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睡眠のリテラシー50
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高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
今年は例年より早くインフルエンザが流行しているようです。患者数は昨年9月から今年1月末までに、既に1千万人を超えました。3月まで寒い日は続くので、これからも心配です。
かかり始めは普通の風邪と似ていますが、インフルエンザでは、それから38度以上の高熱が急に出て、全身のだるさが強くなります。幸いに、良い薬があるので、発症後すぐに服用すれば治りが早まります。そうではあっても、仕事を休んだり、つらい思いをしたりしないのに越したことはありません。
予防の要としては、ワクチン接種を受ける、帰宅後にうがいと手洗いを行う、十分な休養をとるなどが挙げられます。なかでも、睡眠をしっかりとることはインフルエンザの予防にも治癒にも大事になります。
ウイルスや病原菌など外敵が体内に入ってくると、身体を守るための物質がいくつも作られます。そのうちの一つであるインターロイキン1という物質は熱を出すよう、脳に働きかけます。同時に、深いノンレム睡眠を増やします。こうすることで、外敵を効率的に退治できるような条件が準備されます。インフルエンザなどにかかり弱っていても、健康を取り戻そうとする機能は素晴らしいの一言です。
インターロイキン1の持つこのような働きは以前から認められていました。その背景を詳しく調べた研究成果が昨年、米国より発表されました。研究者たちはインターロイキン1を受け取る場所のそばにあるタンパク質の一つに注目しました。このタンパク質は特殊で、そのほとんどは脳の中でしか作られないというものです。
通常のマウス(対照群)と、特別な操作を加えて、このタンパク質を作れないようにしたマウス(欠損群)に対して、インフルエンザウイルスを与えました。すると、対照群に比べて欠損群では翌日から動きが鈍くなり、体温も低下していきました。ウイルスを与えた9日後まで生き延びられたのは、対照群では約9割であったのに、欠損群では3割にも至りませんでした。
両群の睡眠にも大きな違いが見つかりました。実験日が経過するにつれて、対照群では深いノンレム睡眠が増えたのに対して、欠損群では逆に減りました。
インターロイキン1に関連する脳内のタンパク質があるかないかによって、インフルエンザの影響にこれほどの差が生じたことに驚きを感じます。もちろん、動物実験から得られた結果ですから、そのまま私たちにも当てはまるとは考えられません。
しかし、二つの点から、今回の研究は意義が高いと言えます。一つは効果的な治療法につながるヒントを示したことです。インフルエンザウイルスは絶えず変化するので、現在、効く薬がこれからも有効であるとは限りません。
もう一つは、インフルエンザからの回復にはぐっすり眠ることが欠かせないと、改めて示したことでしょう。