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睡眠のリテラシー63
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高橋正也 独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 産業疫学研究グループ部長
体を動かすと汗が出ます。タオルで拭いたり、後でシャワーを浴びたりします。火を燃やすと二酸化炭素が生じます。二酸化炭素が増え過ぎると、地球が余計に温かくなり、環境の悪化につながります。このように、いかなる活動も何らかの"ゴミ"をもたらします。その処理をどうするかはとても大事な問題です。
一日の中で長い時間にわたって起きていると、脳が活発に働きます。その結果、脳の中に老廃物が増えていきます。この老廃物を取り除くのが睡眠の役割の一つではないかと古くから考えられてきました。脳のゴミがなくなると、心身の疲れは取れると共に脳自体が守られるでしょう。
こうした考え方を科学的に確かめるため、多くの研究が行われてきています。今から3年前、「眠っている間に脳は掃除される」ということが動物実験から明らかにされました。
その実験では、起きている時、眠っている時、麻酔をかけている時に、ネズミの脳の中では老廃物がどのように処理されるかを調べました。まず脳細胞同士の間隔を測ったところ、睡眠中には起きている時より6割ほど広がることが分かりました。麻酔をかけた時も同じ位に広がりました。細胞と細胞のスペースが大きくなれば、細胞に付いている老廃物を洗い流すための体液が通りやすくなり、ゴミ掃除ははかどると考えられます。
次に認知症に関わる物質を脳の中に加えてみました。眠っている時は起きている時に比べて、その物質を脳の外に出すのが約2倍早くなることが確かめられました。前に述べた通り、掃除のためのスペースが確保されることも関係しているのでしょう。まさに睡眠中は脳の掃除が進むことを示しています。
起きている時に溜まった脳のゴミは睡眠中に効率的に処理されるというのは、とても魅力的なストーリーにみえます。ぐっすり眠れた朝は目覚めぱっちりとなり、リフレッシュ感があふれるという経験ともよく合います。短い昼寝でも、そうなります。今回の研究成果はこれからの睡眠研究を大きく刺激するはずです。
とは言え、あくまでネズミで検討した結果です。ヒトでもそうなっているかは分かりません。何より、脳の老廃物はいくつもあるので、そのいずれについても同じように早く排出されるか調べなければなりません。
また、睡眠の長さは関係するのか、睡眠の深さはどのように影響するのか、年齢による違いはあるのかなど、明らかにしなければならないことはたくさんあります。
研究の限界は多いにしても、今回のデータを見て、営業が終わった後に店の中や厨房をきれいに掃除する料理屋の風景を思い出しました。営業中はお客様がいるので、掃除はできないか、最低限のことしかできません。閉店後にしっかり掃除することによって衛生的になり、翌日の店開きに備えられます。私たちの脳も同じかもしれません。