困者・農村居住者・老齢者・少数民族など、別々の亜集団に対して、より焦点を合わせてきている。

●地域密着型予防プログラムの結果

 すべてのプログラムの中で最も初期の、そしておそらく最も多く引用されているのは、該当地域での並外れて高い冠動脈心疾患(CHD)死亡率に対する大きな負荷を減ずるために、緊急に効果的な援助を求める地域請願に対応して、1972年にフィンランドで開始されたNorth Karelia Projectである。WHOはもちろん、地域および国の当局と協力して、地域組織および人々自身の行動を通しての包括的介入を成し遂げるため、North Karelia Projectが策定・実施された。包括的活動は、公共医療や他のサービス・学校・革新的メディアキャンペーン・地方メディア・スーパーマーケット・食品業界・農業を巻き込んで利用された。該当地域人口の危険因子は大きく減少し、その結果として、1970年から1995年まででの30~64歳の男性人口における年齢補正CHD死亡率は、フィンランド全土での65%との比較において、North Kareliaでは73%減少した。大変に順調な変化が、がん死亡率および総死亡率、人口の全般的健康に関しても見られた。1972~1977年のオリジナルプロジェクト期間後、その経験は、国家包括的活動のために積極的に利用されてきている。

 引き続いての分析が、フィンランドの残りの場所におけるCHD死亡率低下は、North Kareliaと比較して同等であることを示したことにより、North Kareliaからの順調な結果は後に疑問視された。さらに、North Kareliaは、介入以前に並外れて高いCHD死亡率を有しており、他の地域で期待され得るものと比較して、介入効果に関するより大きな可能性をおそらく提供したのだろう。また、Minnesota、Stanford、Pawtucketを含む、他の大規模心血管地域介入プログラムのいくつかも、心血管危険因子における有益な変化を示したが、対照地域における変化との比較においては、有意差を証明することでの困難さをそれらのプロジェクトも経験した。これは、おそらくある程度、情報の交差、すなわち汚染効果によるものである。さらに、先行地域介入プログラムの結果は、しばしば主観的自己報告に基づいている。統計的差異は、社会的望ましさのような潜在的バイアスによって薄められるだろう。もう一つ別の説明は、過去数十年の間に、血圧・コレステロール値・喫煙普及率での低下に対する明らかな長期的傾向が存在してきており、そのことが次々に全体的心血管リスク負担を減じてきているということかもしれない。この長期的傾向にもかかわらず、地域密着型介入は、いくつかの研究は支持していないものの、これら三つの危険因子に対するさらなる有益効果を有するというエビデンスが存在する。有利な出来事を開始し加速させることにおける予防プログラムの役割は、それでも認識されるべきである。死亡率・BMI・身体活動への効果に関する結果は、より一致しないものとなっている。

●体重超過および肥満の世界的流行増大

 体重超過および肥満は、世界的流行として現れてきており、社会に対して大きな経済的負担を課しており、ヨーロッパにおける2型糖尿病の約80%、虚血性心疾患の35%、高血圧性疾患の55%に対する責任を負っている。WHOによると、ヨーロッパにおける肥満有病率は、過去20年間で3倍になり、肥満傾向は、2005年における同年齢層で1970年代よりも10倍多い肥満者がいることから、子どもや青年において特に警戒すべきである。これらの傾向に即して、ノルウェーのHealth Survey of Nord-Trøndelag(HUNT)からの最新の数字は、今や人口の60%が体重超過と分類され、そのうちの3分の1は肥満と分類できることを示した。ノルウェーにおける肥満男性の割合は、過去20年間に3倍になり、その結果、2型糖尿病の発生率と有病率が、最近数十年でノルウェーにおいて増加している。2004年に、ノルウェーの糖尿病有病率はいくつかの集団ベース調査に基づいて推定され、9万から12万人のノルウェー人が2型糖尿病を患っていると分かった。同数程度の人が診断未確定の2型糖尿病を有していると推定された。最新のHUNT(HUNT 3)からの未公開データは、2型糖尿病発生率は、特に男性で増加し続けていることを示した。長期的には、このことが、心臓病や腎臓病のような糖尿病関連合併症の増加という結果におそらく至るであろう。広範囲にわたる複数の研究が、体重減と身体活動の両方が2型糖尿病の発現や発生率を低下させることができ、これは薬物療法よりさらに効果的かもしれないことを証明してきている。

●不活発

 身体活動は、今や全世界の死亡率に対する4番目の主要危険因子である。英国および米国からの最近の報告は、客観的に測定した場合に成人人口の95%が身体活動に対する国の推奨に従っていないことを考慮すると、身体的不活発が慢性疾患に対する最も共通する危険因子であることを示した。英国では、身体的不活発に関係する推定経費は、喫煙関係経費の5倍高く、2000年には、米国での身体的不活発の年間直接経費は、766億ドルと推定された。罹患率および死亡率に対する不活発の重要性の点から見て、身体的不活発それ自体が病気として見なされるべきである、との提案が最近されてきている。2009年に、ノルウェーの9歳児の83%、15歳児の52%が、日々の身体活動に対する国の推奨に適合した。middle schoolおよびhigh schoolに通うノルウェーの少年たちは、2005年に、授業時間外に週あたり37~43時間のパソコンやテレビの前での座位的活動を報告しており、1997年からの倍増を示している。同年齢の少女たちでは、数字は週あたり30時間であったが、やはり1997年からは倍増となっていた。一般的に、性別や年齢によって様々ではあるが、ノルウェーの成人人口の約20%は、身体活動に対する現在の推奨に適合している。

●身体活動の効果

 先行する地域密着型介入研究のほとんどは、血圧とコレステロール値を直接的に標的とするためのスクリーニングはもちろん、危険因子意識増大・喫煙減少・食習慣変更のため、保健教育を含む多因子性危険因子プログラムを実施してきた。いくつかの研究は、身体活動レベルと体重に対する介入効果を推測してきているが、これらの研究のうちのほとんどが、これらの要素に対する肯定的結果を文章としてまとめてはいない。これは、ある部分おそらく、より座った状態での生活様式の長期的傾向によるものだが、人口全体における身体活動を増大させるための完全に組織化され、統合された長期間介入の欠如にも帰するのである。身体活動を増大させることによって、罹患率・若年死亡率・医療費を低下させることに対する大きな可能性が存在する。身体活動の増大は、禁煙同様に実際に死亡率を低下させることが可能である。416,175人が関わる最近の研究において、1日15分ないしは週に90分の身体活動は、総死亡率および総がん死亡率を低下させ、個人の寿命を平均3年延ばしたのである。この極小量の運動は、すべての年齢の男女に、心血管疾患や生活様式リスクを抱える人にさえ、適用できることが見出されたのである。

 身体活動の増大が、インスリン抵抗性を増大させること同様に血圧およびコレステロール値を低下させることはよく文章にまとめられており、それによって2型糖尿病発現リスクを低下させる。さらに、定期的な身体活動は、体重を減少させ、あるいは体重増加を予防し、心血管系に対する有益効果をもたらすかもしれない。複数の研究が、有酸素能力(心肺適応能)および身体活動増大は、健康な人、そして虚血性心疾患・慢性心不全・慢性閉塞性肺疾患患者に代表される高有病率患者群の両方において、罹患率と死亡率低下につながることを文章にまとめてきている。最近の複数の研究もまた、身体活動は、メタボリックシンドローム・乳がん・結腸がん・前立腺がん・膵臓がん・糖尿病・高血圧・喘息・関節炎・骨粗しょう症・アルツハイマー病のような、様々な症状や疾病の発現リスクを40~60%も低下させることと関連あることを示した。性別および年齢に対して少なくとも平均の心肺適応能を有する人は、より低い適応能の人よりも長生きし、適応能における小さな変化でさえ、有意に平均余命を増加させ得る。興味深いことに、56,000人の男女を超えるHUNTからの結果は、週1度の活発なトレーニングが、男性に対して39%、女性に対して51%の死亡率低下と関連あることを示した。

●効果的に心肺適応能を向上させる方法

 より高いレベルの身体活動と心肺適応能増大が、非常に予防的で、他の伝統的危険因子に直面していても総死亡率低下と関連あることは文書の裏づけがある。BMIは高い可能性があるが、もし少なくとも適度なレベルの心肺適応能を有していれば、正常BMIではあるが心肺適応能がより低い人と比較しても、リスクはより低くなる。興味深いことに、先天的な低心肺適応能は、遺伝的に心血管疾患のリスク増大を伴い、心血管疾患危険因子制御においては、身体活動よりも心肺適応能がより重要なようである。最近のある研究は、心血管危険因子と心肺適応能実測値との非常に強い関連、自己報告レベルでの身体活動とのより緩やかな関連を強調している。心血管疾患およびその危険因子に対する身体活動の効果に関して言えば、用量反応があるとしても、実施される身体活動の強度が予防効果に特に重要であることは文書の裏づけがあるようである。最近再調査されたように、インターバルトレーニングのような強度トレーニングの効果は、低強度および中強度トレーニングの効果よりも優れている。このことは、身体活動に関する介入は、一般の人々における心肺適応能増大に焦点を合わせ、適正な割合の強度の身体活動を含むべきであることを示しているのである。

 インターバルトレーニングは、有酸素運動能力を高め健康を増進するために高運動強度を実施するための効果的な方法かもしれない。インターバルトレーニングの原則は、回復をさせ、再び強度運動に取り組むことができるようにさせる、低強度期と交互にされるひとしきりの強度運動に基づくものである。トレーニングの結果を決定すると信じられているのは強度運動帯における蓄積時間であることから、そのようなインターバルは、何度か繰り返されると、トレーニングの刺激を最大にするかもしれない。本研究グループにおける運動対象者からの非公式コメントは、健康な人も病気を抱える患者も、それぞれのトレーニング時間の間に様々な従うべき手順のあることが動機づけとなると感じた一方で、中程度の運動を実施した人たちは、運動時間の間中連続して歩くことを極めて退屈であると感じたことを示している。本研究結果は、有酸素運動トレーニングの心血管有益効果は、強度依存であり、高有酸素強度が低から中強度に優ることを示している。このことは、冠動脈心疾患のような確立された心疾患を抱える患者においても、心不全を抱える患者においてさえも見出されている。運動能力向上のための運動強度に関して、真の用量反応関係が存在するようで、強度運動トレーニングは中強度運動トレーニングの約2倍の効果を与える。強度運動トレーニングは、左心室構造および機能に起きる効果にも必要とされるかもしれない。さらに、心不全患者において、病理学的組織修復という逆転と、収縮期および拡張期改善は、強度運動トレーニング後においてのみ観察されたのである。

 Winettらは、有酸素トレーニングの効果のほとんどは、強度限界がわずか数分間越えられる時に獲得されることを以前に証明してきている。このことは、効果的な運動に対する時間は、実質的に減らされ得ることを意味している。実際に、最近のある研究は、単一の4分間の有酸素インターバル運動(1-AIT)を週3回、10週間実施した効果を評価した。対象者は、健康な若い男性で、若干体重超過であり、4分のトレーニング×4(4-AIT)を週3回、同期間実施した結果と比較した。1-AIT群と4-AIT群との間に、最大酸素摂取量(VO2max)、1回拍出量、動脈圧、体脂肪、空腹時血糖値に対する効果に関して、差異は存在しなかったのである。さらに、Martin Gibalaのグループからの研究は、伝統的な高容量の持久力トレーニングと通常関連のある代謝適応のいつくかが、驚くほど少量の強度運動をもって、以前考えられていたよりも速く誘発され得ることを示している。強度トレーニングおよびインターバルトレーニングに関する入手可能なデータは、これまで、健康な人と病気を抱える患者の両方に将来有望なもので、冠動脈心疾患患者のような深刻な危険因子を有する人でさえ、このような運動トレーニングに我慢して対応することができることを示している。中程度および強度トレーニングの両方を含む約200,000のトレーニングセッションを比較すると、主要な合併症のリスクは、中程度の運動と比較して、強度の運動をしている冠動脈心疾患患者において上昇することはないようである。したがって、本研究グループでは、心肺適応能を最大にするための調整された集団ベース介入において、健康増進のために強度運動を用いることに十分な経験的支持が存在すると信じるものである。これに即して、WHOは、最近健康のための身体活動に対する全世界的推奨についての報告書を出しており、強度運動の中心的役割を強調している。トレーニングの種類・持続時間・強度・週あたりの総トレーニング負荷に関して、本研究グループは、WHOの報告書で提示される指針がそのような集団ベース介入の基礎を形成すべきであると信じている。

●身体活動増大への誘い

 本研究グループは、体重超過/肥満および身体的不活発が、現代社会に対して大きな将来的健康難題を代表し、うまく統合された方法ですべての年齢層において身体活動を増大させるための大規模な地域密着型予防計画が求められる、と信じている。今日の問題は、身体活動それ自体が上述のような有益効果を有しているかどうかではない。問題は、十分なレベルの強度身体活動が人口のすべての層において獲得され得るかどうか、どのように獲得され得るかである。調整された集団ベース介入は、非感染症疾患有病率を減少させ、医療費と死亡率を低下させ、そしてまた人々の作業能力を増大させることにより、身体活動増大の公衆衛生に対する肯定的効果を説明することができ、次には社会経済的コスト削減に至るであろう。このことにより、持続可能な発展と安定を確実にするための、国内および国際的な健康政策実施と計画手段の基礎を形成することが可能となろう。

●成功的介入の鍵となる概念

 先行する大規模地域健康介入からの教訓の一つは、あまりにも多くの人々を対象にあまりにも多くのことをしようとすると、計画の焦点が失われ、1人あたりの量が低くなり、結果はしばしば期待外れなものとなるということである。集団ベース介入分野での論文を再調査すると、全体的に一致するのは、計画の大半が、地域レベルでは冠動脈心疾患危険因子保有率に対してあまり大きくはない影響しか与えないということである。効果的な介入を成し遂げるためには、人は正しいことをしなければならず、それを十分にしなければならない。このことは、例えば、正しい介入量が用いられていても、あまりにも広く焦点を合わせた介入においてであれば、財源の無駄であることを意味している。それ故に、重要な考慮すべき事柄は、介入が、正しいことを、正しい人に対して、正しい場所において、正しい時にしているかどうかである。成功を収めるためには、新しい設定において先行的介入を繰り返すのみということの代わりに、対象となる人々の社会的・身体的・経済的・政治的・文化的な独自の前後関係上の特徴を識別する必要がある。米国心臓協会からの最近の科学的声明は、身体活動促進のための介入実施法に関する、根拠に基づいた推奨を提供した。この声明では、身体活動に関する推奨に従うことを促進し一般の人々に実行可能にするために、認知行動的戦略の重要性と医療政策における変更の必要性を強調した。過去10年の研究に基づき、運動トレーニングを用いた生活様式変更を通して、個人レベルでの主要な生理的危険因子を効果的に減らす方法に関する知識は得られてきている。本研究グループは、地域全体に強度運動を導入する時期が来ていると信じるものである。

 集団において身体活動を増大するための集団ベース介入は、可能な程度まで、学校・職場・スポーツクラブ・現存する医療制度、とりわけ一般開業医といった、現存の地域構造を利用するべきである。それぞれの亜集団に対して最適条件を提供することにより、すべての年齢層での身体活動増大をめざすべきである。若い世代に対しては、この種の身体活動は、例えば、学校の教科課程において実施され得る。中年者および老年者に対しては、トレーニングは職場において、スポーツクラブの中で、あるいは地域当局によって計画され得る。ほとんどの先行大規模集団ベース介入プログラムと対照的に、本研究グループは、たった一つの焦点、すなわち高運動強度での身体活動増大の導入が、運動量に対する現在の推奨が達成されるかどうかにかかわらず、成功的介入の機会を増やすと信じている。長期介入にとっては、介入が、年齢にかかわらず、すでに不活発な人に対して効果を有することが極めて重要である。早期介入が長期展望において最大の可能性を有することから、幼年期や青年期から介入することに強く焦点を合わせるべきである。このことは、特にやりがいがあり、単純で実行可能な方法と活動が要求される。運動反応の大きさを増やすために、すべての年齢層に対して1日を通して強度身体活動を短時間実施するための様々な方法が工夫されるべきである。個人・組織・地域・社会にとって入手可能で実行可能であると認められる特定の個人のための推奨、および追跡調査の機会と組み合わせ、上述の社会構造を利用することが重要であろう。

 様々な方法の効果を評価し、それに応じて方法を調整し、取り除き、導入することが、何よりも重要である。国レベルでの方法選択を導く短期間での結果に加えて、若い年齢からの初期介入の効果を十分に評価するため、数十年にわたる効果の評価もするべきである。国内および国際的傾向の総括を含め、介入効果の完全文書化は、死因と非感染症疾患の罹患率に関する国家登録との比較を必要とする。包括的国家登録は、介入方法を対象集団の前後関係上の特徴に合わせて個別化できるように、予備知識も提供するだろう。

 さらに、疾病予防においてずっと低い注目しか集めてきてはいないが、いくつかの慢性疾患に対するリスク低下において、有酸素トレーニングと同様に効果的らしいことが示されてきていることから、ウェイトトレーニングが地域密着型介入プログラムに誘導されるべきである。加えて、ウェイトトレーニングは、筋肉量を増大させ、維持し、減少を遅らせるために重要である。このように、ウェイトトレーニングは、老齢人口を考慮した場合に特に重要となる、対筋肉減少効果を提供するのである。地域密着型介入プログラムの必須部分として、ウェイトトレーニングは、大きな公衆衛生妥当性を有するために、簡単で短く実行可能なものであるべきである。

●結論

 慢性疾患の高発生率と有病率、肥満と不活発の増加、そして医療費の増大、さらに我々の社会における老齢者割合の増加は、持続可能とは考えられない一連のなりゆきを示すもので、緊急の長期的社会的重要性を有するであろう。身体活動は、低レベルの運動能力・総死亡率・心血管疾患死亡と最も強く関連のある生活様式因子のうちに入る。身体活動増大、とりわけ心肺適応能の増大は、慢性疾患および若年死亡率に対するすべての危険因子に有益効果がある。全人口における身体活動増大を通じて、健康増進および医療費削減のための調整された集団ベース介入プログラムが、国内および国際的に緊急に実施される必要がある。

 健康利益は、強度トレーニング、特にインターバルトレーニングの形態でより大きくなるようであるので、高運動強度に特別に焦点を合わせることが強調されるべきである。

●健康のための身体活動に関するWHOの推奨(WHO Global Recommendations on Physical Activity for Healthから)

(1)5~17歳
①中程度から強度の身体活動を毎日最低60分
②60分を超える身体活動は、さらなる健康効果を提供するであろう。
③日々の身体活動の大部分は有酸素であるべきである。強度の身体活動は、週に最低3回組み入れられるべきである。

(2)18~64歳
①週に最低150分の中強度の有酸素身体活動、または週に最低75分の強度の身体活動、または中強度と強度活動を組み合わせた同等量
②さらなる健康効果のために、中強度は300分に、強度は150分に増大されるべきである。
③有酸素活動は、1回あたり少なくとも10分の継続時間で実施されるべきである。
④筋肉強化活動は、週に2日以上、大筋群を含めて行われるべきである。

(3)65歳以上
①週に最低150分の中強度の有酸素身体活動、または週に最低75分の強度の身体活動、または中強度と強度活動を組み合わせた同等量
②さらなる健康効果のために、中強度は300分に、強度は150分に増大されるべきである。
③有酸素活動は、1回あたり少なくとも10分の継続時間で実施されるべきである。
④移動性に乏しい人の場合は、バランスを高め転倒を予防するために身体活動を、週に3日以上実施するべきである。
⑤筋肉強化活動は、週に2日以上、大筋群を含めて行われるべきである。
⑥これらの推奨に適合しない人の場合は、能力と状態が許す限りできるだけ身体的に活発であるべきである。

●強度についての解説(訳者注釈)

 今回ご紹介した論文中には、運動の強度に関する定義は書かれていません。論文中で使用されている表現は、「中強度の」はmoderate intensity、「強度の」はhigh intensityとなっています。WHOのGlobal Recommendations on Physical Activity for Health(前項参照)では、「中強度の」はmoderate-intensityとご紹介した論文と同じ表現を用いていますが、「強度の」はvigorous-intensityとなっており、これがご紹介した論文中のhigh intensityに相当すると解釈することができます。

 WHOのGlobal Recommendations on Physical Activity for Healthに書かれているmoderate-intensityとvigorous-intensityは、それぞれ以下のように記述されています。

 「moderate-intensity physical activityは、絶対尺度上では、静止時の3.0~5.9倍の強度で実施される活動を指している。個人の能力に関連する尺度上は、moderate-intensity physical activityは、通常0~10の尺度上における5または6になる」。「vigorous-intensity physical activityは、絶対尺度上では、成人に対して静止時の6.0倍以上の強度で実施される活動、子どもや若者に対して7.0倍以上の強度で実施される活動を指している。個人の能力に関連する尺度上は、vigorous-intensity physical activityは、通常0~10の尺度上における7または8になる」

 しかしながら、実際にどの程度の強度を指すのかは曖昧であり、WHOのGlobal Recommendations on Physical Activity for Healthでは、2008 Physical Activity Guidelines for Americans(米国保健社会福祉省)を参照していることが分かりました。そこで、2008 Physical Activity Guidelines for Americansにはどのように記述されているのかをご紹介いたします。

(1)absolute intensity(絶対強度)
 絶対強度は、個人の心肺適応能を考慮に入れることなく、活動中のエネルギー消費率に基づくものである。活動の1分ごとに消費されるエネルギー量を指す。中強度の運動は、静止時のエネルギー消費量の3.0~5.9倍を消費する。強度の運動は、静止時のエネルギー量の6.0倍以上を消費する。

(2)relative intensity(相対強度)
 相対強度は、活動のレベル評価のために、個人の心肺適応能レベルを用いる。0~10の尺度上、座っている時が0で、最も高いレベルでの活動が10となり、moderate-intensity activityは、5または6となる。中強度の活動を行っている若者は、心臓の鼓動が普通よりも速く、呼吸が通常よりきついことに気づくであろう。活動中に話すことはできるが、歌うことはできない。vigorous-intensity activityは、尺度で7または8である。強度の活動を行っている若者は、心臓の鼓動が普通よりもずっと速く、呼吸が通常よりもずっときついことを感じるであろう。息をつがないで数語以上を話すことはできない。

(3)METs
 活動のエネルギー消費を記述するために、代謝当量METを用いる。METは、静止時に消費されるエネルギーに対する活動中のエネルギー消費割合である。1 METは、静止時のエネルギー消費割合で、4 MET活動は、体によって静止時の4倍のエネルギーを消費されることになる。

 Physical Activity Guidelines Advisory Committeeでは、中強度の活動は3.0~5.9METsと定義され、例えば、時速3.0マイルでのウォーキングはエネルギー消費量3.3METsを要するので、中強度の活動と考えられるとしている。強度の活動は、6.0METs以上と定義され、例えば、1マイル10分(時速6.0マイル)でのランニングは10 METsの活動なので、強度として分類されるとしている。

 Advisory Committeeでは、相対強度は、最大心拍数・予備心拍数(最大心拍数-安静時心拍数)・予備有酸素能力で表される適応度に関係して定義されるとしている。相対的中強度は、静止時が0%で最大活動時は100%となる予備有酸素能力において、40~59%、相対的強度は60~84%と見なしており、相対強度をよりうまく伝えるために、座っている時を0、最大活動時を10とした0~10の尺度上、5または6を相対的中強度の活動、7または8を相対的強度の活動としている。

(4)中強度の活動と強度の活動との関係
 2分間の中強度の活動は、1分間の強度の活動に相当すると考えられ、強度の活動は、時間単位において中強度の活動の2倍に相当する。

(5)注意すべき事柄
 老齢者においては、絶対強度では中強度とされる3.0~5.9METsでも、相対的強度または生理的に不可能となる。従って、老齢者においては、相対強度を用いるべきである。

(6)活動例
①子どもや青年に対する中強度の有酸素身体活動
 子どもの場合は、ハイキング・スケートボード・ローラーブレイドなどの活発なリクリエーション、自転車に乗ること、速足でのウォーキング。青年の場合は、カヌー・ハイキング・スケートボード・ローラーブレイドなどの活発なリクリエーション、速足でのウォーキング、エルゴメーターやロードバイクに乗ること、掃除や芝刈り機を使っての家事や庭仕事、野球やソフトボールのような捕球と投球を要するゲーム。
②子どもや青年に対する強度の有酸素身体活動
 子どもの場合は、鬼ごっこのように走ったり追いかけたりする活発な遊び、自転車に乗ること、縄跳び、空手のような武道、ランニング、サッカー・アイスホッケー・フィールドホッケー・野球・水泳・テニスのようなスポーツ、クロスカントリースキー。青年の場合は、フラッグフットボールのように走ったり追いかけたりする活発な遊び、自転車に乗ること、縄跳び、空手のような武道、ランニング、サッカー・アイスホッケー・フィールドホッケー・野球・水泳・テニスのようなスポーツ、激しいダンス、クロスカントリースキー。
③成人に対する中強度の有酸素身体活動
 競歩ではないが時速3マイル以上での速足ウォーキング、アクアビクス、時速10マイル未満で自転車に乗ること、テニスのダブルス、社交ダンス、一般的なガーデニング。
④成人に対する強度の有酸素身体活動
 競歩・ジョギング・ランニング、ラップスイミング、テニスのシングルス、エアロビダンス、時速10マイル以上で自転車に乗ること、縄跳び、心拍数増加を伴う連続的な穴掘りや鍬除草のような重労働ガーデニング、丘登りハイキングや重い荷物を背負ってのハイキング。

  • 「認知症 それがどうした!」電子書籍で一部無料公開中
  • Google+
  • 首都圏・関西でおなじみ医療と健康のフリーマガジン ロハス・メディカル
月別アーカイブ
サイト内検索